第5話 1つしかない選択肢

「わかった。で、もし高尾さんの仲間にならなかったら俺はどうなるんだ?」


 メリットとデメリットはわかったが、疑問はある。断った場合だ。それに対して高尾さんは面白くもないように顔色を変えずに答えた。


「そうね、多分別の組織に身柄を押さえられると思うわ。日本だけじゃなく他の国からも『異能』を持っている人間は喉から手が出るほど欲しいでしょうからね」


「他の国……ってことは割といるのか? 『異能』を使える人間っていうのは」


「ええ。世界中では私達が把握しているだけで1万人程度いるわ。その内で強い能力者は一握りだけどもね。日本ではそこまで大々的に能力者を獲得していなけども、別の国ではそうではないのよ。そうね、お隣の国では国家で『異能』を使える人間を収容しているという噂はあるわね。」


 1万人、多いのか少ないのかよくわからんな。別の国では割と剣呑な感じなんだな。これはもう選択肢がなくないか?


「わかったよ……どうしようもなさそうだし、お世話になることにするよ……」


 俺はそう答えた。正直なところ、高尾さんも信用はできない。が、他に道がないことと、実際に襲撃を受けたこと、そして何より俺の予感がここでハイ、と答えるべきと告げている。


「そう、わかったわ。意外だわ、久我山君はもっと慎重かと思ってたんだけど」


 高尾さんが俺を見て、少し口角を上げて笑った。学校ではそんな素振りを見せなかったが、この子はドSに違いない。いや、ツンツンしてたから予想通りなのか?

 俺だって他に手段があればこんな選択肢を選んでない。


「で、俺はどうしたらいいんだ? 家に帰って寝ていいか?」

「は? 何をふざけたことを言ってるの? 一人で身も守れない能力者を帰らせるわけないじゃない」


 高尾さんに一蹴された。マジか、帰って寝たいんだが……


「というわけでオレがお前に基礎を教えてやる。二週間程度で最低限、身を守れるくらいにはなるだろう。それまでは付きっきりだな」


 さっきまで空気だった菊川さんからそう言われた。

 再度菊川さんを眺めて見るがどう見ても強い。雰囲気からして強者だ。この人に守ってもらえるなら安心だろう……? 敵だったらやばいけどな。


「高尾から聞いた通り、お前は能力者に狙われることになる可能性が高い。そもそも襲撃した相手がわからんからな」


 意外なことに菊川さんも知らないらしい。


「どこか別の対立組織とかじゃないんですか? 一応髪は金髪でしたけど、言葉は日本語でしたよ?」

「日本では大きく二つの組織しかないが、単独ないし少数のグループで動く者もいなくはない。規模拡張したい奴らの可能性もある」


 俺は思い出してみた。あいつは確か、俺が『覚醒』とやらをしていないという情報を得ているようなことを言っていた。


「菊川さん、フードのチンピラは俺が『覚醒』していないのじゃなかったのか、という旨のことを言っていました。疑うわけではないのですが、そちらから情報が漏れているか、派閥が別にあったりするとかではないですか?」


 俺は疑問を口にしてみた。


「ふむ、危機感があるようで助かる。ざっくりと説明させてもらうと『異能』には強さがある。どんな人間にでもある程度『異能』は備わっているのだが、『覚醒』していなければ少し優れている程度の能力しか発揮できない。走るのがやや早い、とか力が多少強い、とか個性のレベルを出ない。だが『覚醒』を経ることにより一気に『異能』が使えるようになる」


「なるほど、そういえば俺は走るのは得意でしたね、特に部活はやってないですけど」


「身体能力だけで『異能者』とは断定できないが『異能』の中には他の『異能者』を探す能力もある。人間の想像し得る物は大抵実現できるのが『異能』だ。お前はオレ達の仲間によって発見されたいわば、『異能者』の種だな」


 なるほど、想像できるものは実現する。確かにあの時、身を守るものが欲しいと思ったな。

 視線を金属の玉に移すと、高尾さんが調べているようだ。あまりあれを自分が生み出したものとは思えない。

 こういうことを出来る意味不明な力が『異能』というわけか。


「つまり、俺は『異能者』を探す『異能』で見つかったということですね?」


「ああ、そして『異能者』を探す能力はそこまで珍しいものでもない。『異能者』であれば訓練すればある程度誰にでも出来るものだ。『異能者』の種を探すのも難しくはない。一般人からは逸脱しているが、『異能者』というには弱すぎる者を探せば良い」


「わかりました、そこは理解しましたが最初から俺が『異能者』の種ってわかっていれば、もっと早く声を掛けてくれてもよかったのでは?」


 暴漢に襲われるようになってからじゃ遅かった。もうちょっとで死ぬところだったんだぞ、こっちは。

 その問いには高尾さんが答えてくれた。


「しょうがないでしょ、私の組織の上からの指示で『異能』が『発現』しそうになるまでは貴方にはあまり接触しないよう言われてたんだから」


 どういうことだ? 菊川さんを見ると肯定するかのように俺に頷いた。


「詳しいことは聞かされてないわ。ただ、無理に『異能』を『発現』されるのも危険なの。私も『異能者』としてはそんなに優れているわけじゃなかったから菊川さんに今も守ってもらっていたわけだし。貴方と同じよ」


「オレは一応、組織で中堅どころの『異能者』でな。パワーと守りに特化している。『異能者』を育てることも、ここ最近多い。よろしくな」


 高尾さんも菊川さんも知らないわけか。

 俺は菊川さんから右手が差し出される。俺はその手を握り返した。流される形ではあるが、どうしようもない。考えても仕方ないことは考えないでおこう。

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