過去
部屋に入った圭吾を待っていたのは、彼の曾祖父ディルク・カムデラ・スルクだった。白く長い髭を蓄え、皺だらけの顔で老人は圭吾を見るなりニヤリと笑った。
ディルクは聖マリサ・アスティアール学園の理事長であり、共和国魔術の長とも言われている共和国を代表する魔術師である。国際魔術連盟においても議長を務めた経歴も持ち、彼を知らない共和国魔術師はいない。彼は部屋の窓際にて高級な机に座っていた。
「ディルク・カムデラ・スルク…………まさか俺の曾祖父は有名人だとは驚いたよ」
「ほほう。やはり知っていたか。さすがわしのひ孫じゃな」
そう言ってディルクは満足そうな笑みを浮かべた。しかし、反対に圭吾は不服の気持ちだった。
「何を企んでいる?」
「おいおい圭吾。ここは『会いたかったよおおじいちゃん!』じゃろ?」
「ふざけるなジョン。俺を20歳まであの世界に居させた理由は何だ? 俺に魔術を教えたのは何故だ?」
ジョン。圭吾の橘家で飼っていた犬の名である。ディルクはジョンを操作して圭吾に魔術を教授していたのである。それは圭吾が9歳の時から始まり、圭吾が成人する直前までそれは続いた。
「ジョン……あの犬はもう死んだか?」
「ああ。長生きしたよ」
「そうか――――簡単じゃ圭吾。こうして会いたかった為じゃ」
「嘘をつくな! 俺に義眼まで与えて魔術会に敵対させておいてそんなもん信じられるか!」
「嘘ではない。ひ孫を思うこの気持ちは本物じゃ」
その顔は真剣な表情だった。そのディルクの顔を見た圭吾はたじろいた。
「会えて嬉しいのは本当じゃ信じろ。それと魔術を教えた理由はな……」
「動けない自分の代わりだろ?」
その圭吾の言葉にディルクはしばらく黙った後、答えた。
「……まあ、八割正解じゃな」
「やはりそうか。イデア魔術会の同行を探る為だな」
「ははっ。そこまでか圭吾?」
「そこまでとは何だ?」
「何でもない。では、本題に移るぞ圭吾よ。お前にここで三つの事を話そう。お前をここに招いたのはこの三つの話をする為じゃ」
「何? 三つの話とは何だ?」
「まず一つ目。これはお前が知りたい――――いや、知るべき内容じゃ」
「知るべき内容だと?」
「お前の生みの親の事じゃよ」
そのディルクの言葉に圭吾の鼓動は高鳴った。今まで知りたかった一つなのは間違いないのだ。圭吾は赤子の時、あちらの世界に送られた。その時、拾われたのが橘夫妻である。
「――――俺の実の両親」
「そうだ」
「知りたい。俺の本当の親はどんな人だったんだ?」
「あれは今から23年前ぐらいか……」
ディルクはゆっくりと圭吾の両親の話をし始めた。
23年前。聖マリサ・アスティアール学園高等部一年五組に一人の転校生がいた。名を神楽義玄馬(かぐらぎげんま)。ガスティア帝国の四強国の一国シデン和国からの留学生であり、神樂義家の長子である。黒い髪に黒い瞳、そして浅黒い肌を持つ彼は共和国においては目立つ存在だった。ブレザーの制服の中一人学ラン姿では余計に目立つ。
「神樂義玄馬です。よろしく…………」
黒板の前で一礼する玄馬に対するクラスの反応はあまりよろしくないものであった。当然である。玄馬の目つきは鋭く悪い、貴族ばかりのお坊ちゃまお嬢様学園では畏怖される様な顔立ちだったのだ。そして醸し出している雰囲気も悪人に近い。
「えと……それだけですか?」
若い女の担任教師が玄馬に聞いた。
「はい」
「そっそうですか。では席は一番後ろね。それと……イリスさん」
「はーい!」
青い長髪の女子生徒が勢いよく返事をし席から立ち上がった。
「学級委員長として彼に学園の案内してね」
「了解しました!」
イリスはそう言って敬礼した。
彼女はイリス・スルク。アスティアール学園の理事長の孫娘にして学園切っての人気者である。白い肌の持ち主で青く長い髪であるがそれらに反して性格は天真爛漫、元気溌剌そのものであり友達も多い元気な少女であった。
玄馬は指示された席に向かう。それはちょうどイリスの隣の席であった。
「よろしく神樂義君!」
イリスの挨拶を玄馬は無視した。
「イリスさん。どうやらこのお方は礼儀を知らない様でしてよ。失礼なお方ですこと」
イリスの前に座る女子生徒がイリスに小さな声で言った。
「いやー緊張してんじゃないかな?」
「イリスさんは前向きすぎます。このお方はどうみても悪人でしてよ。顔からして危ないのがよく分かります」
その声が玄馬に聞こえたのか、玄馬はイリスの前の女子生徒を睨みつけた。
「ひぃ!」
目が合ってしまった女子生徒は恐れて目を素早く逸らした。
「駄目だよ人を見た目で判断しちゃ。そう思うよね神樂義君」
イリスのその言葉にも玄馬は何も答えなかった。
