第2話

「さて、まずいろいろ聞きたいことがあるんだが」

『成功作どもと話すのは初めてだな』

「ああ、そうなの。俺も災厄と話すのは初めてだよ」

「全く驚いたな。災厄ってのは知能を持ってんのか」

『お前らと起源ルーツは同じだからな』

 その言葉を聞けば自称だろうが、頭のいいドリームには理解できた。

 地べたに胡座をかいて座る二人と正座をする一人の人型と、一つの災厄の姿がある。

「ご丁寧にデバイスを壊してくれやがって」

『どうでもよかろう』

「まあ、この際どうでもいいぜ。まずお前の名前はなんて言うんだ?」

『なんだぁ?成功作だっつうのに、クソ神どもは出来損ないを生み出したのか?』

 狼は巨大な体の右前脚を上げて、その鋭い爪の生えた足をリアルに向けながら告げる。

『まずはお前達の名だ』

「俺たちか。俺はリアルで、こっちが……」

「ドリームだ」

『馬鹿と阿呆か』

「失礼だな、このワンコロ!」

『お?やるか?』

 ドリームはいつもの癖で鞘から剣を抜き取ろうとするが、彼が構えたのは木製の脆い剣だ。

 それに対抗するためか、それとも威嚇のためか紫電を纏う。

「やめて、シルバー!」

 しかし、シルバーと呼ばれた狼にカンザキイバラが抱きつこうとしたためにその紫電は搔き消える。

『やめんか、イバラ!危ないところだったんだぞ!』

 少しばかり焦った顔を見せるシルバーはリアル達の知るところの災厄とは全く違う存在のように思えた。

「ごめんなさい……」

 シュンとしたようにカンザキイバラは顔を俯かせた。

『……はあ、もうわかったと思うがオレはシルバーだ。馬鹿と阿呆』

「訂正しろ!」

 突然にドリームは声を張り上げた。

「リアルはともかく俺は天才だ!」

 ドリームはリアルの方を見向きもせずに、それでも指を指しながらそう言った。

「オイ、ドリーム……!」

 リアルは怒りを覚えたのか顳顬がピクピクと痙攣しているかのように震えていた。

「お前の推論が当たったことは一度もないだろうが!」

「え?そうだっけ?」

「こんのっ……」

 クソアホがぁーーっ!!

 そんな大声と共にリアルの暴力的な拳が振るわれた。

 そしてそれは吸い込まれるようにして、ドリームの左頬に突き刺さった。

「ぼへぇっ……!」

 地面をバウンドして数メートル転がったところでようやくドリームは止まった。

「わあ……」

 カンザキイバラは両手を口元に当て、驚きの表情を見せる。

『やはり馬鹿どもだな』

 呆れたようにシルバーが言う。それをリアルは否定できなかった。

「けっ……。おい、ドリーム!」

「ひ、ひでぇぜ、兄弟」

 ドリームは殴られた左頬をさすりながら起き上がる。心配そうに、と言うよりは観察するように見ていたカンザキイバラはドリームが起き上がったことでその場から離れて、シルバーの近くに移動する。

「それで、シルバー。テメェ、何を知っている。どうして俺たちと話せる」

 リアルが捲し立てるようにそう尋ねると、シルバーが答える。

『……俺はテメェらが災厄って呼ぶ失敗作だよ。そもそも、もともと俺たちが話せないってのがおかしい話なんだ』

「そうだ!発声器官はどうなってるんだ!」

 ドリームは思い出したと言いたげに、そう叫んだ。

『あん?発声器官だぁ?こんななりだが、言葉は伝えられる。お前らが話せねぇのは何かしらの細工があったからだろうが』

「もしかして、武器のことか……」

 今の彼らにとって違う条件はそれだけ。あれには災厄との意思疎通能力を奪う何かが仕組まれていたのかもしれない。

『お前はそっちの阿呆とは違って、少しは考えられるみたいだな』

「お、俺は天才だぞぅ!」

「黙ってろよ、ドリーム」

「……なあ、教えてくれよ。失敗作ってことはお前も神様に作られたのか?」

『そうだ。俺たち、まあ、お前らの呼ぶところの災厄ってのは、人間の形を保つことのできなかった出来損ないだ』

「神が人間を解剖して、研究してたのは知ってたが……」

 リアルは嫌悪を示す。

 自分たちと同じでありながら、醜いと切り捨てられた子供のようなもの。

 それがどうにも受け付けられない。

『恐らく、より良い身体を作るためだろうな』

「んで、最終的にゃどうなるんだよ」

 ドリームがそう尋ねた。

 その通りだ。

 兵士として作るなら、ドリームやリアルの時点で足りている。だと言うのに、未だに研究を続ける理由などどこにあると言うのか。

『あのクズどもも身体が欲しいんだろ』

 シルバーは下らないと吐き捨てるように言った。

「神々の降臨する世界を作るための兵士と器って所かね……」

 ドリームは誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 

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神様、憎み申し上げる ヘイ @Hei767

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