4章-02話 人探しの依頼

 それは雨期のさなかだった、依頼料は十ゴルトとそんなに高くはなく、書いてある文字も小さかった。

 俺が発見しなければほかの依頼に隠されてしまっていたところだろう。

 そういう状況だった。


 小さなデータペーパーに書かれていた文字は、女性のものと思われるものでかぼそくほかのデータペーパーよりも文字が小さかった。


 夫を探してほしい、死んだわけでも事故にあったというニュースが流れたわけでもなく失踪してしまった。ので探して下さいという依頼だった。


 しかも失踪した日は例の事件があった日だった、ネットニュースでグランシスディア連邦共和国の正騎士団グランシスディアラインがギルド支部隊に白昼堂々仕掛け返り討ちにあったというネットニュースが流れた日であった。


 しかも未編集バージョン全てが広域ネット通信社を通し世界中に流れたため、グランシスディア連邦共和国が火消しに奔走したがすべてを消し終えることなどできるはずもなく、未だにアングラなネットでは画像や動画が見れるところも少なくなかった。圧縮データではまだ隠しファイルとしてどこかに存在するという結論まで出てしまうありさまだった。


 そのビデオのタイムラインは二九〇四〇:〇三:二五:一五:五〇:四九(年:月:日:時:分:秒)と、表示されていたのであった。


 その人の特徴は、特徴と呼ぶにはあまりにも平均的過ぎて探しにくそうだった。身長百六十五センチメートル、体重六十五キログラム、若干太目、ドーム清掃作業員、所属会社:グランシスディア・ゼロ整備(株)とそこまでは出ていた。それ以上の詳細な話はコール番号が記載されていたのであった。


 俺はまずこの依頼を受けるかどうか、を皆に聞いた。賛成四、反対三だった。反対者はリズとゼルと珍しくマリだった。


 リズはいつも通り「レース種は調べにくいんでシュ」といった。

 ゼルは「いやな気しかしねえ」と完全に乗り気ではない様子だった。

 マリがいった「この依頼うさん臭くないかねえ、あたしの勘じゃあ、もうこの世にはいないと思うけど……」といったのである。


 普段反対に回る甚九郎ジンクロウが珍しく賛成に回っていた。「死んでるか生きちょっかが問題ではなかとです。こんひとは夫の帰りを待っちょっのです。幸か不幸ふこかはおいておいて見付みしけてあげもんそ」といった。

 グレンはいった「人探しは難しいがやりがいがある、どこにいるかわからないならば探すしかないからだ」と。

 ナーシャもそれには賛成の様で「私も貴方がどこかへ行ってしまったら、探し人の依頼書を貼るか自ら探します」といった。

 アイネも同じ考えの様だった「おいらも大将がどこかへ消えてしまったら、探し回ると思う。きっとこの人も同じ事はしたはずなんだでも力が足りなかったから誰かを頼ることにした。そういうことだと思う」と。


 俺はいった「誰かが帰れなくなってたら探してやるのが、人情って奴だろう。少なくとも俺はそう思う」といって「今回は珍しくマリの予感が当たるかもしれないが、少なくともサリーネ的には探せというお達しなんだろう?」とマリに向かっていった。


 マリは少したってからいった「確かにサリーネ神はそれを望んでおられる。しかし、この者の魂はけがれをびているともおっしゃっているのさ」と。


「ひょっとしたら、まだどこかに監禁されているかもしれないぜ? 例の件のデータの持ち主だったんなら死んでるかも知れないが、間違えられたりしただけなら、あるいは……」と俺は一縷の望みをかけるようにいった。


「でもありゃ悪いのは正騎士団側だったんだろう、それについてはエルフィニアやギルディアスから引き渡し要請や生ぬるいといった抗議書状が連日山のように届いたとも聞いているぞ?」と俺がさらにいう。


「ギルディアス側からしてみたら、生き証人なわけだ。この依頼はもっとでかくなるぞ」と続け、依頼データをデータパッドで読み取ると、ギルド上層部に流してみた。直ぐに反応があり依頼額に上乗せ百プラナが加えられた、新たな依頼書作成しその依頼書を包む様な二重報酬の依頼となった。


 依頼達成条件は、証人の確保とその家族の保護を最優先にしたフルディフェンスと呼ばれるものになっていた。


「逆に重すぎねえか? コレ」とゼルは呟いた。


「数チームで挑んでもいいそうだぞ、完全達成者には十ゴルトが追加報酬で出て、未完チームでも参加チームには十プラナ、達成者チームには一人百プラナだそうだからな」と俺がはやし立てた。

 少し盛りすぎの感はあったが、ギルディアスから見ればそうなるのだった。


 新しい依頼書が複数枚出てきて特急のコーナーに並んだのであった。

 その依頼書を一枚俺がはぎ取っていった。残り四枚になった。

 つまり五チーム投入してでも確保しろという事だった。


 マリはその日、サリーネの奇跡の術で生きているほうに願掛けした。


 俺が取った後、中堅どころのエイシアとベルンのチームが一枚づつ取った、若い血気にはやった奴らも二チーム参加したようであった。


 既に詳細の部分はギルドの交渉役が、奥さんと子供のところへ乗り込んで情報収集を始めていた。

 その情報が、全てのチームの依頼書の裏に集約され高密度データサインで表示された。俺はまずそれをデータパッドで読み取るところからスタートした。


 そしてギルドのガーディアンが、奥さんと子供のところに配置されたようだった。依頼書の裏の最後の項目にディフェンス準備完了の文字が躍った。


「俺らが最初かもな、捜索範囲を絞ろうぜ」と俺はいいながら人の多い所を排除していった隠れやすそうな建築物が放棄されているところや廃墟が検索データに上がってきた。


「全員装備はフル装備で、リズはFPtに残って、全員の通信管制を担当、ゼルはそのガードだ、マリは誠神殿にアクセスしてみてくれ、霊体を探したほうが早い場合が多い。残りは足で稼ぐが二チームに分けよう。俺とグレンは分けて考えよう前衛は一人いれば問題はないだろう、後衛は探索型と魔法型とだが、グレンの方にアイネ、俺はナーシャと組む、甚九郎はマリの直衛に付いてくれ」と俺はいった。


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