「それではホームルームを始ます」
担任教師がHRを始めていく。多くのクラスメイトに畏怖されながら神樂義玄馬の留学生活は始まったのだった。
「それでは神樂義君。案内するのは放課後でよろしいかな?」
HRが終わり、休み時間になるとイリスただ一人が玄馬に近づいた。その他クラスメイトは玄馬から一定の距離を取る。玄馬は再度イリスの言葉に対しては無視した。
「おい、てめぇ!」
それを見かねた一人の男子生徒が玄馬に近づいて怒鳴った。
「何、シカトしてんだ? さっきからイリスが聞いてんのに無視しやがって」
怖い顔をした男子生徒は今にも玄馬に飛び掛かりそうな勢いであった。それに対して玄馬はため息をついて席から立ちあがった。
「へぇ……こんなお坊ちゃま学園にもお前みたいのがいるんだな。温室育ちばかりで気弱な男共しかいないと思っていたがこの学校生活は楽しめそうだ」
「そうかい転校生。だったらイリスにちゃんと謝れよ」
「はぁ?」
「楽しい学園生活送りたいんだろ? だったら謝れよ。無視した事!」
その男子生徒の言葉を無視して玄馬は一人教室を出ていく。それに激怒した男子生徒は歩いて出ていこうとする玄馬に向かって拳を振り上げた。その行動からして殴ることは明白だったが、一人の大声でそれは止まった。
「喧嘩は…………ダメェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」
イリスの大声が教室内に響き渡った。それは校舎の隅々まで聞こえる程だった。
「おっおい!? イリス!?」
突然のイリスの声に男子生徒はたじろいた。玄馬も分かりにくいが内心驚嘆していた。
(なんてクソでかい声だこの女……)
「喧嘩はダメよ! ダメダメ! みんな仲良くするべきだよ! だから喧嘩はダメ」
「わっ分かったよ!」
男子生徒は素直に言ったが、玄馬は一人教室を出ていった。それをイリスは追いかけた。
「どこいくの神樂義君!?」
イリスの声に玄馬は足を止めた。
「どこでもいいだろ」
「どこでもいいって……この学校とても広いよ! 案内無しで行くと迷子になるって!」
「構うなよ。俺は一人で十分だ」
「一人でいいなんてダメだよ!」
その言葉に玄馬は聞き覚えがありつい振り向いてしまった。
「何?」
「一人でいいなんて思っちゃダメだよ。人間一人で生けていけないんだから!」
「一人で生きられずに群れるのは弱い証拠だ。だから俺はできる限り、強く生きる為に一人で生きていく」
「それは間違っているよ!」
「黙れ。分かっただろ? 俺に構うな」
「嫌だよ! 放課後必ず学校案内するからね!」
その言葉を聞き終えずに玄馬は歩いてどこかへと行ってしまった。
「イリスさん。あんなのほっといておきましょう」
クラスメイトの女子生徒がイリスに近づき言った。
「でも!」
「学級委員長だからってあんな不愛想な奴に構う必要なんてないよ」
「でもクラスメイトだよ? 仲良くしたいじゃん?」
「……そう思ってんのイリスさんぐらいだよ。皆、怖いって思ってるよ」
「そんな。よく話せばいい人かもしれないじゃん!」
「そうかな……?」
「よし! 私、決めた! あの神樂義君をなんとしてもクラスに打ち解けさせるんだから!」
その時のイリスの目は燃えていた。それを見ていたクラスメイトの女子生徒はただため息をつくのだった。
放課後、全ての授業が終わると各自、部活に向かったり下校したりした。その中、玄馬は一人で寮へと戻ろうしたが、そこにイリスが立ちはだかる。
「待ってもらおうかそこの君!」
仁王立ちのイリスは偉そうだった。
「何だうっとしい」
「約束したでしょ放課後案内するって!」
「約束なんてしてねぇよ。お前が一方的に言ってただけだろ?」
「そうだっけ?」
その時のイリスの顔に対し玄馬はただため息をついた。
「帰る」
イリスを避けて帰ろうとした玄馬の手をイリスは掴んだ。
「おい!?」
「強制連行だぜ君!」
「なっはな……!」
その時だった。玄馬は強引な怪力で引っ張れ、足が地につかない感覚に襲われた。
「うおおおお!!!!」
イリスが魔術にて怪力を発揮して圭吾を強引に連れ出したのだ。廊下を猛スピードで走る男の子の手を掴んで走る少女の光景はシュールである。
「おいお前! 学園内の魔術使用は禁止のはずだろ!?」
「大丈夫! うちのおじいちゃんに後で言えば問題ない!」
「そういう問題じゃねぇ! 離せ怪力女!」
「やだよ! 案内するもん!」
「ああ――クソッ! 分かった分かったから! 止まれ!」
その玄馬の声に素直にイリスは止まった。玄馬はいきなり止まって為、慣性によりイリスの前に出た。
「おっと!」
