第15話 襲撃
金髪のフード男と対峙する。
ただ、今日はフードを被っていない。
まだ時間は16時頃、
この時間にあのフードとローブ姿は不審者メーターの針が振り切れてしまうだろう。
よく見るとこいつ、金髪に染めてるだけだな。根本が黒い。
プリンを食べたくなってきた。
なんて、余計なことを考える暇はなかった。
ヤツの右脚によるハイキックを左腕でガードする。
強い衝撃が来たが、ガードできる。
前は当たったら死ぬ予感しかなかったが、今なら急所を避ければ多分問題ないだろう。
「おいおい、前回と随分違ェじゃねぇかよ。まだそんなに日が経ってねぇだろうに」
「男は三日あれば変わるって言うだろ、前の礼を言ってなかったよな、そういえば」
こいつにはかなりムカついている。主に家に帰れないことに。
あと、ゲーセンに行けなくなったことと、飯がワンパターンになったこと。
風呂も不自由だし、服も手で洗って干して着回しだ。
トイレも神社まで行って虫が蛍光灯に集まってるようなところでしなきゃいけない。
ヤバい、考えてて更にムカついて来た。
右手に持ったペティナイフをヤツの懐に潜り込んで腹を目掛けて突き立てる。
ヤツは左側へ半身になって躱した。
これまでのパターンから多分ヤツは次も蹴りを繰り出してくるはずだ。そこを狙う。
「はン、物騒な武器まで持って、いっちょ前じゃねぇかよ」
ヤツはそう言いながら思った通りそのまま右脚でローキックを繰り出して来た。
だが低すぎる。これでは狙えない。
仕方ないのでバックステップで避ける。
が、見てからだったので回避が遅れて足を掬われてしまう。
『異能』の防御が効いているからダメージは殆どない。
ただ、転んでしまったのは失態だ。
「威勢がいいのは口だけかぁ?」
そのまま俺の頭を目掛けてかかと落としの構えだ。
身体柔らかいな、こいつ。
顔に足が付くくらい振り上げてやがる。おかげで何するか丸わかりだ。
ヤツが右脚を振り下ろすのに合わせてナイフを突き上げる。
ついでに『異能』も追加で込めている。
「ぐあッ!! 痛ェ!!」
ヤツの右腿にナイフが刺さった。
加えた『異能』のおかげか、肉を裂く嫌な感覚と共に刀身の半分ほどナイフが埋まった。
そのままナイフを刃のある右へ振り抜いた。
その勢いを利用し、俺も右側へ転がる。
即座に起き上がり、ナイフを構える。
ヤツは右脚を押さえて冷や汗を流しながらこちらを睨んでいる。
よく見えないがそれなりにダメージがあったのだろう。
ヤツの押さえている右腿が赤く染まってきた。
「今なら勘弁してやってもいいんだぞ? 帰れ」
俺はそう言った。ナイフで人を傷つけたのが気持ち悪い。
思った以上に心理的にダメージが来る。
ヤツが動けないという余裕からか解らないが、とにかく気持ちのいいものではない。
帰れというのはある意味、懇願に近かった。
傷付けただけでこれだけの影響があるのなら、命のやり取りは多分俺には無理だ。
「ほざけ。ノコノコと帰ってられっかよ」
ヤツは歯を食いしばって立った。
右脚に殆ど力が入っていないだろう。
震えているように見える。
「手当しないとまずくないか? やっといて何だけどかなり血が出てるだろ?」
「黙ってろよ、テメェを連れてかねぇと俺のメンツが丸つぶれなンだよ」
どうも退くつもりはないらしい。
どうしたものか……よく見ると『異能』で右脚を庇っているように感じる。
出血を抑えるのにやってるんだな、参考になる。
だが……他のところが手薄になっているのは間違いない。
「そうか、どうあっても退く気はないか」
困ったな。気絶させて拘束するか。
周りを見ると都合のいいことに廃工場内に太めのワイヤーを巻いた大型ロールが1つある。
あれを使って拘束すれば『異能』でも抜けられることはないだろう。
そう決めた俺は一気に間を詰めた。左腕で拳を作り、ヤツのボディを狙う。
菊川さんから習った『
が、ヤツはそれを右腕でガードする。
よろけはしたが、しっかりガードされている。
ここは流石か。『異能』の使い手としては俺より先輩だもんな。
「クソッ、痛ってぇな……」
傷に響くんだろうか、顔を歪ませてヤツが呟く。
左手でパンチを繰り出して来た。
右脚を負傷している痛みのためだろうか、パンチとしての威力は、ほぼない。
『異能』が込めてはあるが、弾き返すことのできる弱々しさだ。
俺は右手のナイフを左手に持ち替え、右手で掌底を作り、右腕で奴のパンチの軌道をずらした。
そこから右脚を後ろに下げ、体勢を低くして力を溜め、ヤツの左顎目掛けて掌底を繰り出した。
右の掌からヤツの左顎に完全に衝撃が伝わった。
今の俺にできる、これ以上ないヒットだと思う。
ヤツは白目を剥いて倒れた。
急ぎ、ワイヤーを用意して奴をぐるぐるに縛る。そのまま、工場の鉄柱に括り付けておいた。
ヤツの右の腿は強めに布を巻いて止血しておいた。多分これで問題ない……だろう。
止血なんてしたことないからよくわからんけど、これで止まってくれればいい。
一息つきたいところだが、菊川さんは2人を相手しているのだろう、急いで加勢しないと。
周りを伺うと打撃と衝撃音が少し遠いところから聞こえる。
方向からして廃工場のすぐ外だろう。
急いで俺はそちらに向けて走り出した。
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