夢日記(無題・恋なんて皆無)

無題


 こんな夢を見た。

 夢の中では私に好きな人がいる。私は中学三年生で、修学旅行に行ったりと日々の生活を過ごしているが、彼女とは一行日関われない。

 受験も終わった或る日、前にも体験したはずの行事を再び体験した。

 其れは皆で絵を描くという行事だった。私と一緒にいた友達〓〓は何故か筆で全て黒く塗り潰してしていて、私も其れを手伝った。

 私の好きな人は、筆で「栞」という字と「暁」という字を書いていたが途轍もなく下手だった。

 そんな中、友人〓〓が彼女に何かオタクっぽいアニメをDVDで撮るとかいう話をした。彼女は嬉しそうに其れに答えた。

「すごい。」

 何が凄いのか私にはさっぱり解らなかったが、其の事よりも彼女が其のアニメを知っている事に私は驚いた。

 と、其の時、何故か突然彼女も私の事が好きだと云う様な空気になった。

 そして彼女は、一緒にいた友人にあれを渡したいと言った。まもなく其の友人が、紙粘土で小さい子が作った様な作品を幾つか持って来た。

 彼女は微笑みながら、其の内の一つを私に手渡した。傘の様だ。傘にしては太かったが。彼女は、自分はおひめさまだ、此れは婚約の証しだと言った。そして、更に紙粘土で出来た物をイヤリングと称して耳に掛けてきた。更に、円錐状の紙粘土で出来た物を帽子と称して頭に乗せてきた。まだ紙粘土の装身具は三つ程有ったが、電話が掛かってきて、彼女は国事と電話とどっちを優先するべきか迷っていた。

 その後、彼女は結婚後の話をしてきた。子供の中学校は自分たちが通っていた中学校と同じ所で良いよねと聞くと、彼女は言った。

「だからあなたはだめなのよ。」


 私は目が覚め掛けた。やっと好きな人と結ばれたのだから、まだ夢の続きを見る事も出来たのだが、私はそうはしなかった。


二〇一〇年四月一日



――――――――――――――――――――――



《big》恋なんて皆無/big


 高校生だった私は、同年代の見知らぬ何人かと撮影をしていました。どういう経緯で撮影をしているのか、何を撮影しているのか、撮影したものをどうするのか、何もわかりませんでしたが、私達は何かドラマのようなものをきっと撮っていたのです。校庭なのか公園なのか屋外で、素人の私達はカメラを回し青春を謳歌していました。

 青春に恋はつきもので、私もその中の一人の女子に恋をしていました。

 夢に登場する人物がいつのまにか何の違和感も与えずに全くの別人に入れ替わっているということはよくあることのように思われますが、彼女もそうだったように思います。彼女は途中まで、夢の外では顔見知り程度の同級生だったように思われますが、途中から架空のキャラクターがまるで本の中から出て来たかのような人物に入れ替わっていました。古味直志氏の漫画『ニセコイ』の登場人物である小野寺小咲というキャラクターに、容姿も性格もそっくりだったのです。

 彼女に恋する私は、撮影の最終日を迎えていました。撮影活動は終わり、終わってしまえば呆気なく私達は解散となりました。私は得も言われぬ寂しさの中、彼女を思い切なさを増長させていました。

 なりゆきというものは時にイタズラなもので、私と彼女は一緒に帰ることとなりました。まったくのなりゆきで、自然な流れでそうなったのです。

 二人きりで帰路を行く私達の会話はとてもはずみました。絶えず笑い、絶えず楽しく、私達は束の間の幸せを歩んでいました。

 彼女も、私のことが好きだったのです。不思議なもので、私は彼女の気持ちをその辺りで知っていました。本人や誰かから聞いたわけでも、心が読めるわけでもないというのに、夢の中ではしばしばそのような不可思議な出来事が起こるものです。私は、いいえもしかすると夢の中の出来事を俯瞰していた私は、彼女の気持ちを知っていました。

 互いに共有していた気持ちは、互いへの恋心だけではありませんでした。この上ない今の楽しさも、このまま別れてしまえばもう二度と会うことができないとわかっていたのも、私達は同じでした。

 彼女は私のメールアドレスを知っていました。というのも、撮影の関係で以前ほかのメンバーから聞いていたはずだったのです。しかし、今日が終わってしまえば特にこれといってメールをする理由もなくなってしまいます。今、一歩踏み出す勇気のない私達に、いいえこの場合は彼女に、その不自然を犯す勇気があるはずもないのです。私の方もそれは同じであり、それ以前に彼女の連絡先を知りませんでした。故に私達はわかっていたのです。このまま別れてしまえば、もう二度と会うこともないのだということを。

