第一章 ダンジョンアタック

1章-01話 ワケは後で

 魔導式デジタル時計は二九〇四〇年三月二十九日、〇時五十九分五十四秒を表示している。


「アタック」と俺が言った。


「また行くのかよ!? アーガインのダンナ」と悪態をつく者が居る一方で。


 無言で鎧武者が立ちあがった、そして言う。

「いくでごわすな。おいどんの命、リーダーに預け申した以上、つき従うのが主従関係でござる」――と。


「はいはい、分りました。本当は、深夜はお肌に大敵なんですよ、あとで甘いものおごってくださいよ、甘味があるなら行きますね」と新たに壁側からも一人立ち上がった。

 ハーフエルフとおぼしき耳の少し尖った軽装に見える魔法使いと思しきものが短杖を持って付いてくる。


「もう行くのデシュか? 少し早くありませんデシュか?」と蜥蜴人リザードのリズが不服そうな声を上げた。


「なんだもう行くのかい? こんな時間なんだもう少し休ませておくれよ。まだ宵の初めじゃないか」とマリも不服そうな声を上げた。


「大将が行くなら、どこでもついて行くぜ、おいらの命は大将に助けてもらったもんだから」とアイネはいった。


「今だから行くんだ。今なら他のPTパーティーが動いていない。昼間に休んでいたろう。すでに、さっき休んでから八時間は休んだはずだ。無理にでも寝てろといつも言っているだろう。起きていたヤツの意見は聞かん」とテントを片付けながらもいった。

 テントは四人用が二つである。


「それともお前らは、十六時間寝ないと動けないのか?」とあきれたようにいってやる。


 ゴネた組が渋々テントを片付けるのを手伝う、外には俺のFPtフローティング・パワー・トレーラーが停めてあるから優先権はウチのPTにあるが、割り込んでくるやつは何処にでもいる。

 なので、この時間だったのだ。

 宵の初めころは皆眠くて寝るからである。


 ウチのPTは男女比が半々くらいなのだ珍しいとも言える、このご時世遺跡に潜って一攫千金などという戯言たわごとを言っているのは、冒険者か探索者位しか残ってない。

 大抵のヒトは都市に住みその都市の中で一生を終える。それが人生ってことになっている。


 だが、俺は違う生き方を選んだただそれだけのことだ。

 この世界は広い、まだ未盗掘の様々な遺跡が眠っていると思うと、ワクワクしてくる。それが、俺だっただけの話だ。

 

 ダイブする準備を始めた。といっても昨日途中まではダイブ済みなので、そこまではクリアされている筈だった。

 VRゴーグルとデータパッドをリンクさせる。

 マップが表示され始め、視界がクリアになる。

 VRゴーグルのおかげで、遺跡調査が大分楽になったと聞いている。


 都市でも見ることの多くなってきた、VRゴーグルだが冒険者の間では、ほぼ必須となっている。


 最近になってARゴーグルも開発されているとうわさもあるが、まだ目にした覚えはない。多分まだ、モノ自体は発表されていないのだろう。


 VRゴーグルのおかげで視覚障害者や眼を無くしたものにまで職業にあり付けるってんだからVRゴーグルサマサマってところだろう一本十シルズ(銀貨)と一般用なら値は少々張るが、目の代わりになるんだから安い部類だろう。

