第9話

今年もついに残す所ほぼ1か月となった。

1年前と比べてみると時間の経過が早く感じる。

その理由はきっと去年よりは日常生活を楽しく

過ごす事が出来ていたからだと思う。ここ最近は

リアンから私に対しての過激な

スキンシップがなかったので自分の欲求を

しっかりと抑えられるようになったんだろうと

私は信じたい。リアン達とは初めて一緒に

過ごす事となるクリスマスに向けて私は最寄りの

町で入手した雑誌やインターネットなどで

情報収集をしていた。どうやら

クリスマスケーキはペット用のもちゃんと

あるらしいので近場で購入が可能の店舗を

探している。

「シアンはクリスマスって言うイベントは

初めてだよね。これはリアンも

そうだけど。」

「話だけ聞いた事はありますけど、この時期は

イルミネーション…かな?それをたった

一度だけなんですけど前にリアンと一緒に

見た事がありますね。」

かつてリアン達が住んでいた森を抜けると

すぐ町だから確かに見ようと思えば見る事は

難しくはない。でも冷静に考えてみたら

ここら周辺はちょっと変わっている地形だ。

何故なら森と都会が隣り合わせなのだから。

汚れてしまった自分の衣服やタオルなどを

何回かに分けて洗濯カゴから洗濯機に移して

スタートボタンを押そうとした。

「これ落としていましたよ?エルムさん。」

すぐ側にいたシアンにそう言われて自分の

下着だけが床に落ちてしまっていた事に

気付いた。すぐに拾おうと腰を屈めたけれど

素早くシアンが口にくわえた。

「んっ。」

「シアン?拾ってくれるのは

ありがたいんだけど

そこまでしなくていいよ。」

急いでシアンから受け取って洗濯機に

投げ入れボタンを押す。幸いにも下着の

内側ではなく外側の方をくわえていたから、まだ

良かったけれども嗅覚が優れているから

嗅ぎたくもない私の匂いを

嗅いでしまっただろうに。

「少し変な事を聞いちゃうけど、私と

リアンだったら、どっちの匂いが

シアンの好み?」

「エルムさんとリアンですか?えっと…

エルムさんの匂いにまだ鼻が嗅ぎ

慣れてないので、今はどっちとかは

答えられませんね。」

考えてみたら人間以外の動物とは違い私達は

ボディー用の洗剤や整髪剤。香水や制汗剤などで

自分の匂いを頻繁かつ一時的に変える事が

出来てしまうしリアンよりは家族として

一緒に過ごしている時間もまだそんなに

立っている訳じゃないから当然の結果ではある。

「でも少なくともリアンの匂いって

シアン好きだよね?」

「それはまあ確かにそうですね。と言うか

リアンの事は全部が全部とはさすがに

言ったりはしませんけど、好きな所の方が

多いですよ。」

洗濯が終わるのを待つついでに物置部屋で去年に

一応使っていたクリスマスツリーを探す。

そんなに立派な物ではなく安物なので、まあ

簡単な作りのツリーではある。ちょっと気が

早いかもしれないけれど、今月の中旬には

リビングの隅っこ辺りにでも

置いとくつもりなので、すぐに運び出す事が

出来るようにしておく。しっかりとは

覚えていないけれど部屋の奥の方に

片付けたはず。重なっている荷物を適当な場所に

移動させてダンボールの箱を何個か開けると

ツリーを見つけた。

「あー、そういや飾りがないんだ。でも

とりあえず今はいいや。」

ツリーが入ってる箱を部屋の出入口のすぐ近くに

置いておく。それ以外の荷物全てを元に

あった場所に戻している時に私はふとある事に

気付いた。前回ここに来た時にはなかったはずの

ティッシュボックスの存在に。


午後14時頃にようやく午前の分の家事を

終わらせて自分の部屋で一息をついていたら

リアンが入ってきた。

「ちょうど良かったよリアン。ついさっきの

話なんだけど、ちょっとだけ気になった事が

あったから聞いて欲しくて。」

「気になる事って一体何?」

利き手で手招きをしてリアンをベットに

