第2話 幼なじみ
「それじゃ、また明日」
「うん! ありがと、お兄さん!」
にこりと笑い、小さく手を振る。
やっぱりこう見ると、昔から変わらない。小さい頃から笑った時の顔が可愛くて、上手い表現が出来ないけど、本当に愛らしい。
「おう」
手を小さく振り返す。
柚葉は嬉しそうな顔をしながら、玄関を開けて、消えていく。
その日の帰路はずっと柚葉のことばかりを考えていた。
一ノ
俺の一つ年下で家も近所、小中高と同じ学校で過ごし、本当に昔から顔を知っている、いわゆる幼馴染みってやつだ。
そしてもう一人、こいつには姉がいる。
「…んー、」
「んー、じゃねぇおーきーろ!」
ベットに寝転がっている制服姿の女の額をパチンと叩く。
あぁー!と痛そうな悲鳴を上げて一ノ
「いったー…なに? せっかく寝てたのにー」
「寝てたのにじゃねーよ、勝手に人のベッドで寝やがって…てか、さっさと帰れ」
「カズのお母さんには許可取りましたー、ざんねーん!」
そう言ってクスクスと笑い、確実に小馬鹿にするような瞳を向ける。
俺をカズと呼ぶこいつは、同い年の幼馴染みにして、柚葉の姉、一ノ
柚葉によく似て…いや、逆に柚葉がこいつに似たのだろう。顔の各パーツは柚葉同様、よく整っていて、体つきもだいぶ大人っぽい。
そんな可愛いと言うより美人な印象がある琴葉には、黒くしっとりとした長い髪の毛がよく似合っていた。
いたずらに覗き込む視線に、チッと舌打ちをする。
まぁ、今更か…と半諦めのため息を吐きながら、勉強机の椅子に腰掛けた。
「…そんで? 今日はなんの用だよ」
「お、やっと聞いてくれましたか…」
ヨイショと立ち上がり、おそらくぶん投げたことが予想できる鞄から取り出したのは、二枚のプリント。
それをテーブルに置くとカーペットの上に座った。
「ごめん、また落ちちゃった♪」
てへ、と小さく舌を見せる。
その緊張感のなさが妙にウザくて、頭の中の血管が危うく切れかける。
落ち着け、一応お金はもらってるんだ…、これぐらいは我慢だ…。
すぅー、と息を吸って怒りを沈める。
俺は琴葉の横に座るとプリントを手に取った。
一ノ瀬琴葉、という文字の横に大きく、堂々と書かれた8という数字。
見た瞬間夢であってほしいと思ったこの紙は、紛れもなく数学のテスト用紙なのだ。
「えーっと、琴葉さん?」
「なに?」
「お金…いらないんで他あたってくれませんか?」
「…君をもっと困らせたい(イケボ)」
「あ、やべ、キレそう」
そんな会話で琴葉は楽しそうにケラケラと笑う。
俺はわりかし本気なんだけどな。
「ごめん、でも頼れるのカズしか居なくて…だからお願い…」
そう言うと体をグッと近づけて肩と肩を密着させ、俺の太ももに手を置いた。
そして、囁くように、
「私に勉強、おしえて?」
思わずどきりとしてしまった。
手を払い除け、小さく押し返すと早口で言った。
「そーゆーのやめろって…勉強、教えてやるから」
「ふふ…ありがと、カズ」
心地よさそうに笑い、また肩を密着させる。
だからそういうのやめろって言ったのに…。
だけど、その時頭をよぎったのは、柚葉のあの言葉だった。
—姉さんには、ナイショですからね?
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