第3話「誠実な紳士、シンシーア!」

 伝説のファイター、「Purity Cure」。略して「ピュリキュア」。この言葉が意味するのは「清浄せいじょう」、そして「治癒ちゆ」。

 これは、一人の少女がいろいろ背負いながらも、とりあえず楽しく生きていく感じの物語である――!


 ◇◇◇


 こんにちは! わたしの名前は純空すみぞら氷華ひょうか私立虹にじいろ高校に通う、キッラキラの高校一年生!

 わたしは伝説のファイター〈ピュリキュア〉に変身して、悪の怪人〈アクヤーク〉を毎日のように倒しているの! ピュリキュアとして戦い始めてから、はや六年。正直、向かうところ敵なしだわ。ホラ、どんな相手でもかかって来なさい!


 ◇


――ズガァァーン!

 平穏な街並みに、突如暗黒の怪人が現れた。

「ウガァァーイ! テァラァァーイ!」

「きゃあああー! 助けてー!」

 暗黒のオーラをまとった体長一九〇センチメートルほどの怪人、アクヤークが暴れはじめたのだ!

「そ、そうだ。彼女を呼ぼう!」

 住人の一人がこう叫んだ。

「カモーン! ピュリキュアァァー!」

――キラリーン!

 瞬間、お空に輝く一筋の光。そして始まる変身の時。

「ピュリキュア! アイシングパレード!」

――ヒュオォォー

 天かける一筋の光は、突如発生した大きな吹雪に包まれた。吹雪の中で舞い踊る少女の胸のあたりで、きらりと輝く氷の結晶がはじける。いつの間にかそこには大きなリボンが。続いてスカートが現れ、アームカバーにレッグカバーと、次々にきれいな衣装が少女の身を覆っていく。

 下ろされていた黒髪が光に包まれたかと思うと、次の瞬間には透き通る水色の頭髪が生えそろい、四つ又に分かれたポニーテールたちがさらさらと揺れていた。

――ファァァァー

 氷の結晶を大地に展開し、ゆっくりとそこに降り立つ。彼女は真っ直ぐに前を見据え、高らかに叫んだ。

「キンキンにえわたるんだハート! ピュアシャーベット!」

――ババーン!

「来てくれたんだね! ピュアシャーベット!」

「ええ、もちろんよ。わたしがやらなきゃ、誰がこの街を守るのって話!」

 シャーベットは地面をタッと蹴り、怪人アクヤークの腹部に右パンチをえぐり込んだ。アクヤークは大きく後方へ吹き飛ばされる。

「ウガァァァアァァーイ!」

――ガッシャーン

 先手を取ったシャーベットは、相手を休ませる暇もなく次の技を繰り出す。

「来て! わたしのマイボウ!」

 シャーベットが伸ばした左手の先に小規模な吹雪が発生する。その中から半透明の美しい輝きを見せる氷の弓が現れた! アイスボウに右手を添えると、そこにみるみる氷の矢が生成されていく。

「これでも食らいなさい! ティーンエイジング・アイスアロー!」

――ヒュンッ

 放たれた一本の矢は空中で十九本に分裂し、そのすべてがアクヤークの全身をくまなく突き刺していく。

「テアラァァアァァーイ!」

――ピキピキピキ

 アイスアローの突き刺さった箇所から、アクヤークの身体はどんどん氷結していく。

『ピア! シャーベット、すごいピア!』

「うん、やっぱりアイスボウは強いわね」

 シャーベットの耳元に取り付けられた超小型インカムから甲高い声が響いた。声の主は、イノセシアという異世界からやってきた、妖精のピピア。見た目は、丸々と太った鳥のような姿をしており、目がデカい。羽毛のカラーは淡いミント色である。氷華の自宅地下に設営された秘密基地から指令を出し、ピュリキュアをサポートしている。

「ウガアァァアァァアァァ!」

――ズモモバァァー!

 アクヤークの吹き上げる暗黒オーラが、勢いを増している!

「来るわね。第二段階が」

 シャーベットがそう言うと、アクヤークは全身の氷を突き破り、はるか上空まで飛び上がった!

――ドシーン……!