座っている私の隣に誘導する。

「間違っていたら悪いんだけど、もしかして

リアン?物置部屋に使いかけの

ティッシュボックスを置いたのって。」

そう言った途端にリアンは自分の身体を

一瞬だけ震わせて私から視線を外した。問いに

答えようと喋るが声が小さすぎるので残念ながら

何て言っているか聞き取る事が出来ない。これは

もう明らかに動揺している。

「その…うん。」

「そんなにびくびくしなくたってもいいよ。私

全然怒ってなんかいないし。」

「いやエルムさんに内緒に

してしまっていたから…ごめん。」

リアンが物置部屋でティッシュボックスを

使って何をしているか私はもう気付いた。だから

内緒にしてた理由も理解出来る。

ティッシュボックスを移動させたタイミングに

ついては私がリアンのためにタオルを

折り畳んで作った簡易のおむつを汚す事が

無くなった以降だと考えられるだろう。

「別にリアンは迷惑をかけて謝らないと

いけない事を

してしまっている訳じゃないんだから、そんな

謝罪とかは言わなくたっても全然大丈夫だよ。」

「そう?でも一応ティッシュボックス元に

あった場所に戻しておく。」

「いやそのままで全然構わないよ。あそこに

あったって全く支障はないから。」

ただ物置部屋は一ヶ月に一回入るか

入らないかだから自宅の他の部屋と比べて

埃っぽく少し汚ないので使わずに置くだけなら

問題はない。

「リアンが今後も引き続き物置部屋で何かを

していくんだとしたら今月中に手が空いた時間で

年末には少し早いけれど、そこだけ

大掃除でもするから。」

「有り難いって言えば本当に

有り難い事なんだけれどもエルムさんが

大変だろうから掃除は後回しにして

構わないよ。」

「私の事は気にしなくていいって。

リアンのためとか関係無く

いずれにせよ、あそこの部屋も含めて家の

掃除しないといけないし。」

今更だけどリアンに

ティッシュボックスの事を聞いてしまって

後悔している。まだ事実と

決まった訳ではないけれども少なくとも

リアンが内緒にしたかったのかもしれない

あの部屋でやっていた事について私が

触れてしまったのだから。

「私からの話はそれだけなんだけど

リアンって私に何か用あった?」

「実はその昨日物置部屋の床を汚してしまって

一応ティッシュで拭き取ったんだけれども、まだ

匂いとか残ってるかもしれないから悪いけど

掃除をお願いしてもいい?本当はもっと早く

エルムに伝えようとは思っていたんだけれども

忘れてて、ついさっき思い出してね。」

出来れば思い出すのなら、せめて午前中で

あって欲しかった。匂いに関しては私が

部屋にいた時に変な異臭だとかしなかったから

大丈夫なはず。消臭スプレーを持って

リアンと物置部屋に入る。

「ちなみに汚したって床だけ?ダンボール箱には

かかってない?」

「床だけだね。それで汚してしまった場所が

ここら辺なんだけど分かる?」

リアンがティッシュボックスが

置かれている所を指差しして私に教えてくれた。

その周辺を消臭スプレーを何度か噴射して水気を

含ませたティッシュペーパーでしっかりと拭く。

昨日に汚れたばっかりであるから、わざわざ

床用の洗剤なんて使わなくても

問題はないだろう。

「この部屋って見ての通り常にカーテンを

閉めっぱなしにしているから薄暗いけれども

もし過ごすのに不便なようだったら開けるけど

どうするリアン?」

そう私は聞いたのだけれども返答が

返ってこないので後ろを振り返ってみると

ツリーが中に入っている箱が物珍しいのか

リアンはじっと見つめている。だから再度

声をかけてみると、ようやく自分が

話しかけられていた事に気付く事が出来たのか

私の方を向いて首を縦に数回振った。

「話が変わるんだけどさ?ちょっと前に起こった

シアンとの間のアクシデントの件で

リアンには本来ならしなくても構わない

努力をしてもらってるよね。」

