鏡囚

@Lazyer

第1話

 私は今日も鏡を覗く。そこに映るのは起き抜けの腑抜けた面をした一人の女だ。


 鏡というのはどうにも好きになれない。だから出来る限り見たくはないのだが、やはり世間体を考えると身だしなみのために毎日確認する必要がある。


 多い時には日に二十回ほど。とにかく嫌で嫌で仕方が無いのだが、仕方なく私は鏡を覗いている。

 

 女は、鏡を覗く度に姿を変える。憂鬱に、気だるげに、物悲しそうに、恐ろしげに、病的に。さりとて一度も、笑顔であったためしはない。そこに映るのは、鏡面に囚われた哀れな虜囚である。


 毎日、毎度、鏡を覗く度、私は女と面会する。その目は何かを訴えるようで、だが一度たりとも、言葉を発することはない。虜囚はそこで、永遠を過ごす。


 彼女はふと、思い出したように口角を上げてみることがある。しかしそれは笑顔には程遠く、余計に虚しさを増しているようにも思う。


 放っておけばいいのに。それでも私は虜囚に合わずにはいられない。何度も、何度も、彼女と会っては気分を落ち込ませる。それはきっと必要なのだと思う。


 哀れな虜囚は、こうして今日も惨めな一人の女を覗き返す。

 

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