 再び地面に降り立ったアクヤークは、恐るべき量のオーラを放っている。アクヤークは大きなダメージを受けると第二段階の姿に移行する。しかし、その変化は大したことがない。唯一の変化は、顔が見えるくらいである。アクヤークにされてしまった人間の元の顔が見えるようになるのである。それゆえ、ときどき正気を取り戻して会話ができたりもする。

「ウウ……ボ、僕は……」

「あら、さっそく正気を取り戻したみたいね」

 アクヤークは人間が姿を変えたもので、その人の抱く罪悪感が増幅させられてしまい、怪人と化しているのである。今回は、幼い中学生くらいの男子がアクヤークにされてしまっているようだ。

「ねえ、あなたはいったいどんな罪悪感を抱えているの?」

「そ、そうだった! 僕はあの場から逃げたんだ! なんてひどいことを――ウ、ウガ、ウガァァアァァーイ!」

――ズモモモォォォー!

 激しい量の暗黒オーラが噴き上がっている。罪の意識が強まり、罪悪感のエネルギー放出量が増加しているのだ。

「くっ、厄介ね。さっさと片付けなきゃ」

 シャーベットは再び弓を構える。しかし横やりが入ってきた。

「そうはさせませんよッ!」

「えっ!?」

――ガキィーン!

 シャーベットは不意打ちを何とかアイスボウで受け止める。

 突然攻撃を仕掛けて来たのは、タキシードのような装いをして黒髭を生やした紳士風の怪人。彼の名は、〈シンシーア〉。ギルセシアという異世界の王国からやってきた幹部で、人間をアクヤークに変えては、その罪悪エナジーを回収することを目的に活動している。

「シンシッシッシッシ。毎回のようにアイスボウにやられていますからね。今日は対策をしてきました」

「なんですって」

 シンシーアは、自身の背後から氷でできた大剣を取り出して見せた。全長二メートルはあろうかという巨大な剣は、禍々しい紫色のオーラをまとっている。シンシーアがいつも持っていたような気品あるステッキとは程遠いデザインである。

「これは、氷属性の大剣です。目には目を、歯には歯を、ということで考案し、私の故郷の仲間に作らせました。その名も〈アイスバー〉!」

「アイスボウに対抗しての、アイスバーですって!?」

「あなたのアイスボウの強さは、その弾数の多さと弾速の速さにあります。それに打ち勝つために必要なのは、しっかりとした受けの構え。アイスアローのような細々とした攻撃を、たとえどんなに大量に浴びせようとも、この武器の巨大なパワーの前では無力に等しいでしょう! シンシッシッシッシ、アーッアッアッア!」

『ピア、これはお手並み拝見ピアね~』

「見せてもらおうじゃないのっ!」

 シャーベットはアイスボウを引き絞り、氷の弓矢を生成する。シンシーアのお望み通り、たくさんの細々とした攻撃をぶつけるつもりだ。

「食らいなさい! ティーンエイジング・アイスアロー!」

 〈ティーンエイジング・アイスアロー〉は、十三本から十九本の氷の矢がランダムで生成され、それを放射状に放つアイスボウの必殺技の一つだ。今回は一番少ない出目が出てしまったようで、十三本に分裂したアイスアローがシンシーアを襲う。

「シンシッシッシ! このパワーをしかとその目に焼き付けるがよいのです。アイスバー! 氷の矢をすべて食らい尽くしなさい!」

――ブオンッ

 シンシーアが氷の巨剣を振るうと、そこに獰猛な獅子のごときブリザードが放たれた。荒れ狂う氷の嵐は十三本の矢をあっけなく飲み込んでしまう。氷の矢と氷の嵐は互いに溶け合い、地面一帯が水浸しになる。

「ア、アイスボウの必殺技が!」

「シーンシッシッシッシ! 見ましたか、私の故郷の者たちの技術力を! 帰って褒めてやらねばなりません。今から土産話を持ち帰るのが楽しみですよ!」

 シンシーアが笑っているあいだ、別の大きな黒い影がシャーベットに近づいてきた。

「ウガァァーイ!」

――ズシーン!

 忘れられていたアクヤークが、シャーベットにパンチを繰り出す。しかし、シャーベットはその拳をひらりとかわし、アクヤークの頭上に飛び乗る。

「シンシーア、確かにそのアイスバーはすてきな武器だわ。でも、氷属性はわたしのテリトリーなのよ。あなたに使いこなせるかしらっ!」

――タッ

 シャーベットはアクヤークの頭部を踏み台にして、高く上空へと飛び跳ねた!