「努力って言えば確かに

努力だけれども…うん。」

「その努力する事をリアンに

強要させている状況を作り上げた私がこんな事

言ったら絶対に可笑しいとは

思うのだけれども。」

ずっと開けっ放しにしていたドアを閉める。

今話している事は私としてはシアンの耳に

入れたくないので。

「今辛くない?リアン大丈夫?」

「辛くないって言えれば良かったんだけれども

正直に話してしまうけど辛いね。」

「私がまだリアンと同じ性別である

男性だったとしたら、どんな事でも

相談しやすかっただろうけれど。」

まだデネラと言う同性の知り合いが

いるのだから、いいのだけれども。ただその

知り合いに性の悩みについて

話せていないんだろうなと普段のリアンを

見ると分かる。

「本当に…本当にさ?嫌らしい事をしている僕を

好きでいれている?しつこく聞いて、ごめん。」

「好きだから、そんなに難しく

考え込まなくてもいい。性の処理って

誰だってする普通の行為だから。まあなかには

家族や知り合いの性事情に対して不快感を抱く

人達もいる事はいるけれども少なくとも私は

違うから。」

でも最近自分の事をおせっかいでリアン達の

色んな事に干渉してしまっているなと思う事が

ある。 あー今年は黒歴史確定だ。

「そう言ってくれているエルムさんの事を僕は

早く信じたいのだけれども、どうしてもね。」

リアンが深く溜め息をつく。未だに

自分の中で性についてリアンは上手く消化

出来ていないのであろう。現時点では私にもう

リアンに出来る事はもしかしたら

何にもないのかもしれない。

「…リアンが少しでも早く私達を

信じられるように効きそうなとある一つの

おまじないをかけてあげようか?」

「えっ、おまじないって…っ!!」

まだ話は終わっていなかったが私はリアンの

口を自分の口で塞いで黙らせた。久しぶりに

する事なのでリアンは酷く慌てているように

見える。どんどんと後ろに

逃げられていってしまうので口を塞いだ状態の

ままで前に前にと追いかける事を続けていたら

早くも壁際に追い込んだ。もう逃げる場所が

無くなったリアンは私の肩を前足で軽く

何度も小刻みにリズム良く叩いてきたので

すぐにリアンから私は身体を離す。

「今のは…ズルい。エルム…ううん

エルムさんからって。しかも不意打ちって。」

後ろの壁に寄りかかって両足で口をしっかりと

押さえているリアン。前屈みの体制かつ私に

キスをされた直後だからなのか下腹部から

赤い色の生殖器の細くなっている先端だけ外に

出てしまっている。リアンの言った通りで

確かに不意打ちでしかもちょっと

強引であったと自分で思う。

「今のがおまじないだとリアンが

分かりにくかったら悪いね。私が言いたい事は

ずっと一緒に暮らしている

家族であったとしても嫌っていたらキスなんて

絶対にしないから。」

「分かった。分かったけど……馬鹿。」

この場合なら馬鹿だって言われてしまっても

当然だろう。それにしてもリアンに面と

向かって私の悪口を言われるなんて

初めてな気がする。

「不意打ちでキスって駄目だよ。心の準備

出来てなかったし。」

「それはごめん。次からは気を付けるから。」

軽く謝ったがリアンは私と壁の間を器用に

すり抜けドアを開けた。私としてはまだまだ

話したい事があったんだけれど

まあ仕方がない。

「一人になりたいから、いいかな?エルム。」

リアンに従って、すぐに廊下へ出る。

シアンが来る以前の時みたいに部屋の中を

しばらくしてから覗いてしまったら一体

どうなるんだろうな。でも昨日部屋の床を

汚してしまう様な事をしたのだから

もしかしたらリアンはただ

ぼーっとしているのか何か考え事を

しているんだろう。人に言えない事を

行っていると言う想像は私の

考えすぎかもしれない。

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