第7話
犬は鼻が敏感である。数十cm下に埋めた物でも匂いを嗅ぎ、地面を
掘って見つける事が出来るのだ。犬は賢く、飼い主に対しては
従順である。簡単な芸なら、すぐに覚える。…でも私エルムは
リアン達にお手やちんちんを教えていない。それと躾も
していない。普通の犬ではないからだ。
「ではリアン達は犬と言えるのか?」
実は犬の皮を着た人間だったりするかもしれない。それか人間の
脳を動物に移植して、その影響で喋れるようになったとか?
「まあそう言う事は後世の人達に解明してもらうしかないよね。」
多分私はその前に亡くなるだろうけど。そう言えば喋る以外にも
人間に近付いている所があるのだが、寿命とかは
変化してるのだろうか?私としてはそれだけが知りたい。
「人間の知り合いがいない寂しい私にとって、リアン達は
とても有難い存在だから。」
いやさすがに家族はいるだろって言われそうだけど、私には生みの
親の記憶がない。本当に全く。実は去年入院していたのだけれど
入院する以前の記憶が思い出せなくなっていた。医者に聞くと
歩道に倒れていてたと言う。ちなみに傷、怪我は
見当たらなかった。事故や事件に巻き込まれた訳でもないのに
記憶喪失したのだ。
「その後すぐにリアンに会ったな。」
連絡が取れなかったのか、病院にいる間に家族は一度も
来なかった。一人娘が入院しているのに。もしや私は
施設出身なのかと、何度か思った。
ただいまと言って自宅に入り、台所に向かうと
「えーと…誰だろう?」
リビングの床で寝ているリアンの隣には、まるで
ハリセンボンみたいな毛並みをした犬がいた。
「リアンの知り合いなんでしょうけど…。」
そういやシアンの姿が見えないけど、外に
お出掛けでもしてるのだろうか。
「リアン達もだけど、この子も犬種分からないな。雑種?」
念のためにリビングの窓の鍵を確認すると、ちゃんと
ロックされていて、しかも肉球を拭いたと思われる汚れた
雑巾が置かれていた。
「さて今度のお客様は雄なのか、雌なのか。」
冷蔵庫に食品を入れ、ついでに軽く整理する。その時に立てた音で
リアンが起きてしまった。
「ただいま。その子は知り合い?」
「おかえり。うん、雄でデネラって言うんだよ。」
よく大阪で泥沼に沈められたり、主にチキンを取り扱ってる店舗の
キャラに似ている名前だ。
「じゃあ男友達なんだ。シアンとも知り合いなのかな?」
「そう言う事になるね。」
何となく今の会話って、友達連れてきた子供に色々質問する
親みたいだと、私は思った。
「いや私まだ若いし、お腹痛めてないし。」
「エルム…さん?」
リアンですら友達や気になる異性がいるのに、私って
本当に孤独な奴だ。
「恋人はともかく、友達がいないのはね…。」
「え、エルム。」
今確かにリアンが私を呼び捨てにしたのを聞いた。
滅多にない事で最近言ってくれるようになった。ただまだ
恥ずかしいのか、声が小さい。
「何か用かな?リアン。」
「よく分からないけど、エルムさんには僕達家族がいるでしょ?」
暗い内容の一人言を聞いていたらしく、リアンは私に気遣いの
言葉をかけてくれた。しかし一つ問題がある。あと何年家族で
いてくれるかどうかだ。つまり寿命的問題である。現在
リアン達は何歳か分からないけど、少なくとも大人だろう。
「そうだね。リアンは私とシアン。あと自分の家族も
いるから、いいよね。」
「それはエルムさんだって、そうでしょ?でも僕はもう長い事
両親に会ってないな。」
リアンもそうだったようにリアンの両親も
野良犬のはずだから、もしかしたら保健所って事もある訳だから
動物って可哀想だ。
「私も最後に顔を見たの何年も前だよ。だから今実家が
どうなってるか分からないよ。」
テーブルには何時から冷蔵庫に入っていたのかが不明である野菜が
数個ある。もちろん全て賞味期限をとっくに過ぎてしまっている。