倒れそうになるも玄馬は何とか立った。
「本当だね! 私に案内させてくれるの?」
「ああ。しょうがないから案内させてやるよ」
「やった!」
イリスは万歳した。
その後、二人は学園中を歩き回った。アスティアール学園の敷地はとても広い。一日で案内できる面積ではないが、一通り主要箇所だけはイリスは案内した。
「こんな所かな」
屋外に出た二人に夕暮れの明かりが照らされた。なんだかんだ玄馬は最後までイリスと付き合ったのだった。
「おい委員長。図書室はどこだ?」
それが玄馬が一番知りたかった場所であった。とある目的の為、一番知りたい場所が本の管理されている場所である。
「えっ? 図書室はないけど図書館はあるよ!」
そう言ってイリスはとある方向を指さした。その指さした方向には洋館が遠くに見えた。
「あれが図書館だよ。色んな本があって何でも調べられるよ。でも中には禁書もあって禁書区画には入らないようにね」
「あれが図書館か……」
玄馬はそう呟いて図書館を睨みつけた。
「……何か怖い顔してるよ神樂義君」
「生まれつきだ……それより今日は……ありがと」
思いがけない玄馬からの感謝の言葉にイリスはぱっと明るい笑顔を見せた。
「いやーありがとうって言われるとは!」
「そんなにおかしいか?」
「おかしくはないよ! でも、嬉しいな」
そのイリスの笑顔はかわいい笑顔だった。そんなかわいい笑顔など今まで母親以外向けられた事がない玄馬は当惑した。
「じゃあこれで学園案内終わりね! じゃあね神樂義君!」
「えっ?……ああ」
イリスは走り去って行った。そして一人残された玄馬は目的を思い出し、とある決心をしたのであった。
その日の夜、寮住まいの生徒教師以外全て帰宅した事を確認した玄馬は行動を起こした。それは図書館の侵入、そして禁書の内容を盗み見る事である。
神樂義玄馬がこのアスティアール学園に転校した目的、それは禁書に記された研究結果を家に持ち帰る事である。
(準備はこれでよし。あとは寮から図書館まで警備に見つからずに行けるかどうかだ)
ショルダーバックをかけ、一人部屋を出た玄馬はとっておきの道具を使用する。透過魔石である。身に着ける事により透明人間になれるアイテムである。
寮から出るなり玄馬は透明化し、まっすぐ図書館に向かう。その最中、警備員に遭遇するが透明化している為、すぐ横を素通りしても気づかれなかった。
そして図書館前に到着した玄馬は息を呑んだ。
(よし! 到着した。あとはどこから侵入するかだ!)
「ねぇ? こんな時間に何してんの!?」
「何って……図書館の侵入に決まって……」
その声に聞き覚えがあった玄馬はすぐさま背後を振り向いた。そこにいたのは私服姿のイリスだった。玄馬は驚嘆し、凄い勢いで後ずさりした。
「ぐおおおおお!!!!? 何でお前がいる!!!?」
驚く玄馬に、イリスはただニヤニヤしていた。
「えー。恒例の夜の冒険してる最中、見覚えのある姿を見えたではありせんか! それを追ってみるとなんとそれは神樂義君でした。私はどうしてこんな時間にいるのかと思い声をかけたのでした!」
「こっ恒例の夜の冒険って…………お前ここの理事長の孫娘なんだろ? 街で別荘とかで住んでないのか?」
「住んでないよ。私の家だよこの学校」
「………っていうか何で俺が見えてる!?」
「あっ! ごめん! 私、魔眼持ちそういうの見える性質なんだ。だから見えちった!」
そう言ってイリスは舌を出した。確かに彼女の目の瞳は昼間と異なり違う色へと変化していた。
「……終わった」
玄馬はその場で座り込んだ。
「終わったって何が?」
「理事長の孫娘に現行犯逮捕されたんだから終わりに決まってんだろ。俺は退学か? そして警察に突き出されて国に強制送還だよな」
「えーと、確かに私は神樂義君の目的は聞いちゃったけど侵入する前だしな」
「もしかして黙っておくから俺にとんでもない事をやれって言うのか?」
「あっ! それもいいかも!」
「お前な!」
「うそうそ! 冗談だって。にしても図書館に侵入して何がしたかったの?」
その質問に言う事をためらう玄馬だったが、隠しても無意味だと腹を決めて言った。
「この学園にあるとされるモスティアージュの論文を俺は見たいのだ」
「モスティアージュの論文ってあの『魔王の義眼』の研究結果を記した本だよね?」
「そうだ」
モスティアージュ。共和国を代表する有名な魔術師の一人であり、考古学の専門家であった約100年前の人物である。晩年彼は世界各地で語り継がれる七人伝説の中の『魔王の義眼』について研究し、研究の成果をある程度まとめたが完成する前に病により他界。その後、弟子達がその研究結果をまとめ一冊の本にしたが高度に暗号化された内容は解読していこうとすると何故か発狂したり急死が頻発した為、以後禁書とされ保管されてきたのがモスティアージュの論文である。当然であるが解読に成功した者など一人もいない。
