第3話 ランチ

 「やっほー、おにーさん!」


 「おう、柚葉」


 昼休み、購買にパンを買いに行こうと教室を出たところ、柚葉が教室の外で待っていた。


 少し驚きつつも、俺は小さくほほ笑む。


 「どうした? こんな所にいるなんて珍しいな、もしかして琴葉に用か?」


 その問いに首を横に振る。


 「お兄さん、勘ぐりすぎ。カノジョが自分のカレシに会いに来ちゃいけないの?」


 むすっとした表情でそう答える。


 自分のカレシ…。


 その言葉に、ふわりと胸のあたりが暖かくなるのを感じた。


 なんか良いな…こういうの。


 「そっか、ごめんな」


 「ううん、いいの。そーだよね、昨日から付き合い始めたばかりだもんね」


 すると柚葉はすぅ、と息を吸い、にこりと笑った。


 「と、言うことで、お兄さん一緒にご飯食べよ?」


 「おう、そんじゃパン買ってくるから、ちょっと待っててな」


 「あ、そのことなんだけど…」


 そう言うと、柚葉は足元に置いてあるトートバッグから巾着を取り出す。


 それを渡すと、ウインクを見せた。


 「カノジョっぽいことしてみましたー!」


 「え、これもしかして手作りの弁当?」


 「うん」


 巾着へ目を落とす。


 小さめの容器の弁当で、確実に量が足りないだろう。だけど、柚葉の手作りってだけでお腹いっぱいだ。


 「ありがとう、柚葉」


 「えへへー…さ、早く行こう、じゃないと昼休み終わっちゃうよ!」

 

 そう言って、俺の手を引く。その柚葉の表情は、本当に楽しそうだった。


 


 「めちゃくちゃ美味しい!」


 「えへへー、そう言ってもらえると嬉しいな〜♪」


 俺たちはとある教室にいた。


 2年前に暴力事件があったとされるこの教室は、本当なら閉鎖されているはずなのだが、誰が開けたのだろう、いつの間にか扉は自由に開けることが可能になっていた。


 だけど場所が場所だけに基本的には誰も来ない。


 …なんていうか、2人っきりなのは嬉しいけど、こんな所に平気で来るあたり、柚葉は本当に肝が座っている。


 窓際の方に机と椅子を出して、向かい合わせで座る。


 いつもより近い顔に、胸が高鳴っていた。


 近くで見れば見るほど、透き通るような白い肌にうっとりする。


 「柚葉は凄いな、可愛くて勉強もできて、料理も上手いなんて」


 「かわいいって…りょ、料理はね、お母さんが教えてくれたの。いつか役に立つって」


 照れてる。


 それが分かるぐらい顔が赤くなって、柚葉は視線を背ける。


 ふふっと笑い、タコさんウインナーを口に入れた。


 最後のご飯を口に放り込むと、弁当箱を閉じる。


 咀嚼し、飲み込むと、手を合わせた。


 「ご馳走様でした」


 「うん、また明日も作ってくるね?」


 「いいの? それじゃお言葉に甘えようかな」

 

 「えへへ〜、そ、それでね、ひとつお願いなんだけど…」


 「ん、言ってみ?」


  すると顔を赤くして、こちらに体を向ける。


 「…てほしい」


 ボソリと呟く。だけど肝心な部分が聞こえなかった。


 「ごめん、聞こえなかった」


 「…ギュって、して欲しい!」


 「そっかー、ギュって…え?」


 数秒の間見つめ合う。


 心臓がドクドクして、体温が上がってくる。


 「お兄さん」

 

 と、腕を広げる柚葉。


 俺は躊躇いながらも柚葉の華奢な体に腕を回した。


 あぁ、柔らかくて、なんかいい匂いする。


 数秒遅れて柚葉腕が俺の体に回る。


 そして呟くように柚葉は言った。


 「お兄さん、大好き」


 「…俺も」


 ふふっと笑い柚葉から離れていく。


 嬉しそうに飛び上がると、柚葉はウインクをし、人差し指を顔の前に持ってきた。


 そしていたずらな笑みでこう言った。


 「姉さんには、ナイショですからね?」



 

 

 


 


 

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