3章-02話 護衛団(コンボイ)

 雨季に入る前のこの季節は、乾季と呼ばれる、グランシスディアのこのあたりでは一般的な雨季と乾季を繰り返す気候なのである。


 昼は暑く夜は極限にまで冷え込む、この地方特有の天候に悩まされながらコンボイは走ることをやめない。


 グランシスディア・ゼロまで小さな地方都市が、間に三つ挟まるそれでもグランシスディア・ゼロよりは小さい地方型都市なのである。


 グランシスディア地方の地方型都市の概要は、一:ドームを被っている。


 二:外堀がある。


 三:外敵が居る。


 というこの三点が主体であり、常に外敵と戦っているわけではないが何かひとたびあればドームを閉じ閉鎖モードに入ることで都市そのものを守るそのような構造にもなっている。


 地上を走る我々コンボイの補給地点でもあるが、外敵のせいで長くはいられない。


 数少ない補給地点なので、我々や交易商人等からは重要視されている。


 乾季は名の通り乾燥季節のことで、荒野は砂漠化しPtパワートレーラーには辛い路面が待っていることが多い。


 このため進行速度は百二十キロメートル時よりも落ち、百キロメートル台にまで落ちる。


 我々の乗るFPtフローティングパワートレーラーからすると仕方ねぇな、という状況に陥ることもあるのだ。


 穴に嵌ったりする事もあるため、コンボイに参加している二機のMMマジック・マシンはPtが事故を起こさないようにうまくMMを操作しPtを隊列に戻さねばならない任務が多くなり遅滞するのである。



 特級便エクスプレスとは言っても時間や日付の更新がなされるわけではなく、また時刻表によって走っている訳でも無いのでその辺りはラフに熟されてはいる。


 但し特級便の名の通り一般便よりは早く走らねばならず、苦心の賜物であるわけだ。


 なので道なき道を走る為に、コンボスの乗る車両は特殊GPSユニットを積んでいるのである。


 この特殊GPSユニットと言うのは慣性航法装置とリンクされており常にマップ上に自らの位置を表示させることができるもので、道なき道を走る特級便にとっては無くてはならないもののうちの一つである。


 要するに本来の道路があった場所以外を走るのが特級便の宿命であり、一般便にはできない芸当ではあるのだ。


 一般便に積まれているGPSはGPSユニットとは呼ばずGPS受信装置と呼ばれている。


 ルート上に設定された固定GPSユニットからの電波を受信し道があった場所を走る為の受信装置でしかなく、道路を外れると危険警報を発するモノでもあるので、道路から外れていますよという案内が出ないように走るのが一般便の宿命であるのだ。


 道路から外れて走るというのは、危険行為の一種であり推奨されてはいないのである。


 これが我々の選んだ特級便護衛の厳しさでもあるのだ。



 そしてまた今日もガレ場を走っている最中に、パンクした車両が発生し二時間の遅延となった。


 幸いにもモンスターには出会わなかったからよかったようなものの乾季には乾季特有のモンスターが数種類おり、いずれも二つ名付きで呼ばれている。


 “死の視線”こと石化系モンスターの代表格バジリスク、“幽鬼スピードスター”の名で呼ばれるゴースト・ライダー。


 そして、“蟻地獄”の名で呼ばれるジャイアント・アント等である。


 最後の奴らにはまだ遭遇したことは無いが、会ったら大変な目に会うこと請け合いである。


 “滅ぼすもの黒き顎”とか“破壊者赤の尖兵”等の呼び名が付いているからであり、カラーパターンも数種類いるようだからである。




 話は変わるが、中衛となったグレンには中衛のパターンと状況分析を俺なりに教えてあった。


 また詳しい所はナーシャに任せたので、問題なく中衛をこなせるようになっていた。


 とは言え中衛としての役目が出るのはダンジョンアタックや森林行軍などの隊列を決めなければならない場所のみなので、コンボイとして動いているときは一両のFPtとして動くのが常であるためこれには適用されなかった。


 なのでグレンは頭で覚えて実戦は後にする方法を取っていたのであった。


 タイヤ交換を行っている車両の護衛に円陣を組んだり、また荷崩れを起こし停車してしまった車両のために円陣を組んだりして対応したくらいであった。


 本日だけでも良い経験にはなったようだった。



 グレンとは休憩時間中の飯の時に、少し話せたくらいだったが大分慣れてきた感があった。


「冒険者暮らしも悪くは無いな、城にいるより色々なものが見れる」と言っていたからだが、「これからが色々なものを見て経験しなければならないときだからな」と俺は言っておいた。


 まだ冒険者家業は始まって短いのである。



 コンボイは休憩時間中でも隊列を崩すことなく、地図にはない直線を引いたような路線で走っていたのである。


「一般便とは格が違うな、流石はコンボイだ」と俺に言わしめるくらい道取りはうまかったのは確かである。


 ずっと走り続けるわけではなく、休憩するときはしっかりと休憩するという方策のおかげか、護衛である我々にも負担は少なくルート取りをしているようであった。


 それでも一般便よりも二倍速いのであるから凄いと言わざるを得なかった。


 第一の地方都市アルマドが見えてきた。丘の上から見るアルマドはさながら窪地にある砦といった感覚を覚えた。二重螺旋の水堀を持つ豪奢な地方都市であった。


「今日中にアルマドに入るぞ……宿は車内だが、車両はアルマドの敷地内に入れる」とコンボスのリーダー、マリーベルから連絡が入った。

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