第14話 "Power or Control"

 昼食を取った後、テレキネシスの訓練だ。

 前回の課題、コントロールとスピードの両立を目指す。

 今のところはどっちかしか出来ない。


「菊川さん、これもう誤射しない前提で複数飛ばすのはどうです?」


「なるほど、無差別射撃か。考えたが敵との距離差があると不利になるぞ?

 やはり狙撃と偏差射撃は出来るに越したことはない」


 だよな……狙って撃たないと意味ないよな。


「面制圧という点では大量に撃てば効果はあるのだがな。

 試しに高尾みたいに5発同時に撃ってみたらどうだ?」


 アヤがそういや5発同時に撃ってたな。


「やってみますね」


 そう言って俺はパチンコ玉を5個取った。

 『異能』を込める。イメージはとにかく「速く」だ。

 十分にイメージが固まり、『異能』を込めた後、発射する。

 一応ターゲットに当たるようにはイメージを入れている。

 5発の弾は手の平に乗せた間隔のまま、ターゲットと明後日の方向に飛んでいき、ハンマーで鉄板を叩いたかのような音が周囲に響き渡る。壁に当たった音だ。

 菊川さんが頭を掻きながら感想をくれた。

 

「まとめてターゲットと違う方向に飛んでいったな。面射撃としては効果を発揮しないな」


「そういう残酷な事実は見て解りますからいいですよ……俺のイメージの作り方が変なんですかね」


「『異能』自体がよくわからない力ではあるからな、得意と苦手が出やすいことはある。オレ自身、肉体強化による格闘が得意だしな」


「でも射撃もかなりの威力がありますよね」


 この前見た射撃では十分な速度があったはずだ。


「スリングショットで出せる速度くらいだからな。当たっても『異能』で防御していれば大したことはない。

 不意打ちで撃って多少傷をつけるか、牽制程度にしかならんだろう。

 あぁ、限界まで『異能』を込めたらそれなりにダメージはあるだろうが、俺には向いていない。それよりも肉体を強化して殴った方が強い」


 確かに俺の手で受けて問題なかった。だが、あれは意識してたからだしな。


「一般人には十分脅威でしょうけどね。というかどれだけ強いんですか、菊川さん」


「一応組織の中では近接戦闘は強い方だとは思っている。だが、搦め手を使ってくる相手にはどうもな。

 前に中堅どころと言ったのは搦め手に対応し辛いからだ」


「搦め手……どんな能力ですか?」


「トラップ系の『異能』は厄介だ。動きを止められるような、な。

 戦闘中で足を引っかけられるような単純な物から、事前に仕掛けられている地雷のような兵器もな。

 物理的な攻撃も強ければダメージを当然受ける。それと『異能』によっては温度変化などもある。

 これも使われるタイミングによっては大ダメージとなる。低温は気付かない内に身体が鈍ったりするからな。

 同等の能力者相手だとそれだけで致命的だ」


「戦いってよく起こるんですか? 訓練で必死であんまり詳しいこと聞けてませんでしたが」


 あまりに物騒な例えが多すぎる。


「そうだな、敵対組織……名前を『エクソダス』と言うのだがそことはよくやり合う。

 『異能者』は性質上、迫害されることもあるからな。

 異質なものを排除するというのは人間の本質でもある。

 そうやって迫害された者がテロ組織として暗躍しているんだ」


「迫害、ですか。確かに人と違うことを排除するというのはわかりますね。イジメとかそうですし」


 多少強い程度の『異能者』なら数人でボコボコにできるだろう。

 俺なんて相手が格闘家だったらタイマンでも負けるだろうしな。

 菊川さんは説明をさらに続ける。


「そうだ、イジメの本質は違うことの排除が要因として大きい。

 俺たちは会社として『異能』を使った厄介事や、自然災害を解決することを生業としている。

 表向きは一般企業だがな」


 なるほど、そりゃ敵対もするだろうな。

 思想が違うと争いが起きるだろう。


「『異能』は世間には知られているものなんですか? 俺はあまり聞いたことがなかったんですが。

 超能力はインチキと思ってましたしね」


 スプーン曲げとか予知能力とかあの辺りはインチキだと俺は認識していた。


「多少『異能』が発動してる人間なら触らずともスプーンくらい曲げられるだろう?

 シュウジはもうできるはずだ。他にも固有能力はいくつかあれども、テレビなどでは見ないだろう。

 一応、能力者が判明しても接触して隠すことにしている。それか『エクソダス』の奴らが拉致してるかだ」


「俺もそいつらに拉致されそうになったということですね」


「恐らくな。相手はどこかよく解っていないが。

 それと肉体強化さえ出来れば簡単には拉致できない。拘束するものを壊したりできるからな。

 テレキネシスも合わせればそうそうは無理だ」


「仮に拉致されたところで言うことを聞かせるなんてことが出来るんですか?

 俺はかなり抵抗すると思うんですけど」


「拉致さえ出来てしまえばな。奴らに洗脳の『異能』を持った奴がいる。

 『異能』が『発現』する前の人間なら簡単に洗脳できるという情報がある

 それなりに確度の高い情報だ」


 洗脳とかヤバ過ぎるだろ。拉致られなくて良かった……

 そう思った瞬間に菊川さんの表情が変わった。

 


「シュウジ、気をつけろ。近くに『異能者』がいる。3人だ。

 距離は300mほど、神社の方角だ」


「菊川さんの仲間という可能性は?」


「ほぼない。今日に誰か来るなんていう話は聞いていない。

 そんなに人員を割けるほど『異能者』は多くない。

 そもそも来る前に連絡を寄越すはずだ。スマホはあるんだしな」


 敵……なのか?


「どうしましょう? 菊川さん」


「逃げるのも手なんだが……シュウジが多分逃げ切れないだろう。

 迎え撃つ。アヤに連絡しろ」


 返事もせずにアヤに対してスマホでメッセージを送った。

 内容は【敵、3人組が来た。戦う。場所は工場】と書いた。


「アヤの予定聞いてませんでしたけど、近くにいるんですかね?」


「オレも聞いていない。聞いていないということは自宅だろう。

 ここから3kmくらいに家があるからアヤなら時間は掛からんだろう……が5分は最低かかるはずだ」


 まじかよ、相手は3人、こちらは菊川さんと俺。

 俺は戦力的に足手まといだろう。


「シュウジ、腹を括れ。防御に回ればすぐに倒されることはないだろう。

 後は造ったナイフを使え。それはかなり有効だ」


 俺の造ったペティナイフか。そうだ、さっき作ったものも持っておこう。

 俺が準備を終えてナイフを構えた瞬間、何かが高速で飛んできた。

 とっさに避けたが、掠った右頬から一筋の血が出る。

 多分石か何かだ。


 菊川さんが、目にも止まらぬ速度で廃工場から外に出ていった。

 疾い! と思ったその瞬間、入り口から影が一つ、こちらに飛びかかってきた。


 (くそ、どうすればいいんだ……)


 言われた通り、身を守るしかない。拐われて洗脳なんかごめんだしな!

 俺は覚悟を決めて、飛びかかってきた影からの蹴りをバックステップで避けた。

 

 そこに居たのは、以前俺を襲った金髪のヤツだった。

 ヤツはゆらりと構えて俺にこう言った。


「よぉ、会いたかったぜぇ」

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