3章-03話 地方都市アルマドと初戦

 マリーベルの言った通り、日が暮れる前に我々は地方都市アルマドへ入場し車両チェックを受けるだけで済んだ。


 マリーベルが先方のアルマドや他の地方都市の高官にコネを持っているらしく荷物チェックを飛ばしてもらえたのである。


 これは特級便でまかり通っている事例のうちの一つなわけだが、特に我々が口を挟む事項ではない。


 あるモノは貢物であるモノは黄金色の菓子で、あるモノは口利きを挟むことで成り立っている裏の事情でもある。


 基本的にマリーベルが、カーゴの乗員を高官と会わせ話をしているものであった。


 我々は警官でもないし官憲でも無いのだ、その辺りはルーズといえた。


「まぁ仕方ないだろう」とグレンも言った。


「立場が違えばそうは言えないものではあるが、今の立場ではな、運ぶ側なわけだし」といって自由さを満喫しているようだった。


 お固くなくて良かった、と思ったのは俺だけではあるまい。


 融通が利きすぎるのも困るが、利かなさすぎるのもこの業界を渡っていくのには不利益となるのだ。


「場合には場合ってやつだな」と俺が言って、マリーベル達が上って行ったビルを眺めた。


 そこには暗黙の了解という一文が流れるのであった。


「さてぼさっとしてないで飯ー食ったら、仮眠に入るぞ。外枠は警戒せんでいいが車両に何か仕掛けされないようには見張っておいてくれよ」と起きて来た仮眠組に通達したのであった。


 因みに起きて来た仮眠組はサブリーダーのナーシャ、アイネ、マリ、リズの四人である。


 これから飯食って仮眠する組はリーダーの俺、グレン、ゼル、甚九郎ジンクロウの四人である。


 飯を食って部屋に行ったら、ギルドからの直通信で武将ランクアップ試験の分厚い封書が届いていた。


 これも便利な魔道転送器のおかげではある。


「こういうホットラインにも使えるようになってるんだな、で次のランクはっと」と首をもたげ確認すると三十四ランクとなっていた。


 遂に城にまで手が伸びる勢いになって来たなと思い分厚い封蝋を解き、内容の確認に移った。


 武将も三十四ランクになると座学の分野が増え、書やマツリゴトの知識が急激に増えて来るので分厚くなるらしかった。


 武芸はあまり無かったが馬術が生えて来ていた。


 この時代ロボットホースを使うことが多く実馬に乗ることなどないと思われたが試験は実際の馬を使うようであった。


 試験の実施日はこちらの都合の良い日取りで行うとされており、無理なくスケジュールが組めるなと思ったのであった。


 それを眺めながら仮眠としたわけで、起きた時少し疲れが残っていた。


 軽い失敗談である。


 ゼルのところにも、甚九郎のところにも試験の案内と手引書が来ていたのは言うまでもない。


 ゼルのところには銃士二十二ランクのものが、甚九郎の元には武将二十一ランクのものが来ていたのであった。


 俺は女性陣とリズにも試験の案内が回っているなと思わせる書き口だった。


 当然これを書いたのは、この達筆な共通語で分かるが、ギルド・マスターヨナ様が書かれているなということがわかる訳であった。


 相変わらず目を掛けたところのチームには、積極的にかかわってくださる。


 そのように思っておくほか無かった。


 まあ目をかけて下さる理由はグレンが居るからだろうとも思ったがそれ以前から何かと目をかけて下さっていたので、俺か? 俺なのか? とも思ったりしてオートパイロットに任せて運転していたのであった。



 只の荒野というものが、存在するならばそれでよかったのだろう。


 そういうわけにはいかなかったらしい、警報音がした瞬間だった「何かにつかまれ!」と俺は叫んでブレーキを踏み抜く勢いで強めに踏み込みバックシフトに入れてバックさせた。


 といってもFPtフローティングパワートレーラーであるからして浮遊している百数キロメートルで走ってる物体が完全停止するわけもなく、かなりのGが掛かり前方車両にぶつかりこそしなかったものの体が浮き上がるくらいまでの衝撃はあった。


「状況確認!」と俺が叫ぶとゼルが、ステップを駆け上がり上部のドアを開け状況を確認した。


 グレンは視界範囲内で何か変化が無いか監視に注力している。


 甚九郎はレーダーを監視していた。


 ゼルより状況確認の内容が入ってきた「前方車両で爆炎! 七両前だ! カーゴより前で爆炎が上がっている、状況は不明!」と言いながら双眼鏡に切り替えて前方を再確認した。


「未確認! IFF敵味方識別装置反応なしの存在が複数七両前に集中しちょっ。こいぁ……自動機械歩兵だ! 新人の乗った車両に群がってやがる! 総数で二十!」とレーダーを監視していた甚九郎から情報が入る。



……ズドムッ! ……



 とさらに音がする。


「動力をやられたようだ、新人のFPtが擱座状態、対人戦組は大至急救援に向かってくれ!」とゼルが早口でこちらに声をかけた。


 そして双眼鏡を置いて、対物装甲用ライフルに持ち替えると「おらこれでも喰らえっ!」と言うなり遠くの自動機械歩兵を撃ち抜きにかかった。


 初弾は外したようだった。


 体勢の悪い中撃ってるからだが、致し方なかった。


「甚九郎はここに残って、俺とグレンのバックアップ! と仮眠組を叩き起こせ! 手段は問わん、苦情は後で俺のところへ持ってこい! 行くぞグレン! 初陣だ!」と一気に喋ると太刀を持って、瞬間的に加速した。


「オウ!」と短い返答でブロード・クレイモアを持ったグレンも瞬間加速する。


 ナイツだからできる荒業で、ノーマルやメイジには無理な相談だった。


 俺は一秒後には先頭車両と新人車両の間に居た自動機械歩兵、六体を背後から抜き打ち居合で凪いで斬り倒していた。


 グレンも俺と反対側の八体にほぼ同時に攻撃を仕掛けその八体をスクラップにしていた。


 一瞬のうちに敵は十四体の半数以上の味方機を失った計算になった。


 しかし攻撃はやまなかった、〇点〇五秒前に俺がいた場所をレーザーが穿った、次の瞬間そのレーザーを撃ったやつは俺に真っ二つにカチ割られていた。


「残りは五体か?」と甚九郎に通信デバイスを通して聞いた。


おいがレーダーをかぎいでは、のこい五機です。間違まっげないです」と甚九郎から連絡が入った。


 その直後“ボコン”という音がしてゼルに頭部を破砕された一機は沈んだ。


「掃討するぞ! 右任せた」と俺が言うと振り向いて先頭車両側に展開していた左側の自動機械歩兵、二体の間を薙ぎ斬りながら一瞬で通り抜けた。


「任された!」とグレンも言って大薙ぎに払い、後方車両側に展開していた二機を一閃のもと斬り落とした。


 自動機械歩兵といっても、人型ではないヤツだった。


 新人は皆無事でドライバーが軽いけがを負っただけであって、人的損害はゼロでは無いが軽かった。


 只、機械の方は軽い被害状況ではなかった。


 新人の乗っていたFPtが大破擱座状態で現状Ptとしては移動できるが高速移動は不可能な状態になっており、牽引するにしてもコンボスでしなければならない状態だった。


 これにより、移動速度は時速六十キロメートル時まで落ちた。



 次の地方都市ザナートまで通常、半日ほどの距離での話である。


 コンボスのマリーベルの伝手ツテでザナートには入れる保証を得てもらった。


 再編成との事であるが、新人達とはザナートで別れる事になった。


 走れないのだから致し方なかった。

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