1 情報を整理しましょう


所謂トラック転生をした私。今の所人格が分離した様子も、何か転生をする前にこちらの体が異常をきたしていたような様子もない。

ならば、何がきっかけとなってこの体に転生したのか……



「お嬢様? ボーッとされている様ですが、もしかして馬車に酔いましたか?」


「ううん、大丈夫よ。ちょっと入学式に緊張してるだけ。」


「まあ、そうでしたか。心配しなくてもウォーリー公爵令嬢として今まで頑張ってこられたお嬢様なら大丈夫ですよ!このエマが保証します!」



そう、まさしく私はリアルタイムで馬車に乗っているのである。目的地に着くまで時間があるようなので、状況をとりあえず纏めてみよう。盤面把握は論戦で非常に重要なことの1つだ。


まず、今までの会話から分かるのは私はシャロン・ウォーリーという公爵令嬢であること。公爵令嬢なんぞ、まるで映画のようだ。幸いウォーリー家は家に高価なアンティークが沢山置けるほどの余裕が有るので、金には困ってないはずだ。必然的に、その公爵家が仕えるこの国もある程度は発展している。先程から馬車の窓に見える商店街も、小さいながらもかなりの賑わいようだ。治安も良く見えるから、国の内情も安定しているのだろう。


ただ、気になる点が2つある。

1つは、朝から両親に会っていないことだ。

朝起きてからこの馬車に乗るまで出会ったのは使用人のみ。朝食も広いテーブルで1人で摂った。

さらに使用人も先程から一緒に行動しているエマと他数人しか見ない。仮にもお金に余裕のある公爵家なのだから、もっと使用人が居てもいいはずだ。なんだか引っ掛かる。



「ありがとう、エマ。そう言えば、お父様とお母様はどこにいらっしゃったのかしら。入学式前に挨拶をしようと思っていたのだけれども……」



ひとまずそばに待機しているエマに鎌をかけてみる。それにしても、このエマはなんでも話す。守秘義務とかちゃんと守れてるのか?と、ついつい社畜目線で考えてしまう。単純な性格のようで、先程からよく話し、よく情報を落としてくれる。恐らくずっとそばにいてくれるのはエマが公爵家ではなく、私付きだからだろう。大切にしておきたい人物の1人である。



「えっと、その……」


「どうしたの?エマ。何か言い難いことがあるなら無理には聞かないわ。あなたの''主人"はこの屋敷の主人のお父様だし……」



やはり両親には何か事情があるようだ。試しに主人について強調し、軽く圧力を掛けてみる。

恐らく私の読みは外れていないはずだ。

誰が主人(この場合は私)かエマの意識を明確に出させることで、エマはこちらにより忠実になる筈だ。



「いえ!私の主人はシャロン様のみです!!

旦那様と奥様につきましては、その……思春期を迎えるお嬢様に配慮して、今は家族3人は距離を置くことも大切だとお考えになっているようです。」



なるほど、どうやらこの家庭仲が宜しく無いらしい。公爵家という地位だからさしずめ両親は政略結婚なのだろう。エマは私を思って配慮してくれたようだが、その配慮のお陰で逆に家庭内の状況が掴めた。



「ありがとうね、エマ。そうね、私も両親を前にすると少し緊張してしまうの。これが反抗期って言うのかしらね。おほほほ!」


「そ、そうですね、お嬢様は成長期ですから!!」



いやそれ関係無いだろ、と内心ツッコミを入れつつ、もう1つの気になる点について考えを巡らせる。

2つ目の気になる点、それは学園についてだ。今日はどうやら入学式のようだが、私は今朝転生したばかりで何もわからない。どうやら転生特典に今までの記憶はついてないらしい。けっ、ケチ臭いなあ。記憶ぐらいセットで付けろよ!

ともかく、学園について何も情報が無いのが辛い。私は一体何を学びに行くのだろうか。勉強ならもう勘弁だ。こんなことになるくらいなら前世できちんと勉強しておくべきだった。まさか就活の時よりも勉学に励まなかったことを悔やむ時が来るとは。

エマに少し聞いてみるか。



「あのさ、…」


「さあお嬢様、学園に着きましたよ!!

入学式、頑張ってくださいね!」



あれこれ考えている間にどうやら学園に到着したようだ。結局、学園についてはエマからも何も情報が入手出来ていないままだ。

今1番重要な情報が少ないのはキツいが、ここまで来たら逃げられない。正々堂々、自分の目と耳で情報を集めるしかない。

いいだろう、やってやろうじゃないか。異世界で情報収集。なんだかスパイにでもなったようで興奮する。一歩間違えたら公爵令嬢は精神異常者、とレッテルが貼られてしまう。そんなスリルが気持ちいい。

久しぶりにレスバトルの前の様な緊張感と高揚感、妙な快感を覚えた。



「それでは、行って参りますわ。」

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