第8話
私が野良犬の時に住んでいた森はとても広い。何故なら、山と
繋がっているからだ。川や湖もあり、エルムさんにその事を
話してみたら、今度皆で行こうかと言ってくれた。幅が狭い
川を飛び越えて、坂道になってきた辺りである犬に出会った。
「シアンじゃない?今日も私に会いに来てくれたの?」
「ラフィーさん、そう言う事は男の子に言ったら?」
私達の知り合いであるラフィーさん。毛の色は薄紫色で、まるで
シャム猫そっくりの外見をしているけど、何と犬である。
ラフィーさんにはルエナさんと言う、いい感じの男の子がいる。
つまり私とリアンみたいな関係だ。
「男の子?じゃあ次はリアンと一緒にきて?」
「いやその男の子は駄目ですってば。ラフィーさん。」
「冗談よ。でもリアンには本当に会いたいから。」
悪い人ではないんだけど、冗談を言う…人をからかう所が
ある。実際本当かどうかは分からないけれど、人生経験が
豊富らしいので、ちょっと相談相手になってもらっている。
正直に言ってしまうと、リアンとの事について
話すんだったら、エルムさんよりはこのラフィーさんが
もしかしたら、いいのかもしれない。
「ラフィーさんの方は進展はあったの?」
「進展?誰との?」
「もうー…ルエナさん!!ルエナさんの事だよ」
まあこうなるのも分かる。私達とは反対で、どうやら
ルエナさんの方がラフィーさんに恋をしているらしい。
「シアン。私とルエナをくっつけたがるのって
私にリアンを取られるかもって、思ってるからなの?」
「いや…そんな事ないけど、ラフィーさんぐらいの人だったら
リアンはもしかしたら、夢中になるかなって…。」
「シアンは?私の事…どうなの?」
尻尾で身体を引き寄せられて、ラフィーさんに寄りかかる体制に
なってしまった。ラフィーさんの片前足が私の背中を抱く。
「私は貴女の事は好きよ?リアンより先に貴女に
会いたかった。私…貴女に好かれてるリアンが
羨ましい。」
「み、耳はやめ…。」
「耳は駄目なの?じゃあ…私の貴女への想い…貴女の身体に
教えてあげる。」
耳元で囁くのを止めたと思ったら、突然押し倒された。
「それはもっと駄目だって‼」
「じゃあ私の事をリアンだと思ってみて?貴女が好きな
好きな男の子。」
「出来ないよ。」
「リアンに対して、強い想いがある貴方なら出来るわ。
目をつぶって、リアンの事を考えて?」
ラフィーさんに言われた通りにする。何時どのタイミングで
何をされるか分からなかったから、身構えていたけど
時間が経過しても、そのままだった。私が少しだけ安心して
落ち着いてきた頃にラフィーさんが私の頭を撫で始めた。
「僕だよ…シアン。」
「…っ!!」
「僕の声が分かる?」
ほんの一瞬だけど、ラフィーさんの声がリアンの声に
聞こえた気がする。いや、気のせいだと…思いたい。
「シアン?」
「…ふ、リアンじゃないよね?」
「僕はリアンなんだけどな。」
今度ははっきりと聞こえた。声を聞けば聞く程リアンの
声に聞こえてくる。私は今日出掛ける前にリアンの姿を
確認した。ここにはいないはずなのに、どうして!?
