1章-02話 ワケは嫌な予感だった

 これで司祭だなんて言えるのが不思議だった、よく神は見捨てないのだな。


 と思った位だが、いつも通りの状態なので敢えて口にはしないが。


 こんなのが、司祭としてまかり通っているというのは神は余程、寛大かんだいなのだろう。



「行くぞ、先行者は一人だった。ということはこの先にPTパーティーがいるのかもしれない、先行されてたらお宝は無いぞ!」と司祭のマリに状態を突きつける。



「それはいけない!」と言うと、集め始めていたものを手放した。

 マリはお宝には目が無いのだ。



「アイネ、下にPTが降りた形跡はあるか?」と探索者せんもんかに状況を聞いた。



 階段の手前で、地面を調べていたアイネが答える。


「大将、下に複数人降りた形跡がある。PTの可能性が高い」と答えたのだった。



「ヤツラ転移呪文でも使ったのか? ナーシャ、そういうたぐいの術はあるか?」ナーシャは術士であるため、この手の呪文には詳しいのだ。



沢山たくさんありますけど……どれが、使われたのかは分かりませんね」とナーシャが答えた。



「一番乗りしたってのに、先行されては冒険者の名がすたるぜアーガインのダンナ」とさっきは眠そうにしていた、ゼルことゼルベリオスが口を突っ込んできた。



「さっき眠そうにしていた奴に言えるセリフか?」と聞きなおすとだんまりを決め込んだ様だった。



 リズが言った「精霊力は感じられましぇん、それ以外の術だと思いましゅ」と彼の観点から見た結論を言ってくれる。



「アイネ、先行してくれ! 俺と甚九郎じんくろう直衛ちょくえいに付く。バックアップはゼルに任せる。ナーシャ、リズ、マリは後衛を構成してくれ。とりあえず、昨日降りたところまで行こう」と俺が言った。




……




 昨日の広間までには、無事何事もなく辿たどり着けた。


 特に壊されたオブジェクトも何もなかった。



 先行しているPTは、ここを知っているかのように、さらに下まで降りて行ったようだった。


 アイネの報告では、さらに下のフロアにまで足跡が、続いているという報告だったからだ。




 それにしても、そのPTの編成が気になった。


 通常探索者サーチャー盗賊シーフを失えば、転移してでも地上に戻るはずなのだ。


 戻って無いということは、複数の探索者を抱えているか?


 それとも、もっと別の何かが、あるとみて良かった。


 そして、戦闘の形跡もない。


 これは異常な事態が、進行しているか?


 我々より上の高位PTが遺跡に侵入したか、のどちらかであると言えた。



「いつもの編成に戻すぞ! 甚九郎は、後衛PTに混じってくれ。先頭はアイネ、俺、ゼルで組む!」前衛・後衛と分けてはいるが、二つのPTに分けているのではない。


 前衛と後衛の間に十から五メートルほど開けて、危険を回避しているのだ。


 これにより前衛で戦闘に入っても、後衛はその乱戦に巻き込まれることは無いからだ。


 そして甚九郎が殿しんがりつとめることで、後衛をバックアタックから守れるという強さもあった。



 それに後衛には、勘の強い者が多い。甚九郎だけが、戦闘に巻き込まれるということも少ないのである。



 又は考えたくない考察が、もう一つあった。遺跡の主が、帰還したかである。


 それならば、戦闘の跡が、無いというのもうなづけるものであるからだ。



 我々遺跡荒らしこと冒険者は、主にはすたれた遺跡を巡り徘徊する者。


 遺跡の主が、いないことを条件にダイブする盗掘師などが多いからである。


 稀に生きている遺跡も中に在り、その場合は遺跡に主が、存在することもあるのだ。


 そういう場合は、ガチで戦闘を行うことも少なくは無いのである。


 しかし、事前の情報ではそういう情報は得られていなかった。



「モグリの情報屋だったのかも」とアイネはこちらの思考を読んだかのように言った。


「しかし、遺跡の主が帰還したとしたとして、我々異物が襲われないのはどういうことだと思う?」遺跡にとって我々冒険者は異物に等しい。


 攻撃されない事のほうが、おかしかったのである。


 何か意図があって、誘導されているのかもしれない。


 そう思える理由が、一つあった。


 我々冒険者は基本的にギルドIDを持っている。


 それによる判断ってこともあるかとも思ったが、それにしては階段の中途で死んでいた探索者は気になった。



「一番奥まで降りて見れば、いいじゃないか」とマリが言った。


「確かにここで立ち往生ってのは納得はいかねえぜ、アーガインのダンナ」とゼルも言う。


 俺の中の勘も鈍ったか、と思った位である。



「確かに、ここでウジウジしてても始まらないな。ダイブするか」と俺は腹を決めた。



 仮にギルドの施設なら、ID一つで反応は分かるのだ。


 因みに俺のIDのカラーは冒険者にはあまり好評とは言えないブラックオニクスカードだ。


 理由は暗い所で見えにくいというだけの事だが、意外と当たりでもあるのだ。


 大抵の冒険者はゴールドかシルバー、良くてもプラチナかエメラルドくらいまでで留めている。


 理由は、冒険者ギルドに納付する年会費からだ。


 ブラックオニクスカードは、最上位オーロラの一個下というだけあって権限が段違いなのだ。


 当然支払う額も桁違いだった。


 ギルドシティーにパーソナルハウスが持てるという権利だけでもかなり違うのだ。


 当然、大型車でも駐車料金などは取られない。


 但し一年間で、十ゴルト(日本円換算で一千万円)と法外な金銭を要求される。


 一食当たり質素に済ませれば二人でも十ブロス程(日本円換算で千円程度)で済む、それの一万倍と言う金銭要求に大抵の冒険者は尻込みしてしまうのである。


 俺は偶々運が、良かっただけだ。


 生まれはそこそこ良く、比較的な大きな大名だいみょうの三男坊として生まれてこられたからでもある。


 それに出立金も、そこそこ用意して貰ったからでもある。



 といかんいかん、つい物思いにふけってしまった。


 今はそんな余裕はない。




 弔ってやる必要が出て来たのは、そこからだった。


 後ろから、さっきの盗賊シーフと思しきモノが腰を低くかがめ前かがみの姿勢でこちらに向かって歩いて来ていたからである。


 明らかに生きているものの、歩みでは無かった。



「コイツ不死者アンデッドか? 不味い、後衛と前衛はスイッチするぞ!」と俺が声をかけ前衛と後衛が瞬時に位置を入れ替わる。



 VRゴーグルにも表示される、“アンデッド”だと。


 種別までは表示されない、VRゴーグルにはデータパッドがリンクされている。


 本来ならば、詳細な識別データまで載っていてもおかしくない状況なのだ。



 それはつまり、新種のアンデッドの可能性を秘めているものだった。


 それか、識別不能アンデッドであることを示している。


 個人母体のアンデッドの場合は識別こそアンデッドになっているが、詳細が分からないものが多いのだ。



 ただ、戦いのやり方は変わらない、マリが“聖句”を唱えた。

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