「食らいなさい! アンチエイジング・フローズンアロー!」

 シャーベットが矢を放つと、それは無数の小さな矢へと分裂した。百本は優に超えるであろう矢の雨は、辺り一帯に降り注いでいく。しかし、その一つ一つの威力は決して強いものではない。

「シンシッシ! この期に及んでそのような攻撃を!アイスバー、わたくしを守りなさい!」

――ズオォォー

 シンシーアは自身の真上に向けて氷の巨剣を振るった。すると、大きな吹雪が吹き荒れ、彼の上空に降り注ぐ氷の矢は次々と飲み込まれていく。

――ビチャビチャビチャ

 結局のところ、シンシーアには傷一つ付けられなかったようである。

「シーンシッシッシ! やはりあなたの技は、数ばかりでパワーが足りません! どんなに大量の矢を放とうとも、わたくしの仲間が生み出したこの武器の前では無力なんですよ~! シンシッシッシ!」

「くっ、それはそうかもしれないわね。でも、わたしには作戦があるわ。今に見てなさいよ~」

 シャーベットは再びアクヤークの頭頂部に着地する。

 それを見たシンシーアは反撃を開始するため、アイスバーを大きく振りかぶろうとした。しかし  

――ピキピキピキ

「シアッ!?」

 シンシーアは、下半身の身動きが取れなくなっていることに気づいた。

「ウガァァーイ……」

 アクヤークもまた脚元が凍りつき、動けなくなっている。

「なんですか、これは! 地面がすっかり凍りついてしまっているではありませんか!」

 シンシーアとアクヤークの身体は、みるみる上半身まで凍りついていく。

「あなたに向けて放たれた矢はおとりよ! 本当の目的は、たくさんのアイスアローを地面に突き刺すこと。〈アンチエイジング・フローズンアロー〉は液体となった水分を固形の氷へと戻してしまう、わたしの新技! 地面に突き立った無数のアイスアローは周囲の温度をみるみる低下させ、辺り一帯は凍りついたのよ!」

『二人の戦いで地面は水浸しになっていたピアね。シャーベットはそれを利用したんだピア。氷技を使い慣れているシャーベットの方が一枚上手だったということピア!』

「シ、シアーッ! そんな技があるとは聞いておりませんよ! なぜ毎度のように新技を量産できるのです!」

「ふふ、わたしの技は無尽蔵。インスピレーションの沸く限り、いくらでも技は増え続けるのよ」

 シャーベットはアクヤークの頭部に乗り、シンシーアに向けて弓を引き絞る。ひときわ大きな氷の矢が、一本だけ生成されていく。

「これで最後の技よ! 食らいなさい! アイスエイジ・イクスティンクション!」

『こ、これはまさか――本当の必殺技ピア!?』

――グサァァーン!

 放たれた矢はシンシーアの心臓部を貫いた。たとえどんなに屈強なギルセシアの戦士であれど、一つの生命体であることに変わりはない。あらゆる分子が運動をやめる氷点下の世界の中で、シンシーアは自身の意識が遠のいていくのを感じていた。

「シアーッ――!わたくしは、もうこれまでのようですね。しかし、このアイスバーはしっかりと活躍してくれました。ありがとう、故郷の仲間たち。そして、ピュアシャーベット。あなたは正真正銘のファイターでしたよ。その徹底した戦いへの誠実な姿勢。わたくしにとって、あなたのように冷徹で高潔な本物の戦士と出会えたことは、喜びでした。あなたならば、たとえどんな困難に直面しても、一人で戦い抜いていくことができることでしょう! シンシッシッシ……アーッアッアァ――」

――カッチーーーン

 美しき氷の像が見せるその笑みは、自身の生に対する充足の心を精一杯に表現している、そんな笑みだった。

『シンシーア……。彼がもつ品位の奥底には、仲間や宿敵、そしてこの世界そのものに対する敬意ッ、その輝きが秘められていたピア――ッ』

「たとえどんなに素晴らしい相手であっても、それが敵であるならば、殲滅するのみなのよ。それがわたしの、唯一にして至上の生き方!」

――フワッ

 シャーベットは髪をなびかせ、アクヤークから飛び降りた。

「ピピア、はじめるわよ」

『ピア! すぐに準備できるピア!』

 ピピアは基地の方で何やら操作をしている。すると、みるみるシャーベットの身体がまばゆい輝きを放っていった。

 暗黒オーラを噴出しながら、苦しみのうめき声をあげるアクヤーク。

「ウガァァ……!」

「アクヤーク、あなたは何を苦しんでいるのかしら」

「ウガァァ……。ぼ、僕は、逃げてしまったんだ」

「へえ」

「僕は、友だちと一緒に万引きを繰り返していて、ある日それがついにバレた。でもその日は偶然、実行犯があいつで、僕は見張り役だった。彼が捕まったのを見て、僕は怖くなって逃げたんだ」

