第3話 『覚醒』
鉄パイプを構えた俺を見てヤツは
「はン、そんなもので俺の蹴りを防げるもんかよ」
鼻で笑いながら俺の正面にまで迫った。ヤツは無造作にミドルキックで俺を、構えていた鉄パイプごと蹴った。
重い金属同士がぶつかるような音が響き、俺は無様に弾き飛ばされ、壁に背中を強烈に打ち付けることになった。
背中に強い衝撃を受けたせいで息が一瞬止まる。何なんだあれは、トラックにはねられたかのような衝撃だった。
「くはっ、ゲホッゲホッ」
俺の口から空気が全て吐き出され、咳が出る。血が出るほどの衝撃は受けなかったが、すぐに体が動きそうにはない。
もう攻撃する必要もないと言わんばかりにゆっくりとヤツがこちらに向かってくる。
手段がない。相手の目的がさっぱりわからないが、ロクな目的ではないだろう。
息を整えつつ、周りを見渡すが何も役立ちそうな物はない。工場の支柱くらいしか近くにはないのだ。
無駄かも知れないと思いつつ、会話を試みてみる。
「お前は何者だ……俺に何の用なんだよ?」
ヤツはフードを被ったままでニヤリと笑った。さっきまで見る余裕すらなかったが、フードの端から金髪が見える。
「何、お前を生かしたまま連れて来いって指示があってな。来てもらうぜ」
ヤツはそう言ってにじり寄ってくる。
どうやら俺の命が目的ではないらしい。が、死んでもおかしくない攻撃を受けたせいであまり信用が出来た言葉ではない。
ドクン…! と俺の鼓動が高鳴る。
このままでは拙いだろう。連れて行かれる。……ドクン! 何か手段はないか……ドクン!
鼓動が煩い……ドクン! ドクン! ドクン!!!
「こいつまさか『異能』を『発現』しているのか!?」
驚いたようなヤツの言葉は鼓動音に混じりながらもよく聞こえた。異能……? そんなものが使えるのならこいつから身を守るものが欲しい。
ドクン!!!!
そう願った瞬間に鼓動が強くなり、身体の中から何かが失われた気がした。喪失感に気が遠くなる。
「……! …だ……!!」
ヤツの声が遠くなった気がする。
その瞬間だった。震度2か3くらいの地震のような揺れを感じたのだ。
その瞬間に身を守る何かが周囲に出来た実感だけがあった。
しかし視界を確認すると何も見えない。身体が重すぎる。もう疲れた、一旦寝てもいいよな……
---
何分後かわからないが、俺は目が覚めた
……少し息苦しい。周りは真っ暗だ。手探りで周りを確認してみる。
……何か硬いものが半径2mくらいを円形に覆っている。拳を作ってノックをしてみる。ゴツゴツとした感覚だけが伝わる。音はしない。
よくわからん。何でこんなものが……? とりあえず息苦しいのはこれのせいだろう。
持ち上げてみるか。
軽く立とうとすると丁度肩と背中で支える体勢になった。
外にヤツがいるかも知れないが空気が薄くなってきてるのは拙い。力いっぱい背中で押し上げてみた。
無駄だった。びくともしない。
そもそも外が安全かどうかをもっと確認した方が良いのではないか? 俺は円形の壁に耳を押し当て、音を聞いてみた。
音はしなかった。
やはりこの状況は俺に対しての攻撃……ではない?
そういえばヤツは『異能』とか言っていた。これは俺の『異能』とやらなんだろうか?
ならば一部だけでも解除できないだろうか? せめて外の様子は見たいし、呼吸穴くらいは開けたい。
とりあえず地面を掘ってなんとか出来ないだろうか?
座って地面を触ってみる。
刹那、バガン、と何かが割れる音がした。天頂部分を見ると3分の1くらいがひしゃげて千切れている。
「無事かしら? 久我山君」
ひしゃげた球体の穴の部分から何事もなかったかのように佇む、本来の待ち合わせ相手だった高尾 綾が見えた。
「待ち合わせは神社のはずだったわよね? どういうこと?」
少し小悪魔的な表情で問いかけてくる彼女を見て、普段のあまり笑わない優等生然とした態度からは想像できなかったギャップを感じた。
よくよく考えたら普段体験できない死にかけた体験に今更ながら身体が震えてくる。
「何かよくわからないんだが、黒いローブを着て黒いフードを被ったヤツが襲ってきた」
俺は球体から登って脱出しつつ事実を言った。球体の分厚さ、5cmくらいあるな……
高尾さんは呆気にとられた顔をしながら納得へと表情を移していった
「なるほど、神社の境内に入る手前で『異能』を使う気配があったのはそのせいね」
高尾さんは顎に指を当てて考えるような仕草をしている。
色々疑問があるので聞いてみよう。敵ではなさそうな気がするし。
「ところでその『異能』って何なんだ? フードのあいつも何かそういうこと言っていたが」
彼女は考えつつもこちらに視線を移し、俺の頭から足の先までを観察しだした。
少し居心地が悪い。かわいい女の子にジロジロ見られるのは慣れていない。
「久我山君、何か身体におかしなことない? 今日以外でもいいわ。最近調子が良かった、悪かったというのはなかったかしら?」
彼女からそう言われて身体のチェックをする。特に痛むところはない。怪我も転げ回ったのにしていないな。
最近調子がいいかとうかまでは覚えてない。2週間前に自転車が壊れてしまったので毎朝学校まで3kmほど走っているくらいか。
「特になにも悪いところはないと思う」
「そう……何もなかった、ね……」
彼女はまたそう言い、しばらく考え込んだ。
俺としてもちょっと考えをまとめる必要がありそうだ。
無我夢中だったがよく生きていたもんだ。
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