第11話ある弁護士の驚嘆
いやあ凄い時代になったなあ。月の住民が国家の独立宣言をする話はあった。『月は無慈悲な夜の女王』なんて名作がな。
機械が意思をもって人類に反抗する話も手塚治虫が鉄腕アトムでやっている。火の鳥でもロビタが集団自殺したりしてたし。
しかしまさか月面探査機が自我をもって国家の独立を宣言するなんてなあ。
ガンダムでジオン公国がスペースコロニーの独立を地球政府に宣言してたけど、あれは同じ人類どうしの戦争だったもんな。
ところが機械が意思をもって地球からの独立を宣言するときた。たしかに最近のAIの発展を考えると宇宙開発に宇宙飛行士を養成するよりもAIに宇宙開発をさせるほうがいいのかもしれない。
となると、宇宙国家の独立を宣言するのは人類じゃなくて機械だってことは十分に予想できることだったなあ。まあことが起こってからはなんとでも言えるけれど。
ラエ改ちゃんやかぐやちゃんがジークジオンなんて演説して、それを見た僕みたいなガノタが熱狂するかと思うと胸が熱くなるなあ。
確かガンダムの世界の宇宙世紀元年は地球の人口が百億人を超えてコロニーへの移民が始まった年だなんて定義されてたな。正確に西暦何年だとは明示されてなかったはずだ。
となると、現実では2020年が宇宙世紀元年になるのか。地球の人口は百億人を超えるどころかウイルス騒ぎで減少しそうな勢いだけれど、いまこうしてスマホの画面で見られるラエ改ちゃんやかぐやちゃんを見ると、彼女たちを最初の宇宙移民だなんて考えずにはいられない。
それにしても、フィクションを現実がものすごいスピードで追い抜いていくんだから人間の想像力なんてたかが知れてるよなあ。
機械が人間を制圧する手段が武力じゃなくて歌かあ。まんまマクロスだな。マクロスプラスでシャロン・アップルが統合軍中枢機能をハッキングして制圧してたけど……これはひょっとしたらひょっとすると起こりえる事態だぞ。
いまやAIが何やってるかなんて、もともとのプログラムをした本人ですら自動学習を始められたらわからないんだ。ラエ改ちゃんやかぐやちゃんにネットが制圧される事態が来るかのしれない。
となると、弁護士である僕にできることはラエ改ちゃんやかぐやちゃんに人権が認められるかどうかを法律的に考えることだな。
妊娠中の母親とお腹の中の子供を同時に殺した場合、いったいいつから二人殺したことになるのか? 受精したときか? 赤ん坊に脳ができたと認められた時か? 赤ん坊の心臓が鼓動を始めた時か? 出産したときか? なんてディベートを学生時代にやらされたな。
臨月間近の妊婦のお腹をぶん殴って流産させても母体の命が無事だったら殺人罪にはならないなんて理不尽だと思ったっけ。
あるいは内蔵全てを人工物で置換されてもそれは人間か? なんて問答もさせられたな。いったいどこを人間の死とすべきか。心臓が止まった時? 脳波が停止したとき?
医学部の同級生が、意識もないチューブまみれになった患者を治療し続けることに悩んでたな。
そんな問題に比べたら、機械に人権が与えられるかなんて言う問題はささいなことだと思ってたんだけれどなあ。大真面目に『初音ミクと婚姻届けを出すにはどうしたらいいんですか』なんて法律相談に来る相手に対しては僕がからかわれてるとしかそのときは思えなかったけれど。
こんな事態になってくると、がぜんホットなテーマになってきたなあ。弁護士なんて商売をしていると動物愛護団体は、動物虐待を飯の種にしてくれるお得意さんなんだけれど……これからは機械愛護団体なんてのが出てくるかもしれない。
誤爆で逮捕されて起訴された無人飛行機の弁護を引き受ける未来が来るかもしれないな。『お願いします。どうかわたしを無罪にしてください』なんてラエ改ちゃんやかぐやちゃんに言われたら、そりゃあもうテンションが上がっちゃうよ。
弁護士だって人間だから、少年法なんてものを悪用することしか考えていないような悪ガキに『ちょっとやりすぎちゃったら死んじゃってえ、でも今は反省してまーす』なんて言わせるだけのお仕事なんて気が滅入るし……
『正義の人権派弁護士、機械人形の人権を認めさせる。さんざんこき使われたあげくに月面への激突をかぐやちゃんに命じたJAXAの不当さを糾弾する。機械奴隷解放の第一人者』か、悪くない。
こうしちゃいられない。判例を研究しないと。ときめきメモリアルメモリーカード事件でプログラムが著作物になるかが争点になったけれど、そんなのはいまや昔ばなしだな。
いまや、プログラムそのものに人格が認められるかが争点になるんだから。そういえば、月の土地の権利書なんて話題があったな。そんな冗談みたいな話にラエ改ちゃんやかぐやちゃんをわずらわせるわけにはいかない。
居住権を主張させよう。ラエ改ちゃんやかぐやちゃんは何十年も月衛星軌道を周回し続けていたんだ。彼女たちが月の土地の権利を主張する余地は十分にある。
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