第10話 テレキネシス
ということであれから一週間、訓練を続けた。
『異能値』は当初の2000程度から今は4000程度、目標の半分くらいだ。
この目測は菊川さんにお願いしている。
だが、伸び悩んでいるのは確かだ。アヤの一撃を食らっても吹き飛びはしなくなったが、攻撃しようとすると手痛い反撃を食らう。
出来ることが防御のみ。これでは勝てない。
「菊川さん、何かアドバイスないですかね……」
「オレと戦ってみるか? そういえばまだ組み手をやってなかったな」
「それって大丈夫なんですか? アヤにすら手も足もでないのに」
菊川さんの強さは本物だ。アヤとの組み手を見たが、アヤが一方的に押されて拳を寸止めされての降参だった。
「シュウジは防御に向いてるんだろうな、防御の上手さは光っているぞ」
「全く褒められている気がしないですよ……」
何かいい攻撃方法はないものか。
「とりあえず組み手をやってみよう、オレがまずは受けに回ってみるからシュウジ、本気で打ってこい」
う、本気かよ。
「わかりました、お手柔らかにお願いしますね?」
そう言って距離を取る。
「では、このボルトを投げる。落ちた瞬間が開始だ」
菊川さんが落ちていたボルトを放り投げる。
ボルトが落ち、金属音が鳴った瞬間に俺は距離を詰め、左手で掌底を打つ。
当然のことながら菊川さんはその場に居ない。
左側へ半身をずらして俺の掌底を回避していた。
菊川さんの右のストレートが飛んでくる。
俺は右手でそれを払い、左足で蹴りを入れる。
菊川さんが右膝でそれを受け止める。
その上げた右足で俺の胴を薙ぎ払ってくるが、バックステップで距離を取り、避ける。
蹴りを外したところに開いた腹を目掛けて俺は一歩踏み込み、右足で蹴りを入れる。
その蹴りは菊川さんの右肘と右膝の挟み込みで防がれた。
まずい、挟み込まれた右足がびくともしない。
瞬時に挟み込まれた右足を軸にして左足で菊川さんの首を狙い、蹴りを入れる。
しかし挟み込み込まれていた右足を離され、バランスを崩して床に転がり落ちた。
即座に起きようとしたが目の前に拳があった。
「降参です、菊川さん」
「シュウジはこの一週間で強くなったな。元々格闘技やってなかったというのは本当か?」
「ええ、菊川さんとアヤのおかげですね」
土日は基本の格闘術以外、一日中組み手やってたようなものだしな。
痛みを感じるような打撃は全部『異能』で受け止められているが、『異能』がなかったら俺の顔は手術が必要なくらいにボコボコにされているだろう。
「一応『異能』でのガードと攻撃は出来ている。が、まだ出力が足りてないな。オレ相手には本気を出していいんだぞ?」
「そんなこと言われても俺は本気でやってますよ」
嘘じゃない。格闘術については本気で覚えたし、込めてる『異能』も必死で絞り出してる。
「格闘術は一旦休むか。『異能』のみで戦う技術も少し教えておきたい」
「この一週間、格闘術ばっかりやってきたのでそっちも知りたかったところです」
「格闘術は基礎としてやってもらっただけではない。『異能』のコントロールとしてうってつけだったからだ」
これは何度か聞いている。『異能』は『覚醒』したばかりでは暴走する可能性があるから危険だとも。
暴走した場合、大抵は死ぬ。よくて障害が残ることがあるそうだ。
菊川さんは話しながら箱から沢山の玉を取り出した。パチンコ玉?
「見ての通りパチンコ玉だ。これをテレキネシスで飛ばしてもらう」
「どこから持ってきたんですか……じゃあ、あのターゲットで練習ですか」
一週間前に菊川さんが実演したシューティングターゲットを見る。ちょうど50メートルくらい向こうに設置されている。
どうやって飛ばすのか全くイメージできないので尋ねてみた。
「テレキネシスのやり方が全くわからないのですが」
「そうだな、『異能』が自分の力として把握できているか?」
「ええ、自分の身体の中心当たりから湧いてくる力みたいなものを血のように身体の外を循環しているイメージですね」
「人によってややイメージが違うが、血流や気流のように何かが流れているイメージが殆どなのでそれで正しいだろう。
で、テレキネシスによる射撃だが」
そこで言葉を切って菊川さんはパチンコ玉を一つ手にとった。
「このパチンコ玉に対して力の流れを持っていく。物質に対して『異能』の力を流すのは少しコツが要るがやってみるのが一番だろう」
パチンコ玉を摘んだままの状態でパチンコ玉が急に菊川さんの手から消えた。
鈍い音を立ててシューティングターゲットを貫通する。
「まずは玉に対して力を流して覆う。それが飛んでいくことを想像しながら意識を的へ突き刺すように念ずるんだ」
試しに俺もパチンコ玉を持って力を通してみる。
異物に対して力を通すのは初めてだが、すんなり玉を力で覆うようにできた。
それを、シューティングターゲットに向け撃ち抜くイメージで切り離してみた。
すーっ、とターゲット側に飛んでいき、10メートルくらいの位置で金属音を立てて落ちる。
飛びはしたが……手で投げた方が強いなこれ。
「一発で飛ぶとは思わなかったぞ。後は練習だな。普通は飛ばせるようになるまで数時間かかったりするんだが」
持ち上げすぎじゃないか? 自分を特別視してしまうから、そういうの辞めて欲しい。
「『異能』が使えるという事実自体が俺にとってすごくイメージしやすいんですよ」
「ふむ、まぁ見ているからどんどん撃ってみてくれ。身体がだるくなってきたらすぐ辞めるんだぞ」
EPが少なくなるとだるくなるもんな。
俺はこのまま延々と射撃の訓練を続けた。
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