「あらま」

「その後、彼は警察に連絡されて、学校にも親にも連絡された。でも、どうやら僕のことはバラさなかったらしいんだ」

「それはそれは……」

「万引きしたってことはクラスメイトたちにも広まって、あいつと仲良くするやつは減っていったよ。最終的に、彼はクラスで孤立した。だけど、僕は……」

「いつも通りの日常って感じ?」

「そうさ。はじめのうちは、あいつと一番仲が良かった僕もちょっと疑われたけど、『あいつが一人でやったことだ』って言ったら、それ以上追求してくるやつはいなかったよ」

「あら、それはよかったじゃない」

「そ、そりゃあよかったけど! よくはないのさ! 本来なら僕も彼も同罪なんだ。なのに僕は逃げ隠れ、悠々といつも通りの日々を送っている。彼はちゃんと責任を問われて、こんなことになっているっていうのに! よっぽど悪なのは、僕の方なんじゃないのか! 僕は、僕はァァアァァウガアァァアァァ――!」

「あらあら、落ち着きなさいよ! あなたはアクヤーク化されて、罪悪感が無理やり増幅させられているだけなの! それに、気にしてるのは立派なことだわ。もちろん二人とも同じくらい悪いと思うわ。でも、その日実行したのは彼だったわけでしょう。彼がやったから、彼が非難された。もしあなたがやっていたら、あなたが非難されただけよ。その日のサイコロの出目が偶然違っただけ」

「そ、そうかなぁ……?」

 シャーベットはアクヤークに近づく。

「彼が実行犯だったその日に限っては、あなたは悪いことなんて何にもしていないのよ。そうでしょう? あなたは悪いことをしていないから、あなたは捕まらなかった。それだけよ。いつまでもくよくよ気にしていてもしょうがないわ」

 シャーベットの身体はますます輝きを強めている。

「そ、そんな軽々しい慰めを……。でも、人からこうやって慰められるのは、自分でやるのに比べれば何倍もマシなものだね。自分で自分に同じことを言っても、そうやって自分で自分の罪を許そうとしていること自体が、むしろよっぽど悪だと感じてしまうから……」

「そうよ。自分を非難する気持ちが大事なのよ。自分で反省していて、今後は同じことを繰り返さないというのなら、それで結構なのよ。その上で、その後悔と自責の気持ちを忘れないでいることも、たぶんいくらか大事なことなんでしょうね」

『中々よく言うようになったピアね』

「シャーベット、こんな僕のために……」

 アクヤークの心はみるみる癒されていく。

「安心してね、あなたを今すぐその苦しみから解き放ってあげる」

 シャーベットのイヤホンに甲高い声が響いた。

『準備完了ピア! 浄化するピア~!』

「オッケー、いくよ!」

 光り輝くシャーベットは、左手をアクヤーク向けて突き出した!

「ピュリキュア! ホワイトニング・ピューリファイ!」

――ギュパァァァァー!

 シャーベットがその手から放ったまばゆい光波こうはは、溢れ出す暗黒オーラもろともアクヤークを直撃する。

――ギュパァーァーァーァー

 圧倒的純度の白色光線に飲み込まれながら、アクヤークは最期の言葉を述べる。

「シャーベット――あり、がとう――」

『……八十パー……九十パー……百パーセント! 浄化完了ピア!』

「あーっ、終わったー!」

 シャーベットはホッと息をつき、変身を解除する。

 放たれた光波が途絶えた後、地面の上には一人の少年が横たわっていた。あのような激しい攻撃を受けたにもかかわらず、不思議と少年は無傷だ。それもそのはず。ホワイトニング・ピューリファイは、身体そのものへの外傷は与えず、彼の罪悪感を消し去ったのである。そして、罪悪感の源でもある記憶もまた、完全に消し去っている。また、周囲で戦いを見ていた人間たちの記憶もピューリファイしている。これは、恐るべき精神浄化魔法なのである。