「もう『魔王の義眼』は現代魔術にて不可能な代物だと証明されたって聞いたけど。そもそも昔から研究対象としてよくテーマにされ続けてきて、ほとんどありえない代物として結論が出されているけど調べるの?」
「俺の家である神樂義家は曾祖父の代から『魔王の義眼』について研究しているだ。俺の父親も研究を引き継ぎ続けているんだが、研究が行き詰ってしまった。だから打開策としてモスティアージュの論文の内容を知る必要があるんだよ」
「ふーん」
そのイリスの反応に玄馬は驚いた。
「笑わないのか?」
「どうして? 別におかしい事かな?」
「だって『魔王の義眼』だぞ! 散々研究され続け、ありえないと結論づけられて、それでも真剣に研究し続けるなんて滑稽だろ?」
その事で玄馬は故郷にて散々笑い者にされてきた。今更研究する価値もない物に時間をかけているなど魔術師として愚かであると玄馬は言われ続けてきた。
「私は笑わないよ」
「何故だ?」
「人が本気で取り組んでいる事を笑うなんて私にはできない。確かに魔王の義眼はおとぎ話かもしれないけど、ロマンがあっていいと私は思う」
「……変な奴だなお前」
「君に言われたくないよ」
「そうだな……」
そう呟いた玄馬の顔はどこか穏やかだった。
「それで今から警備員に俺を引き渡すんだろ。行こうぜ」
「はっ? 何、勘違いしてるの? なんでそうなるの?」
これまた玄馬は驚いた。
「はっ? だってお前」
「私も手伝うわ! おもしろそうだし!」
そのイリスの言葉に玄馬は呆れた顔を見せた。
「お前、自分が何言ってんのか分かってんのか?」
「うん。だから行こうよ!」
「行こうよじゃねえよ! 普通止めるだろ!?」
「いいよ別に。私、おじいちゃん嫌いなの。魔術でなんでも解決できるって思ってるからね」
「そういう問題じゃねえよ」
「ていうか警備員がまたここ回るよ。話してないで早く図書館に侵入しよう!」
「……お前本当に学級委員長なのか?」
「うん!」
そう言ってイリスは万遍の笑みを浮かべた。その笑顔にただ玄馬は苦笑いするだけだった。
二人の侵入は開始された。イリスの案内で図書館の裏手には侵入しやすい窓から二人は入った。そして二階三階まで上がり、三階の本棚の奥の奥にある禁書区画に辿り着いた。
玄馬は透明化を解いて、禁書区域と記された標識を見上げた。
「到着!」
小さな声でイリスは言った。
「こっからが問題だ。この侵入感知と出入りを封印している魔術の鎖を解けるかどうか」
禁書区画の出入り口は鎖にて頑丈に封鎖されていた。さらに鎖には強力な魔術がかけられており、侵入感知と出入り禁止の封印が施されていた。魔術の腕がそう高くない玄馬にも分かるぐらい分かりやすい処置で封印はされている。
「多分、ハイレベルな魔術師じゃないと侵入は難しいね」
「そうだろうな」
玄馬はしばらく出入り口を見つめながら考え始めた。父から色々と魔術の指導を受けてきた玄馬であったが、この魔術を解くレベルには到達していなかった。そこで父からとっておきの封印解除の道具を支給されていたが、扱いが難しい代物であった。
玄馬はショルダーバックに手をかけた。
「えい!」
バックに目を向けていた玄馬を置いてイリスは一人で出入り口にかけられた魔術を全て解除してしまった。
「えっ…………? えええぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
驚きを隠せない玄馬にイリスはドヤ顔を見せた。
「どうよ! これが私の力だ!」
「おっ……お前とんでもない奴だったんだな」
「いや、単に開ける為の鍵の魔術をおじいちゃんの部屋で勝手に盗み見て覚えてただけ!」
「はっ?」
玄馬の目は点になった。
「さあ、行こうぞ! モスティアージュの論文を探すのだ!」
一人冒険気分のイリスにただただ玄馬は一人呆れてしまうのであった。
「どうしたの? 早く探そうよ!」
「そうだな……」
薄暗い禁書区域の本棚の本を手当たり次第引っ張っては戻す確認を二人は続けた。しかし、中々目的のモスティアージュの論文は見つからない。
「見つからないね」
「ああ。でも、ここは本当に宝の山だな。帝国に持ち帰るととんでもない額で引き取ってくれる本ばかりだ」
玄馬は少し興奮を覚えていた。取り出す本はどれもこれもレア物ばかり。魔道を志す者からしてみれば興奮するのは当たり前だった。
「あった!」
