第4話 いつもの場所
「ねぇ、カーズ」
「どっかの吸血鬼みたいな名前で呼ぶな」
あはは、と弾むような笑いが教室に響く。
俺がリュックに教科書を詰めていると琴葉は俺の机の上に腰掛けた。
全く、行儀の悪いやつだほんと。
「座るなって、ほら、ソーシャルディスタンス、しっしっ!」
「えー、いーじゃん…あ、ごめんもう一回!
…君を困らせたい(イケボ)」
チッと舌を鳴らしてまた、教科書を詰める。
そして全ての教科書を詰め終わると俺は席を立ち教室を出た。
靴を履いて外へ。
「ごめんってカズ。カズだったら許してくれるかなーって、ほら私かわいいし、幼なじみだし?」
「キモい、キショイ、こっち来んな、略して3K」
「カズ、それ間違ってる、かわいい、華麗、こっち見て、でしょ♪」
…ダメだ、こいつに勝てる気がしない。
はぁ、とため息をつく。
なんで柚葉はあんなにおしとやかな性格なのに、こっちはまるで子供みたいな感じなんだろう。
少しは柚葉を、見習って欲しい。
すると、琴葉が横からぴょこんと顔を出した。
「それで、今日この後暇?」
「お前の言う内容によっては暇じゃない」
「えーなにそれ、つまり暇でしょ?」
ふふーん、と嫌な笑い方をして、俺の前に出る。
ぶつかりそうになって思わず足を止めた。
「それじゃこの後、スタバ行こ?」
もちろん和樹持ちでね♪
なんて声が聞こえたような声がした。
「なんでよりにもよって1番高いの頼むんだよ、なぁ?」
「奢ってくれるって言うから、ね?」
「ね? じゃねーよ、てか一言も奢るなんて言ってねーし」
はぁ、とため息を吐きつつ紙のカップに口をつける。
コーヒー豆本来の香りが鼻から抜けていった。
ここは学校の帰り道にあるスタバだ。
人もそれほど多いわけではなく、基本的にはうちの高校の制服がほとんど。
そして、ここは俺と琴葉がよく通う店でもあるのだ。
琴葉はパシャリと写真を撮り、ストローに口をつける。
「ん〜! やっぱり最高!」
「1138キロカロリーだってさ、それ」
皮肉を込めて言う。
だけど、琴葉はふふーんと、鼻を鳴らし得意げに口を開いた。
「女の子はかわいくなるために努力してるから、実質0キロカロリーなんですー」
「んな訳あるか」
そう言って、俺はコーヒを口に流し込んで、ため息を吐く。
…こいつと話してると本当に疲れるわ。
「ねぇ、カズ怒ってる?」
「え?」
その言葉に思わずどきりとする。
そんなに顔に出ていたのだろうか。
「なんか顔怖かったから」
「…別に怒ってねーよ」
「ふーん…あ、そうだ。これ少し飲んでみる?」
そう言うと、琴葉はプラスチックのカップをこちらに向ける。
緑色のストローの先端がわずかに光を反射して、心臓が早くなる。
いや、だってこれ…。
「…いいわ」
「あ、もしかして間接キスとか気にしてる?」
「は? してねーし! 貸せ!」
そう言って半ば無理やりカップを奪い取る。
ストローに口をつけた。
甘い液体状のチョコレートが口の中に流れ込む。
「…ほら、飲んだぞ」
そう言ってカップを渡すと、琴葉は少し驚いたような顔をして、すぐにクスクスと笑った。
「美味しかった?」
「まぁ、そこそこ…」
ふふ、と鼻を鳴らすと、琴葉はカップの中のものを一気に飲み干す。
そして、嬉しそうな顔を向けて口を開いた。
「んー!美味しかった! それじゃ帰ろ? カズ」
そう言って立ち上がる琴葉に続くように店を出る。
「ね、カズ」
「ん?」
「また一緒に行こうね?」
にこりと笑う。
柚葉と同じ作りの笑顔に、思わずどきりとしてしまった。
「おう」
「えへへ〜♪」
そんな汚れのない笑顔を見て、湧き出してきたのは罪悪感だった。
琴葉は、俺と柚葉が付き合っているのを知らない。
だからこそ、もしそれを知ってしまった時、こいつはどんな顔をするのか。
その時も、こんな風に笑うのか。
そんなことを考えてしまった。
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