 束の間の途轍もない楽しさと、あと少しのもどかしさと切なさを胸にする私達は、そこで偶然に見舞われるのです。

 彼女の母親が通りかかりました。若々しく美人な彼女の母親は、快活とした人柄で、ニヤニヤと笑いながら彼女に言いました。

「何、あんた彼氏いたの?」

 そんな風だったと思います。

「俺なんかが彼氏なわけないじゃないですか。」

 私は内心そうであったらどんなにいいだろうと思いながら、確かそんな言葉で笑って否定しました。彼女の方も焦ったように照れ否定しながらも、慣れ親しんだ母の前だからでしょうか。

「まあ、私にとっては魅力的な人だけどさ……」

 そんな具合だったと思います。本音がつい口から出てしまいました。直後、彼女はあわてて今のは違うと否定しました。まるでラブコメのような、それは甘美なひと時でした。

 彼女の母はそれをどう捉えたのか、一足先に家路を急ぎ、私達は暗い夜道で再び二人きりになりました。

 もう、二人の別れは目前でした。彼女が使う駅が、目前に迫っていたのです。少しでも引き伸ばしたかった私達は、どちらからともなくコンビニに寄ろうと言い出しました。この期に及んで一歩踏み出せない私達は、ただ別れを先送りにすることしかできなかったのです。

 しかし、そんな二人に偶然は甘くありませんでした。偶然とはその顔をころりと変えるもので、思いもよらぬ幸せをくれることもあれば、その逆もまたあるものです。

 コンビニで、先程までの賑やかな会話も少し落ち着いた私達は、束の間の引き伸ばしをゆったりと楽しんでいました。しかし、そこで偶然にも彼女の知人と顔を合わせたのです。彼は年上の、若い男性でした。彼と彼女が恋仲でないことは、私にもわかっていました。これもまた夢の中によくある不可思議というものです。しかし、二人は仲のよい友人で、彼は彼女に一緒に帰ろうと言いました。

 彼女はうまい言い訳も思いつかず、断ることもできずに、何か言いたげな風でありながらも最後には彼の誘いに応じました。互いに言いようのない切なさに襲われ、それでも顔では平然と最後の別れを交わしました。呆気なく、二人の別れは訪れたのです。その時は瞬く間に終わってしまいました。

 私はコンビニの入り口近くで駅へと向かう二人の後姿を見送りました。すっかり暗くなった夜闇が私を包み込むようで、そんな私の前で遠ざかっていく二人は街灯に明るく照らされて、彼女が顔をほころばせ、楽しそうに笑い合って……。

 薄暗い孤独に途方もない切なさが湧き起り、所詮自分は彼女とついこの間知り合ったばかりで、もう二度と会うこともない、そんな関係なのだと胸がつらくなりました。

 彼女達は光の中へもう見えなくなっていました。諦めは、私の中で育ってはくれませんでした。

 その時になって、やっと私は動きだしました。先ほどまでの臆病が嘘のように、私のとめどない切なさは私を駆り立て、抑えきれない思いで私は走りました。彼女を追って、私は駅に向かって走りました。そのさほど長くはない道を、少しでも速くと走りました。


 駅に辿り着いた私は、目の前にいくつもの改札を見て、その奥に彼女の姿を探しました。そこに人は沢山いるというのに、彼女の姿はありませんでした。私はもう、二度と彼女に会えないのです。もう、決して会うことは出来ないのです。

 私は改札に背を向けて、一人歩き出しました。


 目が覚めた私は、しばらく夢の中の私そのものでした。午前三時の布団の中で、私は一つの失恋を経験し、途方もない切なさに胸はつらくてやみませんでした。

 私は再び眠りについて、再び目覚めて起きてからも、切なさに胸がつらくて仕方がありませんでした。

 私が夢の中の失恋したばかりの私でなくなってからも、私は切なかったのです。私は生涯、こんな恋を経験することはないのだろうと。私はそれが切なかったのです。



二〇一八年 九月三〇日 

二〇一八年一〇月 二日 公開

二〇一八年 九月三〇日 最終加筆修正


※この小説は、私が二〇一二年九月四日に書いた夢の記録を大幅に加筆修正したものです。

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