第13話 "He's Lost Control"

 鉄の棒をナイフに変化させることには成功した。

 『異能』を込めるとナイフも『異能』が篭もることはわかった。

 長さが欲しいところだというところで、刀を作成しようと思ったのだが……

 全く成功しない。

 1kgほどの鉄を探して来たのだがこれに『異能』を込めて変化をさせようとしても全く変化しない。

 イメージは長い包丁だ。この場合はどうしても直刀になってしまうが仕方がないと思っている。

 しかし……だめだな。篭めるEPが多分足りない


 俺は持っていた鉄の塊を放り投げた。

 EPの残りも3分の1ほどになった。

 しょうがない、食事にするか。

 ブロック状の栄養補給用クッキーを食べる。

 口の中の思い切り水分が取られるが、仕方ない。

 最近こればっかり食べてる。買い出しとかも危険だからだ。

 アヤがたまに弁当を買ってきてくれるが、今日はなかった。


 菊川さんは同じ栄養補給用のクッキーを食べているが、ビーフジャーキーも食べている。

 ごっついからなぁ、あの人。あんなのでタンパク質足りるのか?

 付き合わせてしまって申し訳ないが……家で護衛してくれてもいいんじゃないかな。

 あ、訓練が出来ないか……襲撃されても嫌だしな。

 ここが良いってのも最初に言われてたのを忘れてた。帰りたくてしょうがない。


「菊川さん、そろそろ『異能値』も上がってきたんじゃないですか?

 後どれくらいで家に帰れるんです?」


「オレの目算だが、もう8000を越えているだろうな、テレキネシスでパチンコ玉を飛ばしてみてくれ」


 言われた通り、パチンコ玉に『異能』を込め、射出してみる。

 が、スピードが全然乗らない。

 のろのろと、しかし落下することなくターゲットには命中する。

 はっきり言って見て避けられるだろう。


「……だめだな、これでは遠距離攻撃ができない。

 遠距離からの攻撃でやられてしまうぞ」


「ですよね……何でか解らないんですよね、速度もできるだけ速くと思っているのですが」


「『異能値』は目標に達しているし、伸びもいいからシュウジは強くなるとは思うんだが……

 そのテレキネシスはまずいな。テレキネシスが上手く出来ない能力者も少なくはないんだが、大抵は『異能値』の不足からなんだ。EPを出し惜しみしているわけでもないのだろう?」


「ええ、それなりに強く入れていますしね」


「今、思ったのだがコントロールに力を使いすぎていないか? よくよく考えると的の中心に当たっているからな。」


 確かにそれは考えてもなかった。コントロールもパワーを消費するのか。


「シュウジ、ちょっとコントロールを度外視して速さをイメージして射出してみてくれ」


「はい、やってみます」


 パチンコ玉に『異能』を込めてイメージを固める。速く。ただ速くだ。

 アヤの言っていたようにトリガーを意識して速さをできるだけ高める。

 頭の中でトリガーを引き、飛べ!! と意識してパチンコ玉を放った。

 

 玉は飛んでいった。とんでもないスピードで。

 ただし、的からは全然違う方向だ。的の5メートルほど右上を一瞬で通過し、壁に当たる。

 壁は鉄で出来ているので、鉄板をハンマーで打ったかの音がした。


「速いな。今の速さなら十分以上だ。時速200km近く出ていたと思うぞ。

 ただ、コントロールが全くできていないな」


 まぁ、速く飛ぶことしか意識しなかったしな……


「ここからコントロールも意識してやってみてくれ」


 ということでコントロールを意識してやってみたのだが……


 3時間後。



「ここまで上手くいかんとは思わなかったな」


「申し訳ないです……」


 そう、全く駄目なのだ。速度が速いか、コントロールが良いかの二択だ。

 酷いと全く違うところに勢いよく飛んでいくこともある。


「誤射が危険過ぎる。コントロールはつけてくれ」


「はい、訓練しておきます……」


「もうEPも残り少なそうだし、寝るぞ」


 菊川さんは寝袋を広げて寝る準備を始めた。

 俺も寝ることにしよう。




◇◇◇




 翌朝、今日は9月23日、日曜日だ。

 時間は7時30分、いつもの時間だ。

 別に早起きする必要もないのだが、もう早く家に帰りたい。

 もう目標までほどんとのところまで来たのだ。

 ただ、結果が出ていない。


 ペットボトルの水で顔を洗い、味気ない食事を取り、歯磨きをした。

 よし、気合を入れてやろう!


「菊川さん、すみませんね、約2週間も付き合わせてしまって」


 そうなのだ、俺が帰れないのと同時に菊川さんも帰れていないのだ。


「そう気にすることはない。オレも訓練と任務のうちだ」


「訓練? 何をされているのですか?」


「周囲の警戒だ。この周囲を警戒している。常時警戒するというのは割と大変でな。

 眠っていても誰かが来ないかはしっかりチェックをしている」


「えっ? 眠っていてもわかるのですか?」


「あぁ、オレはわかる。だがそれも神社の裏の階段下までが限界だったんだ。

 それを伸ばしたくて試している。今は神社の裏の階段の上辺りまで伸ばせるようになったぞ」


「かなり範囲が広いんですね」


「凄い奴は1km周囲くらい探知できるぞ。ただ、情報が多すぎるとEPを無駄に消費するがな」


 とんでもない距離を探知できるんだな。


「菊川さん、今日の訓練はどうしましょう?」


「テレキネシスの練習だな」


「試したいことがあるんですが、ちょっと今やってもいいですか?

 ちょっとEPの消費が激しい可能性があるので」


「なるほど、やりたいことはやってみろ」


 菊川さんの許可を取った。

 俺は長さ60cmくらいの鉄パイプを探してきてそれに『異能』を篭める。

 あるイメージで鉄パイプを加工する。

 

 上手くできた。ないよりマシな程度かも知れないが、鉄パイプも武器の一つとしたい。

 それに合わせるようにいくつかの鉄材を加工しておいた。

 ま、実験するに越したことはないだろう。

 後で試そう。

 EPを3分の1程度消費はしたが、良い物が出来たとは思う。実効性があるかだが。


「菊川さん、出来たのでテレキネシスの訓練をやってみます」


「ああ、頑張ってくれ。オレは見ていることしかできんがな」


 見ているだけとか言いながら、適切なアドバイスをくれるんだけどな、菊川さん。非常にありがたい。

 ではテレキネシスの訓練を開始しよう。


 俺は時間の許す限り昼まで訓練を続けた。

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