先にモスティアージュの論文を見つけたのはイリスだった。本は赤く、表紙に黒い線で魔法陣が描かれていた。すぐさま玄馬は駆け寄って本を受け取り開いた。
「すごい……これがモスティアージュの論文か!」
興奮し、目を輝かせながら玄馬は本をペラペラとめくっていく。だが、数ページ軽く目を通しただけで玄馬は頭痛に襲われた。
「ぐっ!」
「大丈夫!?」
「だっ大丈夫だ」
「やっぱり危ない本だねこれ」
二人は机に移動した。そして玄馬はショルダーバックを開き、中から無地で白い本を一冊取り出した。机の上に論文と白い本を並べる。
「これってもしかして写本化できる写本書籍?」
「そうだ。オリジナルはさすがに盗まれたのが知れればまずいだろう。だからコピーする」
玄馬はそう言って右手左手をそれぞれ本の上にかざした。そして複写魔術を発動した。が、モスティアージュの論文はそれを弾いた。鋭い電撃が玄馬の手を襲った。
「ぐっ!?」
痛みの前に玄馬は手を引っ込めた。
「プロテクトか……!? これもどうにしかして解除しなければ」
玄馬はモスティアージュの論文に対し魔術の解析を仕掛けるが、それもプロテクトにより弾かれた。
「ぐあっ!」
「神樂義君!」
軽く吹き飛ばされた玄馬にイリスは駆け寄った。
「大丈夫?」
「クソ! ここまで来ておいて! もう少しなのに!」
本気で悔しがる玄馬を見てイリスはどうにかしてやりたいと思った。手がないわけではないが、それはリスクが付き纏っていた。
「私になら出来るかも……!」
「何?」
「私の魔眼は魔術を無効化するものなの。でも、私まだ完璧に使いこなせてなくてうまく出来ないかもしれない」
「論文のプロテクトを無効化できるって事か…………」
玄馬は考えた。考えた末、これ以上彼女に借りは作りたくないと至った。
「うまく出来ないならしょうがない。諦める」
「いいの?」
「ああ。委員長にこれ以上借りは作りたくないんでね」
玄馬はそう言って論文を本棚に戻そうと手に取るが、それをイリスは止めた。
「やってみようよ!」
「何?」
「この本の為にわざわざ遠いここまで来たんでしょ? だったらやってみようよ」
「このプロテクトはどうみても強力だ。学生の俺達がどうにかできるもんじゃない!」
「確かにそうかもしれないけど、やってみなきゃわかんないよ」
「だが……」
「やろう!」
イリスの言う通り、玄馬は一人遠いここ共和国に留学する為に色々と苦労したのは事実だった。何故なら帝国の傘下国から共和国に留学するのは困難であったのだ。根回しをしてくれた父親には頭は上がらない。
「わかった。やってみよう」
「そうこなくちゃ!」
イリスは論文の前に立った。
「恐らくこのプロテクトを無効化出来るのは長くないよ。無効化出来た隙に複写して!」
「分かった」
そう言って玄馬は本二冊の上に手をかざした。
イリスは魔眼を起動させる。瞳の中に文様が浮かび上がり、論文のプロテクトに仕掛けた。しばらく仕掛けていくとプロテクトの電撃による反撃が始まった。イリスは足を一歩さげてしまうが、怯まない。強引に無効化をねじ込んだ。
「今だよ!」
その合図で玄馬は複写魔術を発動した。すると写本書籍が論文と全く同じ本へと変化したのだった。
「成功だ!」
その玄馬の言葉で無効化を解いたイリスはその場にダラリと座り込んだ。
「おっおい!」
「疲れたー!」
イリスの顔は汗まみれだったが、万遍の笑みを玄馬に見せた。
「やったね!」
「大丈夫か!?」
「うん。全力で魔眼の力使ったからもう動けないよ!」
「そうか…………ありがとう」
「いいんだよ。それより良かったね!」
「ああ、これで国に帰れる。父もきっと喜ぶだろう」
「えっ?」
「俺の目的は達成された。もうここにいる理由はない。父に連絡すれば一週間で転校するだろう」
「そんな……」
イリスの顔が見る見るうちに寂しそうな表情になった。
「せっかくクラスメイトになったのに友達になれたのに。それなのにもう帰っちゃうの?」
「ああ。そもそも友達って……俺達もうそんな関係なのか?」
「そうだよ! 私たちはもう友達だよ! だって一緒に悪い事したじゃん!」
「おい! 何か勘違いされそうな事を言うな!」
玄馬は赤面しながら言った。
「友達と言うより共犯者だろ」
「共犯者と友達は同じ意味なの! 分かった?」
「いや違うと思うが!?」
「いいの! 細かい事は気にしない!」
「気にしろよ!」
イリスの寂しい顔を見て玄馬の心は揺らいだ。ここまで自分を友達だと言ってくれる者は今までの人生でいなかったからだ。初めての経験だった。
「はあー」
玄馬はため息をついた。
「一学期だけだ」
「えっ?」