「え、ラフィーさんは?ラフィーさんは何処にいるの?」
「ここにいるのは僕とシアンの2匹だけだよ?」
「本当に?」
目を開けると、やっぱりラフィーさんがいた。いや
当たり前なんだろうけど、私はちょっと期待してしまった。
「リアンじゃなくて、がっかりした?」
「そんな事…ないよ。」
「やっぱりシアンは可愛いわね。私…男の子に
生まれたかったわ。そしたらシアンに好きに
なってもらえたでしょ?」
にやにやと笑いながら、私から身体を離すラフィーさん。
「ラフィーさんは悪ふざけが過ぎるよ。」
「ごめんね。でもシアン…全く抵抗しなかったわね。」
「出来れば、それは言わないで欲しいよ。」
どうせ今回もいつもの冗談だと思った。だから抵抗する
必要なんてないと、私は判断した。
「貴方が今の私ぐらいの事をリアンに出来るくらいに
積極的であったら、リアンだって貴女の想いに
気付くんじゃないのかしら?」
「どうなんだろう?でも少し試してみてもいいかな。」
「今リアンの周りにはエルムって言う人間の異性しか
いないとは言え、昔の東北地方の北海道では異種族の間で
結婚していた記録があるくらいだから、今の状況に決して
安心してはいけないんだからね?」
そう言えば、私達喋る動物が初めて発見された場所は
北海道と聞いた事がある。ラフィーさんが今話した事と関係は
きっとあるんだろう。
「実は安心していました。ごめんなさい。」
「いい?私達犬は人間より寿命が短いのよ。だから出来るだけ
早く異性を見つけて、子供作る方がいいと思うわ。私は。」
「ラフィーさんは気になっている…もしくは好きな異性いるの?」
私にこれぐらいの事を言うんだから、ラフィーさんはきっと
いる。いやこれでいなかったら、ルエナさんが浮かばれない。
「いるかいないかは、シアンの想像に任せるわ。ただ
好きな同性なら私の目の前にいるんだけど。」
「それは友達として好きって意味だと考えていいんだよね?」
「まあそれはいいじゃない。この話はこれで終わりに
しましょう。それよりあのエルムって言う家に私を
連れていってくれないかしら? その人間に興味あるし。」
ラフィーさんの発言に私は少し嬉しくなった。ただよく考えたら
私の例もあるから、ラフィーさんにエルムさんを会わせるのは
ちょっと危ないのかもしれない。いいや多分大丈夫。
「ラフィーさん? どんなにエルムさんが綺麗で美人でも
私の事を一番に好きでいてね。」
「ん? ごめんなさい。今のもう一回言ってくれないかしら?」
「な、なんでもない‼私についてきて。案内するから。」
私は自分が言った事に対して、恥ずかしくなってしまい
早足で自宅に歩を進めた。今みたいな台詞はリアンに
言えたら、どんなにいいだろうか。
「エルムは彼氏彼女とかはいるのかしら?」
「いないね。エルムさんの知り合いに一度も会った事は
ないから、友達もいないんだと思う。」
「恋人はまだ分かるけど友達も? 孤独な人ね。」
エルムさんは人見知りな所がある。私達犬に対しては全然
そんな事はない。私が知らないだけで、エルムさんにも
知り合いと呼べる人はいるはず。往復で数km歩いたので
少しだけ疲れたけど、ようやく帰宅した。家の中を見ると
リアン達以外に見覚えのある犬の姿が見えた。
「あれって…デネラ!?」
「奇遇だけど、タイミングが悪いわね。シアン?
私今日は止めとくわね。また別の日に誘ってちょうだい。」
「う、うん。ごめんね? ラフィーさん。まさかリアンが
私と同じ様にデネラを誘ってるとは思わなかったから。」
ラフィーさんの言う通りだ。よりにもよって、どうして今日
デネラが家にいるんだろう。何て事を考えていたら
私達に気付いたリアンが鍵を外し、窓を開けた。
「シアンお帰り。それとラフィー久しぶりだね。」
「ただいま。ラフィーさんが一度家に来てみたいって
言ったから連れてきたけど、デネラもいるんだね。」
「う、うん。今デネラはエルムさんと部屋に行って
2人で何か話しているよ。」
リアンの言う通り、いつの間にかデネラの姿が
見えなくなっていた。
「エルムって言う人間の姿見たかったけど、無理みたいね。
まあいいわ。リアン? シアンから色々
聞かせてもらってるわ。この家での生活の事とか。」
「ラフィーの方はルエナと仲良くやっているのかな?」
「…貴女達は揃いも揃って、全く同じ事を私に
聞いてくるのね。まあ、それなりにね」
しばらく3人で話していた。ラフィーさんが自分の住み処へ
帰っていったと同時にデネラがエルムさんと一緒に
私の前に姿を現す。リアンと一言かわすと
開きっぱなしのリビングの窓から外へ飛び出た。私が名前を
呼ぶと、デネラは私が居た事にようやく気付き驚いた。
デネラとも別れ、数時間ぶりに私は家の中へと入った。
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