第18話 元、好きな人
7月27日。
ベッドに寝転がりながら、友達がバーベキューや、花火でワイワイしている投稿を指でスライドする。
ツイートが1番上まで達し、これ以上スライドできなくなると、ため息を吐き、スマホを閉じる。
そして一言。
「…俺って高校生だよな?」
と呟いた。
夏休みが始まって早2日。友達がこうやってリア充している傍ら、ベッドに1人寝腐って友達のリア充ぶりを、片手サイズの画面で垂れ流している俺は一体なんなのだろう。
…。
「まぁ、夏休みじゃないと、こうゆう生活できないもんな」
でも、いつも土日こんな感じじゃね?って思って、目をゆっくり閉じる。
気にしたら負けだ。
…あぁ…なんか、久しぶりに誰かとゲームやりてぇ…。
…。
…。
ガチャ。
「は?」
聞こえるはずのない音が聞こえて、ハッと目を覚ます。
勢い良く上体を起こした。
…。
そいつと、バッチリ目が合った。
「あ…起きちゃった?」
「起きちゃった? じゃねーよバカ」
すると、えへへー、と琴葉が笑った。
「おはよ、カズ♪」
と、イタズラな笑顔を見せるのであった。
「つーかさ、お前どうやって入ったの?」
「え、ふつーに窓から」
「そっか…まぁ、玄関鍵閉まってたからって、窓から入ってこないよな、ふつーにさ」
「喉乾いたからジュース貰おうかなって…えへへ〜」
「なんだよその笑いは…てか、ただの泥棒じゃねーかよ」
はぁ、とため息を吐き出す。
それとは反対に、琴葉はふふっと鼻を鳴らした。
「でもさ、それだけ安心できるんだよね、ここ」
落ち着いた声色で、そう発した表情は、まるで昔を懐かしむような、穏やかな表情をしていた。
「まぁ、本当に幼稚園ぐらいからだもんな、俺たち」
「うん。一緒に過ごした時間だと、お父さんお母さん、柚葉、その次にカズって感じ」
すると、回転式の椅子に、片足を立てて座る琴葉が少しだけ回る。
一瞬スカートの中が見えて、思わず視線を逸らした。
「ん? どーしたのカズ?」
「いや…なんでも」
そう言うのちゃんと考えろよな…女の子なんだからよ…。
「変なの…」
そう呟くと、少しだけ視線を下に向ける琴葉。すると次の瞬間、「あっ」と声を上げて、こちらに顔を向ける。
「…ねぇカズ、いまパンツ見たでしょ?」
そのドンピシャな質問にドキリとして、額に少量の汗が浮く。
琴葉の方へ視線をやると、イタズラな表情でこちらを見ていた。
そして次の瞬間、わざとスカートの中が見える角度で座り直す。
「うわ、ちょっ! ヤベェーからそーゆーの!」
「あははは! 慌てすぎ!」
そう、お腹を抱えて笑う。
一方俺は、パンツを見てしまったのと、オーバーリアクションをしてしまった自分が恥ずかしくて、声も出せなかった。
あぁ、マジで最悪…。
「あー、笑った…」
笑い涙を指ですくい、普通に座り直す。
そして、「でもさ…」と鼻から息を抜いた。
「元、好きな人の下着でしょ? もっとじっくり見てもいいんじゃない?」
イタズラな表情で小首を傾げる。
そのセリフに、一瞬だけ変な心臓の動き方をしたけれど、すぐに頭が冷静になっていくのを感じた。
「いいんじゃない? じゃなくて、見せんな。お前女の子なんだからさ…。てか、そーゆーので勘違いされて、襲われたらどーすんだよ…その時に俺がいるって限らねーぞ」
って言って視線を逸らす。
言いたいことは頭の中で理解しているんだけど、うまく言葉にできない。
伝えたいことが、うまく形にできない。そんなモヤモヤが心の中で膨む。
なんていうか…素直に「お前が心配」
って言えれば、楽なんだけどな…。
「ふふふ…そっか」
「なんだよ」
琴葉へ視線を向ける。
やんわりと嬉しそうな顔をしていた。
「ううん、なんだかんだで心配してくれてるんだなって」
「…まぁな」
「ふふっ…ありがと」
優しい声色が、耳に届く。
ほんのりと上気した頬に、にこりと笑う綺麗な顔。
サラリと揺れる髪の毛からシャンプーの香りが、ほのかに漂う。
「でも、安心して」
「ん?」
「こんなことするの、カズだけだから♪」
そう言って、片目を瞑る。
そんな琴葉に、思わず顔の熱が上昇した。
—あぁ、なんつーか…。
「カズ、顔赤くなってる!」
「うるせぇ!」
「あはは! あ、もう一回みる?」
イタズラな笑みを見せながら、スカートの裾を少しだけ持ち上げる。
真っ白な太ももが見えて、思わず顔を背けた。
そしてまた、琴葉は大爆笑するのだった。
—やっぱり、こいつ可愛いなって思った。
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