第6話 目標
雀の鳴く声が聞こえる。もう朝のようだ。何か身体が痛い。起き上がるといつもの部屋ではなかった。
廃工場の中だ。記憶を思い起こすと昨日ここで菊川さんと話した内容で頭痛がする。
『異能』の問題ではない。竹山市に宿泊施設が少ないためホテルに泊まるとバレやすいという点により、野宿だ。
しかもこの廃工場の中で、だ。
寝具一切なしとか耐えられん。身体が痛いわ!
一人で勝手に心の中でキレてると菊川さんはこちらに気付いたようだ。
「起きたか、あまり調子が良さそうではないな?」
「ええ、野宿なんてすることがないので辛いですね。身体中痛いんですが?」
「じきに慣れる。それに今日は寝袋くらいは用意しておこうと思っている」
寝袋を用意ってこの廃工場で、か? 半分崩れかかってるんだが。
こんなところを拠点にしなくても良いだろう……
「どうして菊川さんはここを選んだんですか?」
「他に場所がなかった、ということもあるが一応屋根があって目に付かない場所というのも大きい。多少訓練には大きな音も出る可能性があるからな。そもそも神社を待ち合わせ場所にしたのもここを拠点にするためだ」
予定通りなのなら寝具くらい用意して欲しかった。今日の予定としてはどうなってるんだろう?
スマホを確認すると、7時32分だ。
「まずは学校ですよね? 今、朝の7時半くらいですから余裕はあるでしょう。風呂くらいは入りたいけど…」
「そうだな……昨日説明できなかったことの補足でもするか。その前に久我山、お前のことはどう呼べばいい?」
「そうですね、久我山でも修二でも好きに呼んで下さい。母親は名前で呼んでいますね、ここしばらく会ってませんけど」
「ふむ、シュウジと呼ばせてもらう。響きがいい。すまんが風呂は夕方にしてもらっていいか?」
かなりショックだ。風呂に入れないだと……?
「とりあえずこれで勘弁してくれ」
菊川さんは俺にコンビニの袋を渡してきた。中身はおにぎり3つと汗拭き用ボディペーパーだ
「えっ、買ってきてくれてたんですか? ありがとうございます」
「礼は高尾に言ってくれ。さっき差し入れがあったんだ」
気が利くな、ありがたい。後でお金を返しておこう。
制服のまま来たので着替えも必要ない。
身体を拭いてありがたくおにぎりを頂こう。
「そういえば『異能』って簡単に使えるようになるんですか?」
俺は身体を拭き終わり、おにぎりの封を開けながら質問した。
「人による、な。オレは独学で3年くらいかかったが、高尾はオレが教えてから一ヶ月くらいで既にある程度強くなっていたぞ。『異能』ってのはかなり個人差が激しい。自分の望みや性格、これまで生きてきた環境が大きく影響するのは間違いない」
ふむふむ、菊川さんは独学だとか……武術とかと似たようなものか。俺にどれだけできるのやら。
「シュウジは一番最初にこの金属の玉を作ったんだ、何かしら物質に干渉する能力があるのかもしれんな」
昨日俺が作った玉はまだそこにあった。
とりあえずおにぎりも食べたことだ、学校に向かうとするか。
「では、そろそろ学校に向かいますが菊川さんはどうするんですか?」
「オレも学校の近くまではついていこう。学校の前まで来れば人もいるから大丈夫だろう。人目の多いところで『異能者』が暴れるとは思えん」
「人の目があると安全? どういうことですか?」
「政府も馬鹿じゃないってことだ。政府や警察側にも『異能者』がいる。事を構えると損するのはあちらだ」
なるほど、意外と何でもやりたい放題ってわけじゃないのか、気をつけないと消されたり逮捕される可能性がありそうだ。
廃工場を出て、神社の境内を通り表参道から学校へ向かう。ここからは10分から15分程度といったところ。
時間的にも余裕がある。
「菊川さん、とりあえず……放課後になったらさっさと風呂に入りたいんですが、どこかありますか?」
「シュウジの家は念の為に避けた方が良いな。オレの知っている宿が昼間は銭湯として温泉を開放しているからそこに行くか」
竹山市は観光も主産業だ。温泉も湧いているらしい。普段は使うことのない温泉だ、せっかくだし堪能させてもらうとしよう。
そんな話をしていると、もう学校が見えてきた。
「では、オレは準備をしてくる。問題があったらオレのスマホを呼び出してくれ。尤も、そんなに遠くなければ感覚でわかるがな」
「はい、菊川さん。ではまた放課後になったらここにお願いします。15時40分頃には校門前に出てこられると思います」
菊川さんとはここで一旦お別れだ。学校内には多分高尾さんがいる。テニスコートの方からは球を打ち返す音が聞こえるので朝練中だろう。
時間はあるが、今日は屋上へ行くのは辞めておこう。あんまり人目のないところは危険な予感がする。
教室についたがまだ8時15分、登校してきている生徒も居ないわけではないが、まばらだ。
席に着いて『異能』について考えてみる。
厄介事には巻き込まれたとは思うが、毎日が詰まらないと思っていたから正直に言うと興奮はしている。
将来の希望とかもなかったから目標ができたことは望ましい。
問題はどれくらい自分が有能か、というところだな。
そう考えているうちに授業が始まる時間だ。高尾さんもいつの間にか着席していた。
いつもと変わらず昼も過ぎ、食堂で定食を食べて、午後の授業も終わる。
放課後に時間になった。
さて……この後菊川さんと訓練か。
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