第20話 幼なじみの従姉妹

 そいつは、突然現れた。


「…は?」


「あ…」


 俺の部屋をガチャリと開けたところで、そいつと目が合う。


 黒のショートヘアーに白いワンピースを着た、見たことのない女の子。


 年は確実に小学生ぐらいだ。


 すると、女の子は「…しまった、見つかってしまったのです…」と無表情のまま呟く。


 思わず、「いやいや」とツッコミを入れてしまった。


「えーっと…何してたの?」


「…部屋に入ったら美味しいお菓子があったので、それを食べていたのです」


 そう言って、テーブルの上の箱に目を向ける。


 あぁ、確かにきのこの山、全部食われてるわ。


 …。


 てか、最近似たような感じのやつが家に来たばかりじゃねーかよ。


 …。


 どうやらこの家はお菓子泥棒に好かれてるらしい。


「ところでカズ兄」


「カズ兄?」


 すると女の子は、あれ? と小首を傾げる。無表情のままで。


「昔から、そう呼んでいたと思ったのですが…」


「昔から?」


 昔から…。ん、てか、この子よく見たら…なんか琴葉に似て…。


 その次の瞬間、部屋のドアがガチャリと開く。


 顔を覗かせたのは、毎度おなじみ、琴葉だった。


 てか、次から次へと人が不法侵入してくるんだけど、この家ってそんなにセキュリティー甘かったっけ?


「あ、やっぱりここにいた」


「むう…コト姉にも見つかってしまうとは、まだまだ修行が足りなかったようです…」


「はいはい…。」


 はぁ、と呆れたように返事をすると琴葉が俺の方は目を向ける。


 困ったような顔で口を開いた。


「ごめんねカズ、この子勝手に上がっちゃって」


「いや、お前もたいして変わらないだろ…てか、この子誰なんだ?なんか俺のこと知ってるっぽいんだけど…」


「カズ兄、本当に覚えてないみたいですね…」


「仕方ないよ、だって秋葉あきはちゃんがまだ、幼稚園ぐらいの時に会ったのが最後だもん」


「秋葉?」


 …。


 その名前を聞いてはっと思い出す。


 そう言えば、まだ俺が小学生ぐらいの時、時々、一ノ瀬家に遊びに来る親戚の小さな女の子がいたっけ。


 確か名前は、月見秋葉つきみあきは


「へぇー、そっか、秋葉ちゃんか」


「思い出しました?」


「うん…。昔と比べるとだいぶ大きくなったから分からなかったよ」


「当たり前です、人は成長するのです」


「あははは…それでなんだけど」


 と、琴葉が話を切り出す。


「秋葉ちゃん、2週間だけ私の家に泊まることなったから、遊んであげてね」


「おねがいします」


 そう無表情のまま、頭をぺこりと下げる。


「あぁ、いつでもおいで、でも、普通にな」


「御意」


 グッと親指を立てて反応して見せる。


 思わずぷふっと吹き出した。


 え、なんかこの子面白いんだけど。


「うん、まぁ、そーゆことだから…今日のところは帰るね」


「また来るのです」


「あぁ、またな」


 そう言ってぐるりと背中を見せる。


 琴葉が先に部屋のドアを開けると、「あ…」と声を出して、早足で俺の方へ寄って来た。


 そして、耳元で一言、ボソリと口を開く。


「コト姉のことは、もういいのですか?」


「え…」


 それだけを言って、颯爽と部屋から出て行く。


 ガチャリとドアが閉まると、俺はため息を吐いて天井を見つめた。


「なんか、不思議な子だったな…」


 話し方、立ち振る舞い、全てにあまり覇気を感じることがなく、テンションも一定して低い。


 それに、あの発言。


 …。


 結局、秋葉は何が言いたかったのだろう。


 テーブルの上のきのこの山に手を伸ばす。


 指が空を切ると、大きくため息を吐いた。


「忘れてた、全部食われたんだったわ…」


 



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