第7話 『異能』の基礎(1)

 校門から出ると菊川さんが居た。


「何も問題はなかったようだな」

「ええ、多少は警戒してたんですけどね」


 警戒しておけば最悪逃げるくらいはできるかも知れないしな。


「とりあえず風呂だな、そんなに遠くないから歩いて行こう。クルマはそこに回してある」

「クルマがあるんですか?」

「ああ、オレは新島にいじま市に住んでいてな。今回はクルマでここまで来た」


 新島市。ここから電車でもクルマでも2時間程度かかる、人口100万人を超える大都市だ。俺の母親もそこで働いている。


「へぇ、菊川さんは新島市に住んでるんですか。近くて遠い感じですよね」


「ここからは山をいくつか越えないといけないからな。シュウジにも卒業後に来てもらうことになるだろう。大学に行くなら新島市内の大学にするといい」


「進学とか何も考えてなかったですね。今の所あんまり成績は良くないので新島大学とかは厳しそうですけど」


 ちなみに新島大学は国立大学で、それなりに難易度は高い。学部次第ではあるが。

 などと、雑談をしながら歩くと着いた。 

 小高い山になっているところに建っている温泉旅館だ。そこの別棟の温泉が入泉料150円だそうだ。

 割とリーズナブルなのじゃないだろうか?


「俺はここにいる。もうさっき入ってきたからな」


 あぁ、そうなんだ。じゃあありがたく入らせてもらおう。


◇◇◇


 とりあえず温泉は気持ちよかった。だけど着替えは欲しいな。


「菊川さん、今戻りました。ちょっと着替えたいと思うんですが無理ですかね?」


「そうだな、シュウジの家に戻るのはお勧めできない。近くに服屋があるからそこで買っていくか?」


「そうします。お金は一応現地でATMがあったはずですし」


 ここからクルマで15分程度の場所にあったな、確か。では、お言葉に甘えて。

 竹山市では同じ場所にショッピングモールのように店舗が並んでいる。

 そこで服一式、生活用品を買い込んで廃工場へ戻る。もう時間は17時30分を過ぎたところだ。


 「さて、夕食にする前に訓練を開始するか。その前に軽く知識の話だ。知識はあったほうが『異能』のイメージがしやすい。『異能』はイメージしたことが実現するからな」


 菊川さんはノートと電気カンテラを用意して説明をしてくれた。


「さて、シュウジの『異能』の力だが、大まかに言うと基礎値が2000くらいだ。一般的な能力者で基礎値は1万くらいだから、今のところ2割の力しか発揮できないと思ってくれ。

 で、2週間で最低でも8000、能力者の一般の8割くらいまでの仕上がりになってもらいたい」


 現在2割。意外と高くないか? そんなパワーが発揮できているようには思えないが。


「もちろん、2000と言ってもちゃんと力として発揮できていないからな。まずは『異能』の基礎値を上げることと、出力を上げることを目標とする」

「出力、ですか?」

「あぁ、『異能』の『発現』のことだ。『異能』を現象として発揮することを『発現』という。上手く『発現』できれば基礎値が低くてもそれなりに戦える」


 なるほど水鉄砲と消火用ホースとじゃ全然パワーが違うもんな。


「具体的にはどのように鍛えるんですか?」

「まずは『発現』からやるのがわかりやすい。強化はほぼ誰でもできる『発現』だ。自分の力が強くなったとイメージしてこれを潰してみるといい」


 菊川さんから缶コーヒーの空き缶を渡される。

 まずは強く握ってみよう。……うん、潰れた。一瞬でひしゃげた。


「それじゃ駄目だ。指二本で潰してみるように」


 指二本……やってみるか。お、簡単に潰れるぞ。ぺったんこになった。明らかに力が増えてるみたいだ


「それで『異能』の出力としては50くらいだな。それをちょっと貸してくれ」

「はい」


 俺は菊川さんに板状になったコーヒー缶を渡した。そして菊川さんは指二本で器用にそれを畳んでキューブ状にした。すごいな……


「これを掌に載せて目線の高さまで上げる。そして目標を定める。シューティングターゲットを用意しておいた。あそこまで50mといったところだ。あれに向けて撃つ。イメージはこの鉄の塊を中心に当てるように念じることだ」


菊川さんの掌からキューブ状の塊が飛んでいく。かなりの速度だ。150km/hくらいはあるのではないだろうか。重い衝撃音と共にシューティングターゲットの中心やや右上に刺さっている。


「テレキネシスだ。距離が開いている時には有効な攻撃手段となる。力を込めればもっと早くなるが、その分コストがかかる。『異能』の力も無限ではないからな」


「なるほど……すごい威力ですね」


「問題は放出する能力は『異能』を扱うキャパシティ、『EP』を多めに消費する。これは『異能値』とはまた別の数値だ。今ので『異能値』は300程度の出力だ」


「ややこしいですね。『異能値』の基礎値は出力の限界……クルマでいうと排気量ですかね? 『EP』はガソリンみたいなものですか」


「その認識で間違いない。『EP』の最大値、ガソリンのタンクみたいなものか、これも訓練次第で増える。使っていれば自然に増える」

 

 ふむふむ……メモしておこう。EPか。どうやって把握するんだろうか?


「EPの量と最大値は自分でわかるんですか?」

「いや、自分でおおよそを把握する必要がある。どの能力がどれほど消費するかは人によって違うからだ。後でテレキネシスの射撃をしてみて理解してみてくれ」


「わかりました……後で? 今ではないんですか?」


「あぁ、今から肉体強化を先に習得してもらいたい。こちらが出来ないことには防御もできんからな、射撃から身を防ぐ必要があるということを知ってもらいたかった」


 なるほど。肉体強化か、この前のチンピラの攻撃を考えるとあれは肉体強化だったんだな。

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