「一学期が終るまでだ。夏休みには国に帰る!」
「本当!?」
「ああ」
「よかった! じゃあまだクラスメイトで友達だよね!」
笑みを浮かべたイリスを見て、かわいい笑顔だと玄馬は思ってしまった。
「友達っていうのはどんなに遠くても友達だと思うぞ」
「そうかもしれないけど会えないのは寂しいよ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんです」
「そうか……じゃあ帰るぞ」
「うん……でも、お願いがあるの」
「何だ?」
イリスは座り込んだまま、動かない。
「魔眼の使い過ぎでもう体動けないの。だからおぶってくんないかな?」
それに対しまた玄馬はため息をついた。
「しょうがないな……まあ、俺は友達らしいからしょうがないか」
これが二人の始まりであった。その後、玄馬は結局国には帰らず三年間をアスティアール学園で過ごした。その三年間、さまざまな行事を通して玄馬とイリスは親交を深めた。最初孤立気味だった玄馬だったがイリスを通して友達が増えていった。しかし、二年の修学旅行にて事件が起こる。イリスの誘拐である。学園の令嬢であるイリスを誘拐し、理事長に対して身代金が要求された。警察も動く中、一人でイリスを救出した者がいた。玄馬である。玄馬はただ一人イリスの残した手かがりを元に居場所を突き止め、犯人達を撃退しイリスを無傷で助けたのだった。そして学園に帰る時には二人が恋仲になっている事に周囲の者は驚きもしなかった。
しかし、反対する者がいた。イリスの祖父にして学園理事長のディルクである。
「イリス。わしの紹介する者と卒業後に婚姻しろ」
「嫌ですおじいちゃん! 私は玄馬と付き合ってるです!」
学園の理事長室で三年となり生徒会長を務め終えたイリスに対し、席に座り偉そうなディルクは政略結婚を命じた。しかし、玄馬と交際しているイリスにとってそれは断固拒否する内容である。
「ならん! スルク家に生まれた以上は家の為に尽くせ! そもそもお前の父親もわしに刃向かい庶民の娘を孕ませてお前を生みおった。これ以上わしを困らせるな!」
「お母さんを侮辱しないで! お父さん達は素晴らしい人だった。それがおじいちゃんには分からないの?」
イリスの父母は医者と看護師だった。イリスが生まれる前から慈善団体で活動しており、イリスが生まれて活動を辞めると決意したが最後の活動にてテロに巻き込まれ二人とも帰らぬ人になっていた。
「あんな偽善者に育ちおって本当バカ息子だったわ。人を助けるのが己の役目などとバカバカしい事を吹いてたわ」
「おじいちゃんは本当にお父さんの父親なの!? それだからお父さんは刃向かったのよ!」
「わしの後を継げば安泰だった! それを蹴ったあいつはバカじゃ!」
「お父さんはバカじゃない! バカなのはおじいちゃんよ!」
イリスはそう言って理事長室を出て行った。
「何なのよあのジジイ!!」
廊下を怒りながらイリスは歩いて行った。
「玄馬!」
教室に戻ったイリスの目に玄馬が映った。端っこの席にて玄馬は読んでいた手紙を机の上に置いた。夕暮れの光が玄馬を照らしている。
「おうイリス。どうだった?」
「駄目だよ。あのクソジジイは」
そのイリスの言葉に玄馬はつい笑ってしまった。
「何、笑っているの?」
「お前がクソジイイなんてな……一年の頃じゃ考えられないぜ」
「この口の悪さは玄馬からうつったんだよ。責任取ってよね」
「責任か……」
そう言って玄馬は悲し気な顔をした。
「どうしたの?」
イリスのは机の手紙に目を向けた。
「……父が倒れた。そして最後の鉱山が閉山となった…………俺ももうここにはいられない」
「えっ?」
イリスは信じたくないという顔になった。
「つまり……? どういう事?」
「俺の家はもう没落貴族って事、そもそも5年前から鉱山は10年持たないとか言われていたんだ。父も代々引き継いできた鉱山をどうにかしたいと頑張っていたんだがな。限界みたいだ」
「……そんな」
「もう学費は払えない。卒業まであと3ヵ月だったのにな。どうせなら卒業式に出たかったぜ」
「何とかならないの!? どうにかしてさ。そうだおじいちゃ」
途中でイリスの言葉は止まった。
「もし話せば喜ぶじゃないか? 憎たらしい孫娘の彼氏がいなくなれば政略結婚は進めやすいだろうし」
「学費についてはどうにかするから! だから最後までいようよ玄馬!」
イリスの目は涙目になっていた。
「それは無理だ。それにイリス…………」
玄馬はイリスの手を取った。
「俺達別れよう……」
それはイリスが聞きたくない言葉だった。目の前が真っ暗になった。
「……いや」
