1章-03話 不死者

 マリの唱える聖句に、一瞬動きを止める不死者アンデッド


 仕掛けるタイミングはここだった。



 瞬間に魔導太刀を抜きながら、“魔法剣抜刀”も乗せてATアタックタイミングのカウントを凄まじく切り詰め一の太刀を討ち込む。



「おりゃっ!」と、今回は攻撃のタイミングを後者に知らすためにかけ声をかけた。


 見るものによってはただの抜き胴斬りだが、魔力やら瞬間的な速度やらで俺の動きがかろうじて見えたものはゼルくらいだったようだ。



 ゼルが追撃を撃ち込む、両足とひたいに魔導銃の魔力弾による大穴が空いた。


 対象は頭部損壊・両足損傷だが、不死者であるがゆえに動きを止めない。


 ボロボロになりながらこちらを向いた、ちょうど振り向いて二撃目を放つ前の俺に向かって突っ込んでくる。


「南無!」と言いながら魔力爆撃マジックボミング七連突きを、全ての部位に撃ち込んで爆ぜさせた。



 さすがに部位を散らされてしまうと、モゾモゾとしか動けなくなった。


 後はマリの聖滅ホーリーディストラクション浄化じょうかめっせられた。



「さっきは、不浄ふじょうな感じはしなかったのに変じゃないか?」とマリが言う。



 簡単には不死者は出来上がらない、そういうところでない限り無理なはずだった。濃密な死の匂いのする回廊や、魔法陣の中とかいうなら話は別だった。


 ここはなダンジョンでは無かったのか?


 という思いが浮かび上がった。


 それか、奴が居るということか?


 とも思ったが、そうでもないらしい。


「先行のPTパーティーと思しき連中が上がってくる! 全員不死者になってる!!」と先行偵察していたアイネが戻ってきて言った。



「大将! 識別不明不死者の群れだ!」とアイネが叫んで俺の後方に付いた。



「甚九郎は後ろから現れる奴に気を配っていてくれ! 俺とマリとゼルで前は何とかする、アイネは後衛に混じれ!」と言うと広間に上がってくる不死者の数を数えた。



「前衛四人、後衛二人と中間一人か! 面倒だ! 分身ワケミを使う」と俺が言って、前に出るついでに四人に別れ鏡面二重分身た。


 前衛四人を瞬間に各関節の隙間すきま狙いで、魔力爆撃の七連突きを四人に対して実行する。


 瞬間でほぼ勝負はついた、前衛が各関節部を爆破されころがる。


 もう少し踏み込んで中間に二人掛で、後衛に一人づつ同じように魔力爆撃の七連突きを同時に実行した。


 中間は多少早かったが普通の不死者である以上、こちらより反応速度で上回ることは出来なかった。



 世の中には、意思のある不死者も居る。


 そういう手合いが、一番厄介やっかいなのだ。



死霊使いネクロマンサーでも、居るようだな」と俺が奴らが出て来た辺りを見て、鏡面二重分身を解きながら追撃を警戒した。


 後方ではマリの多重詠唱による聖句と聖滅によって不死者が塵に浄化させられていく、そんな光景があった。


 俺が、今警戒すべきは前!


 奴らの出て来た穴だった。


 アイネが先行してくれたおかげでデータはあるが、何が潜んでいるか分からなかった。



 VRゴーグルにデータを投影しつつ、その先を確認しに行くことにする。


 音響知覚機能も備えた、冒険者必須の高性能ゴーグルである。


 忍んで来るヤツに足があれば音は聞こえるはずだった。



 反射的に構えた、直感が逆撫でされた様な感覚があったのだ。


 魔導太刀には、まだ魔法は載っている。



「何か来るぞ! 後衛支援頼む」という前にナーシャの攻勢防壁オフェンシブバリアが俺の前にかかる。



 その直後、死の接触デスコンタクトの手が攻勢防壁に当たり砕け散った。



 VRゴーグルの表示には死神リーパーと表示されている。


「ヤバイヤツだ! 非実体戦闘インテンジブルコンバット開始スタート!」と俺が叫んだ。



死神狩グリムリーパーハント!」とナーシャが高らかに叫んだ。


 高位魔法使いのオリジナル術式らしい。PT全員の防具と武具に、何らかの力が載ったのが分かる。


 心の不安要素が溶けて無くなっていくような高揚感と共に、武具は輝き始めた。



 死神というモノは心のすきに付け込み、そこを狙ってくるのである。


 不安要素が無くなった分、全力にしていいかと言うわけでも無いことはよく分かっている。


 あくまで戦闘の配分は、そのままでヤツの構える武器えものを破壊に専念する事にした。



 真空刃バキューティ・ブレードを何重にもかけ圧縮し、虚無刃バキューティー・ブレードに切り替える。


「今からヤツの武器をへし折る、後は任せる!」とだけPTに魔導無線で伝えると次の瞬間、攻勢防壁から俊足しゅんそくで飛び出した。


 死神の武器狙いで虚無刃を直撃させた。



“ガキーン!! バキュッ!”



 広間自体に、高音と腹に響く重低音がほぼ同時に鳴り響いた!


 死神の武器は今の一撃で、確実に損壊したはずだ。


 そのまま魔力爆撃の連続攻撃に移るべく、一瞬で思考する。


 突く場所は、足に該当する部位が無いから五連突きにまで減る。


 受けきれるか死神! と思いふと手持ちの得物を見る。


 こっちの得物もそれなりに損傷しているようだった。


 俊足で攻勢防壁の内側に戻った。


 次の瞬間、死神が広間に上がった。


 魔導太刀自体はもう一本ある。


 損傷した魔導太刀をさやにしまい込み。


 もう一本を抜く際に“魔法剣抜刀”もかける、こちら側の魔導太刀も光り輝いている。



 視認できるようになった死神に、多数の攻撃魔法が乱れ飛ぶ。


 多勢に無勢とみた死神が眷属けんぞくを呼ぼうとした瞬間、マリの聖崩滅ホーリー・クラープス陣が広間範囲でかかった。


 眷属の下位の死神が呼ばれた瞬間、自体崩壊滅していった。


 死神の武器は確かに損傷してはおり、次の一撃でもあれば砕けそうな程ヒビ割れているのが目視できた。


 攻勢防壁を通り過ぎようとするので、その隙を狙って横合いからの虚無刃を胴薙ぎで撃つことにした刃も魔法力で延長させ幅広い範囲を斬ろうと思った。


 その間も皆集中し、法術戦の様相ようそうていしていた。


 対象に術を集中させない様に三人で交互に入れ代わり立ち代わり、対象の集中を阻害する目的があると感じさせるものだった。



 こちらだけでなく、ゼルも一撃必中の魔弾を狙っていたのであった。


「仕掛けるなら一撃で頼むぞ……」と、かすかにPTの魔導無線に乗せる。


「こちらも仕掛けるから、そのタイミングを狙え……」とも乗せた。


 三人で仕掛けていたのが、いつの間にかリズとナーシャで仕掛けていた。


 但し爆炎はさっきより広がっており、手加減をせずにっていることがうかがえた。

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