下半身だけの男
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
奴がやってきた。
下半身だけの男だ。
上半身はない。
安物のスーツのズボンに擦り切れた皮のベルト。
何故か白い靴下。ズボンの上は何もなく、
脊髄の腸の断面と分厚い脂肪が露出している。
そいつが夜中に家の中を彷徨くのだ。
生きていた時は小太りの中年男だったのだろう。
ウダツの上がらぬ男だったのだろう。
どんな顔をしているのか知りたいような気もするが、
見ても怖くも恐ろしくもないだろう。
だって、ボクにはその下半身さえ見えないのだから。
存在だけが見えるにすぎないのだから。
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
コン、コン、コン。
今度は壁を叩いてきた。
急かしているのか、呼んでいるのか、煩い奴だ。
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