「別れよう。もう俺にはお前を幸せにする事なんてできない。俺の一族は没落した。これからどうにかして復興させるのが俺の役目なんだ。それにイリスを巻き込んだら苦労させるし不幸にさせるかもしれない。だから別れよう」
「嫌よ!! 嫌!」
「イリス」
「別に私の事嫌いになったわけではないんでしょ? なのになんで別れるの?」
「好きとか嫌いとかの問題じゃない。俺といたって幸せになれる見込みは少ないから別れようって言ってんだ」
「好きなら例え貧乏でもなんとかなるよ!」
「イリスはお嬢様だから本当の貧乏の惨めさと苦痛は分からないよ。俺の国の者は貧しい者が多い。それを小さな頃から見てきた俺にはまだ分かる。愛だけでは生活できないってな」
「そんなの関係ないよ!」
「関係あんだよ! 付き合うと結婚するのでは意味が違う! 結婚すれば確かに幸せかもしれない。でもその幸せを続けたいならお金は必要なんだよ。分かるか? お金に苦労した事がないイリスには理解できないかもしれないがな」
その時の玄馬の顔はとても怖かった。普段から怖い目つきであるが、その時はさらに怖い目をしていた。
それに対しイリスは頬に大粒の涙が流れ始めていた。
「……玄馬のバカ………!」
「何だと?」
「玄馬の馬鹿! 大馬鹿!! ドアホ!! 甲斐性なし!! 悪人面!! スケベ!! 分からず屋!!」
「イリス!」
「玄馬なんて…………大っ嫌いぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
教室内に叫びが響き、イリスは駆け出して教室から出ていった。一人取り残された玄馬は唖然としつつ、一人教室で呟いた。
「喧嘩別れか……できれば納得して別れたかったな…………」
翌日の早朝。ユアピト駅のホームで玄馬は歩いていた。手には大きなバックを持ち、ショルダーバックを背負っている。始発の列車にて港まで行き、海を渡ってガルディスト大陸まで戻る手はずだ。
(……これで共和国ともお別れか)
列車の席に圭吾は座り、窓からホームの様子を望む。
退学の手続きは全て昨日のうちに担任を通してすました。寮の部屋もある程度掃除した。いらない物は全て処分した。ただ心残りなのがイリスの事である。喧嘩別れという最悪のパターンで別れてしまったからだ。
「まあ、しょうがないか」
「何がしょうがないんだ?」
その声に玄馬は振り向いた。するとそこにはクラスメイトの男子生徒が一人立っていた。
「バン!? どうしてここに?」
「てめぇが一人別れの挨拶も無しに朝早く出て行ったからつけてきたんだよ」
「そうか……悪いな急で。俺、学園を辞めた。国に帰って父親の手伝いだ」
「そうかい。それは大変だな。でもな玄馬…………大事な者忘れているぜ!」
そう言ってバンは玄馬の腕をつかみ強引に列車から連れ出した。そしてホームに引きずり出した。
「おい! バン! なんの真似だ!」
ホームに出た玄馬を待っていたのは大勢のクラスメイトだった。皆、玄馬と交流がある者である。
「何、黙って帰ろうとしてるんだ! 寂しいだろ!」
「そうよ! 別れの挨拶ぐらいさせてよね!」
「つまんねー事すんなよ玄馬! 俺達友達だろ?」
皆から言葉を貰い、玄馬はつい涙目になった。
「みんな…………」
「おー泣くか玄馬? お前の泣いた所なんて見た事なかったから最後に見せてくれるかな?」
「茶化すんじゃねーよ泣かねぇよ」
「何だ見たかったぜ!」
皆は笑った。玄馬も笑顔になった。
「……来たわよ!」
皆の後ろの方から誰かが来た。すると皆は道を開けて、遅れた一人の少女を通した。
「……イリス」
「玄馬……」
イリスだった。背にはリュックを背負い、ブレザーの制服姿で走ってきたのか息切れしていた。
「……ごめんね玄馬……大嫌いとか言って」
「いや、気にしてない」
「……一晩考えたの。だから今言うから聞いてね」
「ああ」
「えと…………玄馬が私に告白してくれて私達付き合い始めたよね?」
「ああ。そうだったな」
「だから…………私と結婚してください!」
その言葉に一同ざわめいた。そして玄馬は唖然とした。
「すげぇ委員長! 逆プロボーズだ!」
「おめでとうイリス!」
「アホか! まだ玄馬OK言ってないよ!」
皆のざわつきが収まり、玄馬は苦笑いした。
「ハハッ……本当イリスはバカだな」
「なっ!?」
「でも、すごい嬉しいぜ。ありがとう」
「じゃあ……?」
赤い顔を見せるイリスに玄馬は冷静な顔で言った。
「断る。お前を俺の不幸に巻き込みたくない」
「てめぇ本気で言ってんのか!?」
バンが叫ぶ様に言った。それを玄馬は手で出して制止した。皆、黙った。