「あー…、無駄にしちゃった。もったいないな。何とかして何かに
使えないかな?」
「野良犬だった僕から言わせてもらうと、前にそれより
もっと不衛生な物を食べていたよ。」
じゃあリアン達に食べさせればいいとか一瞬
考えてしまった私がいた。
「って事は、もしかしたら現在進行形で野良犬をしている
あの子にあげたら食べる?」
「食べると思うよ。それくらい食に飢えてるしね。基本的に
何でも食べれるみたいだし。」
呼吸を止めてから、テーブルにある食材を生ゴミ用の
ポリバケツに捨てる。
「あの子まだ寝てるみたいだけど、何時間前に
ここに来ていたの?」
「今は12時だから…10時ちょっとかな。エルムさんが
出掛けて、すぐだよ。」
リアン達と違って、このデネラは警戒心はないと私は
思う。初めて来た人間の家でこんなにぐっすり
寝ていられているのだから。いや別に
迷惑ではないけど、少し驚いた。家主に一言も
挨拶しないで寝てるだなんて、この子は
きっと将来大物になるだろう。
「起こす…のは悪いから起きるまで、この子は
このままにしとくとして、今ご飯準備するから。」
ご飯の用意が出来たから、リビングに持っていって
リアンに声をかけた。
「ん?そっちはもしかして、デネラの分かな?」
「うん一応ね。お客様…ううん、リアンの友達だから。」
「ふーん。」
まるで、この時を待っていたかのタイミングでデネラが
起きた。突然だったので、少しびっくりしてしまった。
「おはよう、デネラ。今エルムさんが君の分のご飯を
用意してくれたんだけど、どうする?」
「どうするって何も決まっているだろ。」
デネラは私の方に身体を向けて、頭を下げた。
「すみません。挨拶もしないで、寝てしまって。俺は…
まあ聞かされていると思いますが、リアンの友達で
名前はデネラです。」
「よろしくね。私はエルムって言うの。リアンと
仲良くしてくれて、ありがとう。」
シアンの時も思ったけど、リアンの知り合いは
本当に礼儀正しいと私は思う。そして予想していた通りに
デネラは人に慣れていた。こちらとしては助かる。
「良かったら、ご飯を食べていって。私が勝手に
用意してしまったから、無理にとは言わないよ。」
「いえ頂きます。会ったばっかりの俺のために
ありがとうございます。」
そしてリアンの言った通り、余程お腹が空いていたのか
あっという間にデネラはご飯を食べ終わった。おかわりは
必要かと聞いてみると最初は遠慮していたが、リアンが
「デネラ遠慮しなくてもいいよ?野良犬の食の事情の事は
エルムさん分かってるから。」
「そうなのか?…エルムさん、おかわり貰えますか?」
私は頷き、デネラの器にフードを入れた。食事が
終わった後、デネラだけ私の部屋へ来てもらった。
「何ですか?リアンに内緒の話ですか?」
「ごめんね。えと…デネラはシアンとも
知り合いって聞いたけど、リアン達は仲いい?」
私より長い付き合いで、2匹には聞きにくい事を聞ける
デネラが来たんだから、この機会を逃したくない。
「それってつまり…恋愛的な意味ですか?」
「ど…うして、そう思ったのかな?」
「何となくですよ。そうですねー…俺から見ると
シアンは色んな意味でリアンの事が好きですね。」
意味深な解答が返ってきた。多分デネラは
シアンをよく見てるんだろう。
「色んな意味ね…じゃあリアンの方はどうかな?」
「リアンの奴はもう完全に友達として好きでしょう。」
そんな話をしていたら、シアンが帰ってきたらしく
リアンがそれを伝えに、私の部屋へ来た。デネラと
一緒にリビングへ向かうと、シアンがお客さんの
デネラに気付いたらしく、びっくりしていた。その後は
3匹で少し話をして、デネラは家を出たと
リアン達に私は伝えられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます