強盗殺人

 どうせ誰も読まないだろ。

 だから文章なんて適当でいいんだ。

 どうせ誰も読まないんだから。

 どんなに頑張って書いたって、何度も何度も読み返して、誤字を探して変な表現を探して推敲を重ねて書いたって、誰も読まないんだから。

 いや、PV数二桁くらい行くことだってあるけど、どうせ最後まで読んでないだろ誰も。

 これだってそうだろ? もう読んでないだろ誰も? わかってるんだ……。

 だからタイトルも適当でいいよな。タグだって内容と関係なくても別にいいよな。ジャンルも全然違ったって問題ないだろ。

 だってどうせ誰も読んでないんだから。

 いや、無心で運営さんがそういうのだけはチェックして読んでくれてんるのか? ご苦労様です。でも、そしたら運営のチェックなのか、閲覧数の内一は。

 まあ、いんだ。なんでもいいんだもう。

 今、俺の前には包丁がある。

 一人暮らしを始めた時、実家から持って来た錆びた包丁だ。

 包丁の先端に一指し指をあてると、その付け根くらいのところに大きな丸いサビがある。茶色いやつだ。腐ったカエルの卵みたいだな。そんなもん、みたことないけど。いいんだ、適当で。

 今、それを左手で持って見ながら、右手でノートパソコンに文字を打ち込んでる。息を吐いたら、包丁の刃が一瞬くもってすぐ晴れた。汚い包丁だ……。

 今から俺は、これで腹を切ろうと思う。

 死ぬなら割腹かっぷく自殺って決めてたんだ。もう疲れたんだよ。

 まあ、正直死ねる自信はないけど。痛いって聞くし。どうせちょっと切ってもう無理だってなるんだ。俺にそんな度胸はないからな。わかってるんだよ。

 でもいいんだ。やれるとこまでやってみる。

 で、それを文章で実況するんだ。そう、どうせ誰も読んでないけどもし誰かが読んでるなら、今まさにアンタが読んでるのがこれだ。

 これを書いてる今、その結末がどうなるのかは俺にもわからない。どうせ誰も読まないんだから、誤字とか探す気もないし推敲もしない。

 だから、これを書いてる今、結末がわからない俺しかこれを書いてない。

 俺はもう一度黒い柄を握り直す。ああ、一度包丁を脇に置いてたんだ。書いてなかったな。まあ、どうでもいいか。どうせ誰も読んでないんだしな。

 俺はシャツを脱ぐ。どんな柄で、デザインで、肌触りか。そんなこと、どうでもいいよな。だって誰も読んでないんだから。

 息をするたびに、俺の腹が脈打つようにうねる。少し前にカップ麺を食ったばかりだから、痩せた腹だけど、今は少し出てる。へそがちょっと汚いな。毎日洗ってるんだけどな。なんて書いたら気持ち悪いか? まあいいか。誰も読んでないんだから。

 肌寒い。俺は包丁をぐっと握った。案外右手だけでも打てるもんだな。

 でも、聞き手じゃないと力入んないよな。

 俺は包丁を右手に持ち替える。売ってるのは左手だ。

 ああ、予想以上に打ちづらい。変換も面倒だ。

 でもいいよな、どうせ誰も読んでないんだから、なんでも。

 いよいよ包丁を腹にあてる。冷たい感触に思わず腹がへこむ。

 緊張で胃の辺りが気持ち悪くなってきた。上半身裸なのとは関係ない寒さが、俺を緩やかに襲っている。

 俺は包丁の刃を腹にぴたっと当てる。ぴたっと当てた。当てて、当てて、当てている。

 ひんやりとした、ちょっとチクッとした感触が、俺の脇腹に触れている。

 刃の感触はチクッとしている。もう切れたか? もう切れたか? もう切れたか? 全く切れてないのに、ちょっと痛い。俺の手は全く動かない。

 どうするか? もうやめるか? でもまだ何も切れてないぞ? ちょっとだけ切るか。でも、どうするか? ここでやめて面白いか? でも、どうせ誰も読んでないのに、読まないのに切るのか? 意味あるのか?

 ビクッと体が震えた。よかった、腹は切れてない。俺は安心して包丁を置いた。

 ドアチャイムが鳴ったのだ。ピンポーンと、音を鳴らして。

 俺の張りつめていた緊張は切れて、腹は切れてなくて、チャイムはもうならなくて、包丁がそこにあって、俺はぼーっとドアの方を見てた。

 なんだろう? 荷物が届く予定はないし、出なくていいか。俺はそのままだらんと座り込んでいた。

 馬鹿なことしようとしたもんだよな。俺は包丁を掴んで、また置いた。

 寒い。シャツを着る。白いシャツだ。読んでみたこともない英語が書いてある、適当なシャツだ。もしかすると英語じゃないかもしれないけど、そんなことはどうでもいい。誰かから貰った、ただの部屋着だ。着心地はまあ、悪くない。普通の綿の肌触りのやつだ。

 小説書くのなんて、もうやめるか。どうせ誰も読まないし、なんで俺小説なんて書いてんだ。

 好きだったんだよな昔から。妄想するの。漫画の敵とかを俺ならどうやって倒すかとかさ。オリジナルの能力とか考えて。そういうのがさ、好きだったんだ。

 それを形にしたくなってさ、人に見て貰いたくなって、反応が欲しくなってさ。

 どうすっかなぁ。なんか。どうすっかなぁ。やっぱ、書きたいなぁ。

 なんて考えてたら、ガタンとベランダで音がした。さっきから隣の人が洗濯物でも干してるのかなとか思ってたけど、ネコなのか、なんなのか。うちのベランダから音がした気がする。今までそんなこと一度もなかったけど。

 青いカーテンを睨みながら、俺はブラインドタッチで文字を打つ。打ててるか?

 窓が揺れた。ベランダの窓が揺れた。割れた? いや、これtt











二〇二一年 二月 五日  着想

二〇二一年 二月 七日  執筆






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短編

『強盗殺人』

https://syosetu.org/novel/249706/


 どうせ誰も読まないだろ。

 だから文章なんて適当でいいんだ。

 どうせ誰も読まないんだから。

 (中略)だからタイトルも適当でいいよな。タグだって内容と関係なくても別にいいよな。ジャンルも全然違ったって...(続きはリンク先)

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午前11:13 · 2021年2月7日·Twitter Web App

https://twitter.com/naoki88888888/status/1358237409167609858

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 一昨日おうちでヨルシカさんの『だから僕は音楽を辞めた』を歌っててああってなって今さっき書いた。

https://twitter.com/naoki88888888/status/1358237409167609858

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午前11:16 · 2021年2月7日·Twitter Web App

https://twitter.com/naoki88888888/status/1358238148187222016

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木村直輝の雑多な短編集 木村直輝 @naoki88888888

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