「俺も一晩考えたらイリスと別れるのはやはりつらかった。別れようと言ってごめん。プロボーズ断ってごめん。でも、こういうのは男からだろう。だから改めて俺は言う。俺と…………結婚してくれないか?」
「断る!」
涙目でイリスは言った。
「えっ?」
一同一斉に言った。
「って言うのは嘘! よろしくね玄馬…………不束者ですがどうがお願いします」
涙をこぼしながら笑顔でイリスは言った。そしてクラスメイト達は祝福の言葉を一斉に投げかけた。
「おめでとうイリス!」
「やったな!」
「二人とも幸せにな!」
「おめでとさん!」
「ありがとう皆!」
「ありがとう」
二人は皆に祝福されながら列車に乗り込んだ。そして列車が発車すると、最後までクラスメイト達は手を振り続けていった。
そして月日は流れ、三年後、互いに21歳になった玄馬とイリスは神樂義家で生活を共にしながら、新たな鉱山を得て神樂義家の立て直しを図ろうとしていた。そして何よりイリスのお腹には新たな命が宿っていた。
「もう少しでありますね奥様」
亜人種であり、壮年のメイドであるカーラは妊娠10ヵ月で身持ちイリスの世話をしていた。イリスの陣痛はもう始めまっており、時は夕暮れ、生まれるのは夜だと思われていた。
「痛いよカーラ! 出産ってこんなに痛いなんて聞いてないよ」
「耐えてください奥様、胎生の種族の母達はこれに耐えて母になるのです」
「分かってるけどつらいよ」
「カーラも共にいます。がんばりましょう」
カーラは助産の経験があり、イリスの出産に携わる。
「それにしてもまた主人様は部屋にこもって研究ですが?」
「うん。もう少しで魔王の義眼の手かがりを知る事ができるって今朝言ってたわ」
「もう。男は肝心な時に役に立たないですね」
「そうね……ぐぁあ!」
神樂義家の屋敷は洋館である。イリスの出産は二階で行われて、玄馬は地下深くの研究室に閉じこもって研究を続けていた。無償髭を生やし、頭をボサボサにしながらも机の上で計算をしていた。
(この計算は間違っていないはず……なのにどうして成功しない)
玄馬は長年の研究の末、もう一つの世界があるという理論に至り、その世界を観測、あわよくば探検出来ればその世界のどこかに魔王の義眼があると考えていた。
しかし、思いのほか異世界の観測は成功していなかった。それほど難しいのである。
「クソ!」
玄馬はペンを投げつけた。研究が思いのほか進まない事に苛立ちを覚える。
「そういえばさっきカーラが陣痛が始まったって言ってたっけ」
玄馬はふと今日のカレンダーを見た。そして子の誕生日を見て、研究の打開策を思いついた。
(まさか観測し安い日があるのではないか?)
その事を踏まえて再び計算を行い、その結果を魔術式に記して魔術を発動した。大きな水面を画面として異世界の情景を映し出す魔術は発動する。すると魔術は成功し、山々や海、川、街、そして人が水面に映し出された。
「やったぁ! 成功だ!」
玄馬は喜びのあまり飛び上がった。そして急いで地下室を出て二階に向かい、イリスがいる部屋に入った。
「やったぞイリス!! 俺はやったぞ!」
「お静かにご主人様。起きてしまいます」
カーラが小さな声で言った。ベットには赤子を抱いたイリスがいた。玄馬が没頭している内に数時間がたち、イリスは元気な赤子を産んでいたのである。
「あら、まあ。騒がしいお父さんです事」
「生まれていたのか……?」
「そうだよ玄馬。あなたはもうお父さんです」
玄馬はイリスに近づいて、赤子を覗いた。そこにはかわいらしい赤ん坊が抱かれて寝ていた。
「俺も父親か…………かわいいな」
「黒い髪はあなたからだけど。顔は私に似てるからしらね」
「今日は本当にめでたい日だ。長きに渡る一族の研究がついに成果を上げたぞ」
「それは本当なの?」
「ああ。今すぐにでも研究室に」
玄馬はこの別荘の土地に侵入した者がいる事を察知した。感知魔術がここまで反応しないという事は相当の手練れであると玄馬は確信した。侵入者は別荘から100m以内に既にいる。
様子のおかしい玄馬にイリスは聞いた。
「どうしたの?」
「……誰か来たぞ」
外はもう真夜中に近い。こんな時間に来客などの予定はない。
「おかしいですね。こんな時間帯にお客が来るなんて予定にはありませんよ」
カーラが言った。
「いや……これは来客じゃない……敵だ!」
玄馬は確信を持って言った。魔術を通して殺意を感じるからだ。
別荘の外は暗い夜の中で雨が降り始めていた。別荘が見える小さなの丘の上、ローブを被った大男が別荘を一人雨にうたれながら眺めているのであった――――
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