1章-05話 宝物

 そのまま下のフロアに探索に降りると、先行して探索を続けているアイネから報告が上がってきた。


 探索者はPTパーティー内でも比較的ソロ活動が多い。


 前衛の前に立ち道案内兼先導役を務めることが多いので、そのようになってしまうのだ。


「最終端だ大将、三十層でラストだ、ここは預言者の墳墓らしい。それ以上詳しいことはアタイよりも甚九郎じんくろうのほうが詳しそうだ。スイッチや敵影はいない。そのまま降りて来ても大丈夫だよ。罠も無い、途中の小部屋に何かあるかもしれないから一旦そっちへ戻る。第二十七層まではずっと階段だった。二十七層で落ち合おう」と言うとアイネからの通信は一旦切れた。



 各自のデータパッドに、アイネの行動記録と各種オブジェクトと降りた経路が記録される。


 これで、道に迷うことは無い。


「アイネご苦労さま」と俺はねぎらいの言葉をかけた。


「さて、このデータが新しいうちに二十七層まで降りよう」とも言う。


「お宝、お宝」とマリがうれしそうに降りていく。



 前衛-後衛、のPT構成は敢えて変えない。


 コレは俺の用心だ、用心に心をくだくくらいで丁度良い。


 確かに、二十七層までの道中は全て階段であった、途中オブジェクトが飾られているくらいだったが、そこまで値打ちモノと言う訳でも無い。


 仕掛けも全然なかった、拍子抜けするくらい呆気あっけなく、二十七層まで降りられてしまう。


「何も無かったろう、大将」とアイネが先に戻って来て待っていた。


 二十七層は小部屋がそこそこ多く、探索に少しかかると思われた。


 事実二十七層の探索には、一時間近くかかった。


 その分収穫も大きく、特に荒らされていないということが分ったくらいだった。


 収集物は、黄金の神仏二体とかなり古い文献書籍が十冊、ここにも宝石棚がありかなりの収穫が得られた。


 宝石そのものは小さいがかなりの貴重品であることが甚九郎の鑑定で分かった。


 それも時価と言っていいようなものが多くここから無事引き上げられたら、一度ギルドシティーに戻れるくらいの物量が得られたからでもあった。


 重量物は俺と甚九郎で手分けして持っている。


 小物や宝石類はマリが管理している、まあ何が収集物かは各自のデータパッドに記録されているので横取りなどは出来ないわけだ。


 二十八層でも、同様に探索を実施しかなりの得物があった。


 流石に重量物だったので、甚九郎に頼むことにした。


 プラチナのインゴットがあったのだ。


 しかも二十本程、ここまで景気が良いと最終戦闘を考えてしまうくらいなのだ。



 しかし二十九層でも戦闘は発生しなかった、そこでも未盗掘の墳墓に出会ったのだ。


 若くして亡くなったらしい貴族の装飾品と格式のある装身具類は丁寧に頂く。


 その代わりマリの浄化の呪文で特別神聖な格式のある呪文をかけてもらい、不死者にならないように処理して貰っている。


 ここまでで持ち切れない程の宝物に囲まれてしまったので、奥の手を出すことにした。


 呪印を刻んだ石を懐から出すと長時間永続の魔法をかけて、ストーンゴーレムを出す。


 この程度は魔導士でもある俺には造作もないことでもあるのだ。


 そいつに符術で創った神符を貼り付け強化してやる。


 そして、俺と甚九郎の荷物の半数を預けた。


 これで俺は空荷に近くなり、元の戦闘力を発揮できるようになった。


 甚九郎も同様に、並以下の重量まで戻って戦闘に支障は無くなっている。


 そして、ゴーレムはまだ耐荷重量には程遠いほど持てるのだ。


 そしてついに三十層まで降りた、ここ数回ダンジョンアタックをしたがここまで深い遺跡に潜ることは少なく精々せいぜい五層まりだった。


 少しきてきたところへ二十層の深さのある遺跡の話がネタに上がったので飛びついて見たのだが、実際のところは三十層。


 ほぼ未盗掘という豪華な仕様にぶち当たったので、皆のテンションが上がっているのである。



 皆無口にはなりかけていたが、アイネが発破をかける。


「さて最終層だ! 何が眠っているが探索に入ろうぜ大将!」と言った。



「フッ、そうだな無口になっても仕方がないくらいの財宝を見て来たからな、三十層も同様に浄化してもらってから探索に入ろうかマリ頼む!」とマリに声をかけた。



 マリが、浄化の聖句を唱えだした。


 何が起こるか分からないので、戦闘態勢を引き直す、同様に後衛で甚九郎も戦闘態勢をとっていた。


 マリが聖句を唱え終わる。


 呆気なく唱え終わり、特に起き上がってくる不死者や死霊は居なかった。


 このため、戦闘態勢を緩めた。


 特に何も起きない、何かが息をひそめている感じも無かった。



「大丈夫そうだな、探索開始!」と高らかに宣言し、まずは墳墓から当たることにする。


 貴重品は大抵、墳墓に眠っているのだ。


 速攻で装飾品・装身具のたぐいが出て来る。


 それに加えかなり装丁そうていの良い本が出て来た。


 甚九郎に鑑定を頼んで、墳墓の周囲を観察する。


 こういう場合は隠し階段などが隠されておりさらに一段降りられたりするからだ。


 面倒だったので、異界術式の探知魔法を発動させた。


 自身を中心に、空洞が無いか探す手合いの魔法である。


 結果はドンピシャだった。


「三十一層目があるぞ、墳墓をずらせるか? それに類するスイッチの類は無いか? アイネ」と専門家に聞くことにする。


「それか、ここのフロアすべてを探索してからの方がいいか?」と聞く。


 アイネの答えは後者だった、フロアに心残りがあっては探し辛いとのことであった。


「分かった、最初に三十層のフロアすべてを調べよう。三十一層目はその後だ」と俺は方針を言った。




……




 出るわ出るわ、これでもかという程、宝物が眠っていたのだ。


 西洋剣のたぐいだがかなりの数が見つかった。


 モノはマジックバスタードソードの類で、三十本は下らなかった。


 さらには魔法の杖も数種、見つかりナーシャの鑑定で四元素固定ではあるが一本十プラナ以上はするとのことであった。


 それをゴーレムに積載させる、まだ少し余裕があったので甚九郎の鑑定した預言書やそのほかの嵩張かさばる書物の類を載せる事にした。


 そこに加え、大量の宝石類である。


 大量と書くしかなく後で鑑定を行うというくらい数があった。


 磨き抜かれた五十個程の宝石と、数百個は下らないその原石たちである。


 危険物が混じって無いかだけ、鑑定で流してもらい本格鑑定は後回しとする事にしたのである。



 それのおかげで三十一層目に、早めにかかれたのでもあった。



 時刻は二九〇四〇年三月二十九日、七時五十九分三十四秒を表示していたのだ、割込み組が入って来る時間でもあった。

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