2章-02話 旅立ち

 俺のFPtフローティングパワートレーラーまでグレンと一緒に戻ると甚九郎じんくろうが外で見張りを行っていた。


「遅かったでごわすな、おいどん少し心配せわで待っちょったとですよ」と言ってくれる。


「すまんな、支部長が中々離してくれなくてな。まあネタはエイシアのPTパーティーに振っておいたから多分大丈夫だろう、俺らと同じか近しい腕は持ってるからな」と俺は言った。


ないかあったとですか?」と甚九郎が聞いた。


「ギルドサインを置き忘れたか? 破壊されたか? した連中が要るって話だったんだよ。流石に一年半冒険者やってるらしいから、置き忘れは無いと思うんだ。で、エイシアのところに話を振ったんだ」と俺は伝えた。


「一年半くらいなら大丈夫だいじょっだとももす」と甚九郎でもそれは無いだろうといったふうになった。


M-FTPミドル-フライングパワートランスポーターの貨物便を使って、ギルディアスの貨物港に直接降りられるように手配を行ってもらったよ、直ぐに出るが皆は揃っているか?」


「皆さん今は疲れて眠っちょっ者が、三名起きちょっ者は四名です。後衛組が寝ています。他は武器や道具整備とか、俺の様に見張みはいとかですたい」と甚九郎は言った。


「分かった、そっと静かに出すか。グレン、部屋に居てもコクピットに居てもいいぞ、甚九郎以外に見張りは居るか?」と俺は甚九郎に聞いた。


「見張いは俺だけですたい」と甚九郎も乗り込みながら言った。


「じゃあコクピットで」と言いながらグレンは俺に付いてきた。


「コパイ席のどれかに座っていてくれ」と言いながらFPtのロックをそっと外す、FPtが浮遊移動に移行した。


 今はまだ静止状態ではあるから動きはしない。


「これは中々壮観そうかんながめだな」とグレンは言いながらサブの二番席に座っている。


 サブ二番席は俺から見て左手前に位置する本来は監視者用の席である。


 まあ、真ん中の一段高いパイロット席に俺が座って居るので、ほとんど気にならないと言ってもいい位置取りだ。


「さて起こさない様に出さないとな、昼間の全力疾走って訳にはいかないが、シティー内部を通過して壁面大型エレベーターで空港まで上がるぞ。ときに高所恐怖症では無いよな?」と俺はグレンに聞いた。


 答えが返ってこなかったが大丈夫そうだった。


 慎重にかつ大胆にFPtを操縦すると、ほぼ揺れずにFPtが俺の操作に追従する。


 グレンはシティー内の明かりに見とれているようだった。


 シティー内部は今は夜の時間帯で、外と同様青月ファウストから照らされる紫外線と白月ホワイトムーンからのそこそこの光量が心地よかった。


 それに走っている車も少ない。FPt/Ptパワートレーラー専用の大型車用の道を走り壁際に近づく、大型エレベーターの乗車口が見えてきた。


 少しまぶしいくらいだが、夜の夜光灯では無いだけマシではあった。


 うまいことバックで停車させると、一旦固定用の脚を降ろした。


 とりあえずロックモードに入れる。


 この時間帯はシティー内部でも大型車両が多く走るのだ。所謂いわゆる夜便、というヤツだ。



 他にもPtが数台並んで留まる。


 皆、物流ギルドの車だったFPtは我々だけだがちゃんと見える位置に冒険者ギルドのマーカー(ギルドサインと同じ表示)を入れてある。


 物流ギルドの車両にもちゃんとギルドマーカーが入っているのは確認した。


 長距離の旅にこれから出るのか、それとも受け渡しのために空港に入るのかのどちらかだった。


 珍しくリズが起きて上がってきた、「今からどこに向かうんでしゅか?」と聞いてきた。


「少し遠いが、ギルドシティーまでな。戦利品はうまいこと、売って来てくれよ? 俺は所用ができたから、ヨナ様のところと王宮に行ってくる」と俺は言った。



「流石にM-FPTの足と言えど貨物便だからギルドシティーまでは一週間かかるからな。一応扉はすでにフルロックしてあるけど外には出るなよ、違反金で足が出ちまう」と俺は言った。


「狭いが我慢してくれと皆に伝えて置いてくれ、寝ている連中には書置きで構わんから……」といったふうに説明をした。


「わかりましゅた」とリズが言って、元来た道を部屋へ戻って行った。



「まぁ二階の少し天井高が取れる所は女性用、一階の少し低いところが男性用だ。二階は天井高は取れるが部屋自体は一階よりも手狭だ、一階はソコソコ広くとれるが天井高が取れてない。男性陣はガタイが良いヤツが多いんで広く低くになったわけだが、まぁ致し方ないと思ってくれ。それを超えると規定からはみ出すんでな。もう少し予算が取れてれば、はみ出しても大したこと無いって言えるんだが、そう言うわけにはいかなくてな」と言うところで留めた。



 この大型FPtはSTスタンダードサイズのギリギリ内側なのであった。



 長くゆるく加速していた、大型エレベーターがようやく停止した。


「窓は開けるなよ、標高二万メートルと同じくらいの高さだから耳がおかしくなるぞ」と注意はしておく。



「空港はさらにこの上だからな」と言ってロックを解除し周囲に誰も走っていないのを確認してから、冒険者ギルド専用出入り口に向かった。


「アーガインか? 支部長をまた突いたんだって?」と冒険者ギルド専用門番のロクポルスの声が聞こえた。


「聞こえが悪いな、お願いしたんだよ」似たようなもんだがと思いながら返答し、支部長のサインの入った行き先切符を提示する。


 魔導電子印章が押される。


「今回は長旅だな、まあ瞑想していればいいのさ」とロクポルスが言った。


「六番のGギルドカーゴにそれを見せて乗ってくれ」とも追加された。


「元気してろよ、ロクポルス」と俺は答えた。


「またな」とロクポルスから返信が来た。



 六番のGカーゴまで行くと検問をやっていた。何かあったのか? と思ったので聞いてみることにした。


「検問とは珍しいな、何か変なもんでも入ったのか?」と六番のGカーゴ職員のフェリセスに聞いてみた。


「切符無し組が混じっただけだ、切符有り組は提示して乗ってくれ」とフェリセスはそう言った。


「さっき捕まったから、もう居ないと思うけどな、取り締まるのが空港警察のお仕事だから、出発ギリギリまで粘ってくれるぜ。多分な」とフェリセスは嫌そうな顔をした。


「ま、彼らもお仕事だからな」と言って切符を提示する、魔導印で確認済みの判が押されて切符データが戻ってきた。


 それを確認するとデータパッドをロックして、パタンと格納形態に移行させた。そしてFPtを操縦し規定位置で停止固定モードに移行した。


 ギルドサイン表示させるか? の返答が来る。今回は点灯無しにして、ただの駐車モードとした。


 そして一時間後我々は特に何事もなく機上の人となった。到着まで一週間の時を残して。

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