 我々冒険者の使うVRゴーグルは、戦闘用だからそれの二倍くらい、大体二十シルズくらいはするが、このアイテムが無ければ冒険者としてはかなり致命傷になる。

 そういうものだ。


 勘一つで潜る冒険者もいないわけではないが、俺はあまり見たことがない。

 大抵魔導式VRゴーグル付きだ。


「いくぞ!」と荷物を片付けた皆に言う。


「今日は、三フロアを一気に攻略したい」今日の意気込みを語る。


「マジかよ、しゃぁねねなぁ」と銃を抜きつつ戦闘に備えながらゼルベリオスが言った。


 他のPTよりは五フロアは先行しているはずだった。

 がしかし、先行者が居たらしい、が果てて居た、冒険者特殊暗号のここは危険を書き残して……。

 遺体の損壊状況からして鋭利な刃物によるものであると推察された。

 がしかし果てて居たのは階段の広間ならわかるが、階段の中段部分である。

 周囲に危険そうなものは無かったからである。 


 俺も武器を抜き放った、わざわざ黒塗りにして艶消しをまぶした魔導太刀である。

 果てていた冒険者の武器はダガー一本盗賊系シーフか? にしては少々妙だった。

 VRゴーグルを持ち去られたのか、はたまた持っていなかったのか。

 しかも一撃で殺されていたのだ。


「ここは、魔導鎧を着ている俺と、甚九郎で先行する、あとの者は後衛をガッチリガードしろ」というにとどめた。


 魔導鎧とは多少の魔法なら弾く効果を持つ動甲冑の事である。

 多少と言っても中級クラスまでは弾く代物だが。


「行くぞ甚九郎」と俺がいう、「行くでごわす」と甚九郎も答えた。


 先行の二人で広間まで降りるが攻撃が無い、妙だった。

 そこには妙なオブジェが、一本立っていたのだ。いかにも動きそうなオブジェである。


 俺が右手側を左手側を甚九郎に回り込んでもらうように、ハンドサインを出した。


 よくオブジェを観察してみると、一本だけ赤い色をした足が見つかった。ハンドサインでオブジェを壊せと甚九郎に指示すると、俺も甚九郎と反対側から斬りかかっていった。その瞬間、やはりオブジェが動いたのである。足一本一本が高精度のナイフになっているらしかった。


「オブジェが曲者だ、皆注意しろ!!」


 と声をかけると同時だった階下から似たようなモノが這い上がってきたのとは。


「甚九郎、後ろだ! コッチは俺がヤル!」


 と言うなり魔導剣抜刀からの二十連撃を見舞った。流石に二十連撃はかわし斬れずに十六連撃程が当たり、半分の腕が落ちたようだった。がまだ赤い腕は残っていることから、もう二十連撃を見舞うべく踏み込み戦場居合(納刀してなくてもできる居合)からの二十連撃を見舞った。


“カラカラカラ”と言う音を立て崩れ去るオブジェクト。

 但しまだ頭に当たるところからどこかに通信を行って居るらしかったので問答無用で頭部と思わしき部位をカチ割った。それでオブジェクトは沈黙した。


 甚九郎が苦戦している。さっきのやつよりも少し大きめのヤツが来ていた。

 ソイツにとって左側からソニック・ブレードを十五連撃で見舞う。

 魔法の真空刃が十五発直撃した、さすがに左半身がボロボロになったようだった。


「おおお!」と言いつつ甚九郎も飛び掛かっていった。


 一撃一本と言った感覚で足を払って行く、がこれ以上応援を呼ばれても困るので頭を一気に破壊しに行った。跳躍からの水平斬りだがソイツの頭部がスッパリと水平にズレて落ちた。その瞬間、そいつは動きを止めた。


 後方は? と見ると特に異常は無さそうだった。


「後は特に異常は無いか?」と聞いた。


「こちら側に降りてくるものはいませんでしたね」とナーシャから報告が上がった。


「流石に速すぎて支援どころじゃなかったぜ」とゼルベルオスが言った。


「収穫は何かあるのデシュか」とリズが言う。


「この頭が意外と高そうだね」とマリが言った。


「人工宝石の様だし、価値はそんなにしないだろう。それにさっきの奴らに、また襲われかねないとしても持っていくのか?」と俺が小突いた。


「ヒィ! そんなにおっかない石はいらないわ」とマリが引っ込んだ。


 オブジェクトの材質を見て、こっちの方が価値がありそうだなと思ったのでそれをそのまま伝えると、マリは大きな袋を出してきて詰め込み始めた。

 これで司祭なんて言うのだから、呆れ返るしかない訳だ。

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