第11話 万能ではない『異能』

 テレキネシスの訓練を始めて3日。

 『異能値』は7000近くまで上がった。テレキネシスを使うと『異能値』が上がりやすいらしい。

 3日ほどで一気に上がった。

 今日も今日とて廃工場で訓練だ。


 ただ、問題は……

 テレキネシスが上手くならない。どうやっても手で投げた方が早いのだ。


「込められる『異能値』はそれなりに高いのだがな」


「どんなイメージで撃ってるのよ、そんな飛び方おかしいわよ」



 菊川さんとアヤの話を聞いて考えてみる。

 もう一度イメージを組み直して飛ばす。多分前よりはマシだ。

 まっすぐゆっくりとターゲットまでは飛んでいく。コツンと音を立ててターゲットに当たる。

 貫通はしない。当たるだけだ。

 玉のスピードも早くて40km/h程度だろう


「ちょっと貸してご覧なさい」


 アヤがパチンコ玉の袋から5個取り出した。

 そのまま彼女の手の平に置いて『異能』を込めだした。

 今ならほんのりわかる。アヤの込めた玉の圧力が違う。

 威圧感というか、危険な感じが伝わってくる。


「パチンコ玉にはこの時点で『前に飛べ』という命令をかけているわ。

 それに私はトリガーを心の中に置いてるの。『放て』という命令ね。これももう既にかけてあって、後は引くだけ」


 アヤはそのまま玉をターゲットに向かって放った。

 放った瞬間には何も感じなかった。

 速度は多分100~150km/hくらいだろう。

 重い音を立てて5個のパチンコ玉がターゲットに当たる。

 6~10の表示で円周の外から6、中心が10だ。

 10に2発、9に3発。これが人なら多分大怪我だ。

 俺はアヤに感想を言った。


「ごめん、何もわからなかった。俺も前に飛べと念じてるぞ。トリガーはそんな意識してなかったけど」


「はぁ? せっかく見せて上げたのに。ま、『異能』の発動は人によってイメージが違うから自分でコツ掴んでよね」


「……アヤってさ、割となんていうかストレートに物言うんだな。今更ながら意外だよ」


「学校では貴方にあまり触れないようにしていたからね。任務上仕方ないでしょう? 接触は控えた方がいいもの」


「どうして?」


「前にも言ったと思うけど、接触を控える指示があったの。

 それに能力者が能力者候補に干渉すると『異能』が暴走する可能性もあるからよ。

 自然な『発現』をしないと危険なの。前にも言ったでしょう?

 そういう意味ではシュウジは危なかったわ。少し無理矢理な『覚醒』だったからね」


 アヤは視線を廃工場内の中にある天頂が破れた、人が入れる大きさの玉へ移した。

 俺が以前作ったと思われる球体だ。


「アレね、おそらく鉄で出来ているわ。磁石がくっつくし。

 ただ、あそこまではっきりした物を生み出すのって、何か代償があってもおかしくないのよ。

 前にも聞いたけどシュウジ、あなた身体に変調とかない?」


「特にないな、普通に『異能』も使えてるし『異能値』も上がってきてるんだろ?」


「そうなのよね。おかしいところが見えないのよ。でも『異能』は物理法則を無視できるものではないの。

 『創造』とかは無理なのよ。物質が消滅するってどういうことかわかる?」


 俺は考えてみる。物質が消滅。どこかへ持っていくってだけなら簡単だよな。


「移動させればいいんだから、大したことじゃないだろ?」


「それは違うわ。移動ではなく消滅よ。

 物質の消滅って1gの質量があれば、それによって発生したエネルギーでここらへん一帯は周囲1kmは間違いなく焼け野原ね。

 あれだけの質量が消滅するとそのエネルギーで日本が消滅する可能性すらあるのよ。

 つまりね、あれだけの物質を無から創造するとなると逆に同じだけのエネルギーが必要なわけ。

 『E=mc²』の式は有名ね。相対性理論から生まれた公式よ。これは9年くらい前に正しいと証明されたわ」


 ちょっとアヤが何を言ってるかわからない。

 物質を消すだけでそんなに厄介なのか?


「消滅ってそんなに大変なのか?」


「ええ、あたしが何か物を失くしても絶対にこの世にはあるのよ。ボロボロになったりしようともね。

 この世から物質を消してしまうとなると膨大なエネルギーが生まれるの。それは逆も同じ。

 だから貴方があれを創造するとなると膨大な『異能値』とEPが必要なの。

 ということであの鉄球がどこから来たかなんだけどね」


「意識してやったわけじゃないしなぁ。でもあの時、すごい脱力感があったな」


「人体に含まれる鉄の量、調べたんだけどせいぜい5g程度なのよね。シュウジの血から創られたわけでもなさそうだしね」


「じゃあ何なんだろうな。周りに鉄材は大量にあるけど……これらじゃないか?」


 廃工場は機材などが放置されている。鉄は大量にあるのだ。


「そうね、それでも大概なんだけど。代償があってもおかしくないレベルよ。

 鉄を球形にして綺麗に固めてるわよね? これを作るエネルギーを考えてみたらいいわ」


「『異能』って何でも有りなんじゃないのか?」


「違うわ。この世の物理法則に逆らう形にはなるけど、エネルギー保存の法則や質量保存の法則は『異能』でも適応されるの。

 ただし、『異能値』やEPのようなものはどこから来てるかよくわかってないものだけどね。

 EPを消費して様々な現象を起こすわけよ。

 適応している能力は何かわからないけど、シュウジの場合は鉄の球が出来たのだから物質操作かしらね?」


「そういやEPについてよくわからないのだけど。射撃をやってもあまり疲れないんだよな……」


「EPの量が半端じゃない多さなのかもね。

 適応している固有能力が何かわからないけど、鉄を何かに変化させる訓練をしてみても良いかも。菊川さん、どうかしら?」


 菊川さんは何をしているのかと思ったら筋トレをしていた。

 さすがだな。


「そうだな、射撃に不安はあるが撃てるには撃てるわけだしな。試してみるのも良いかも知れん」


「決まりね、じゃあ固有能力の訓練をしてみましょう」


 楽しそうだし、とぼそっとつぶやいたな、アヤ。

 まぁ……固有能力と聞くと興味がないというのも嘘になる。

 物質操作、できるのなら地味だが面白そうだ。

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