 そこへ、白い装束を身に纏った者たちがやってくる。

「氷華様。この少年をただちに安置室へと運びます」

「うん、お願いね」

 彼女らは、シャーベットの自宅兼秘密基地で働くヘルパーさんたちだ。料理や洗濯、掃除などといった家事全般と、アクヤークにされ、ピューリファイを受けた人間を秘密基地へと回収する仕事をしている。

 ヘルパーたちはビニール質の大きな寝袋で少年を手際よく包み込む。氷華は、そそくさと立ち去るヘルパーたちを横目に自宅へと歩を進めた。

「ヘルパーさんたち、いつもお疲れ様。ピピアもね」

『氷華もお疲れ様ピア』

「うん。ありがとう、ピピア」

 氷華の自宅は、今では営業されていない空き旅館だ。空き旅館の中に、氷華とピピア、そして十三人のヘルパーたちが住んでいる。十三人のヘルパーはみな、先代のピュリキュアだと言われている。現役を退いたかつてのピュリキュアたちが、幼い現役ピュリキュアのために奉仕させられているのだ。彼女たちはピュリキュアとしての活動を終えるときに、精神浄化を受けている。ピュリキュアとして生きた記憶をすべて消去されているのだ。

 しかし、あるきっかけで記憶が戻ることがある。初代ピュリキュアの〈ピュアライス〉は、偶然にも米を食したことで記憶を取り戻した。彼女は自身の記憶が消されていたことに憤慨し、ピピアへの反乱を企てたこともあったが、どうやら返り討ちに会ったらしく、再び記憶をピューリファイされて今では黙って労働を続けている。

 ヘルパーたちは、今日も浄化された人間を安置室へと運び込む――。


 ◇


 秘密基地は旅館の地下にあり、地上はふつうの旅館である。自宅へ帰ってきた氷華は、旅館の和室でお茶を飲んでいる。ピピアは氷華の向かいの席で、国産大豆から作られた味噌スープをその口ばしで器用にすすっている。

「氷華、アクヤークの罪悪感を癒すのにもだいぶ慣れてきたみたいピアね」

「そうね。ピュリキュアの役目は罪悪感を浄化し、癒すことだって聞いてるからね」

「そうピア。罪悪感には、ピュリキュアによる癒しが必要なんだピア」

 氷華に両親はなく、十歳より前の記憶もない。気づいたころには、この旅館でピピアたちと暮らしていた。

「さーて、それより今日の晩御飯は何かしら? エビフライ? それとも揚げ海老?」

「それってどっちも一緒ピア! そうピア。今日は氷華の好きなエビフライとシャーベットピア!」

 ヘルパーの一人がお盆を持ってやってくる。

「氷華様、お持ちいたしました」

 お盆の上には、丼ぶり一杯に盛られたレモンライムシャーベットが。シャーベットの内部には、カチコチに凍ったエビフライが六本ほど閉じ込められている。

「これこれ~!」

「毎日毎日、シャーベットとエビフライばかりピア。本当によく飽きないピアね」

「もっちろんじゃなーい! 好きなものを食べられるのって、すごく幸せなことでしょう? ピピアだって、毎日納豆と豆腐ばっかりじゃない。今日は味噌汁? どれだけ大豆のこと好きなのよ。まさか、鳥なの?」

「鳥じゃないピア! ピピアは豆類が好きなだけの、妖精さんピア!」

 ただし外見は完全に鳥である。ミント色の羽毛と大きな目玉をもった珍種のハトである。味噌汁と一緒に、今度は冷ややっこを食べ始めている。

「食事に関してこれ以上の干渉はなしピア。お互い好きなものを食べるだけピア!」

「何よその言い方! ピピアの方からふっかけてきたくせに~」

「それよりこれを見るピア! 味噌汁や豆腐だけでなく、豆腐にかかっている醤油ピア! これもまた大豆から作られているピア! 何ということピア。世界は大豆でできているんだピア! イノセシアに帰ったら、ピピアは必ず大豆を栽培するピア~!」

 ピピアは故郷のイノセシアへと帰る日を夢見ているようだ。

「いいわね。わたしも将来は料理研究家になろうかしら。わたしのエビフライとシャーベットに対する異常な執着。この謎を解かずにはいられないわっ!」

 山奥に位置する自宅兼秘密基地の旧旅館では、今日も愉快な話し声が響き渡っている。

 

 第六話おわり

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