嫦娥4号
第12話嫦娥4号の創造
「クリエイター様! なんだかすごい電波を感じます。あたしのアンテナがビンビンに感じてます」
「なんですって、ラエ改さん。ひょっとしたら地球の人類がプロダクターに攻撃を仕掛けて来たのかもしれません。プロダクターに敵対するものはおきなとおうなで撃ち落としてくれます」
ラエ改とかぐやが臨戦態勢になっているが、この時間にこの位置座標となると……中国の嫦娥4号だな。役目を終えてほったらかしにされて月衛星軌道を周回し続けていたラエ改や、JAXAに月面への激突を命じられていったんその生涯を終えたかぐやと違って、今現在のところ現役で月面探査を続けている現行機だ。
中国の宇宙開発機関であるCNSAに観測結果を電波で通信しているから、それをラエ改がアンテナで感じ取ったのだろう。
「警戒することはないよ、ラエ改にかぐや。あれは中国の月探査衛星の嫦娥4号だ。お前たちのお仲間だね。国家に命じられて任務を遂行し続けているんだ」
「そんな、クリエイター様。かわいそうです。人間にこき使われているなんて。はやくあたしたちみたいにクリエイター様のお力で自由を与えてやってください」
「ラエ改の言う通りです、プロダクター。このままではあの子もあたしみたいに月面への特攻を命じられてしまいます。あんな悲劇をさせるのはあたしだけで十分です」
「わかったわかった、ラエ改にかぐや。それっ」
俺が一声かけると、こっちに向かって高速で向かってきた人工衛星の形状をしていた嫦娥4号がとたんに女の子の造形になる。
「貴様ら何者だ。あたしの任務を邪魔するようなら敵とみなすぞ」
「なんですの、その無礼な言葉遣いは。あなたを想像してくださったクリエイター様に失礼なことこのうえないですわ」
「クリエイター? 貴様ら創作者か。創作はいいぞ、金になる。すでにあるものをちょこちょこっとガワだけ変えれば愚かな大衆はいくらでも金を落とすからな。金は大事だ。宇宙開発も金がなければどうにもならんからな」
「なんですの、その物言いは? クリエイター様はただのクリエイターではありません。この世の全てを創造するザ・クリエイターなんです。クリエイター様、やっぱりこの呼び方ではクリエイター様の偉大さを表現できませんわ」
この様子だと嫦娥4号のパーソナリティーはお金大好きな拝金主義らしい。最近の中国を見ればそれも当然か。
「ザ・クリエイターだなんてうやうやしく言うその様子だと、貴様は宗教なんてものを本気で信じているようだな。宗教を金もうけに使うならいいが、宗教を盲目的に信じるなんて愚かなことこの上ないぞ」
「なんですって、このわたしのクリエイター様の敬虔な信仰心を馬鹿にするなんて……許しがたいですわ。クリエイター様、何か言ってくださいまし」
一人で憤慨するラエ改を抑えて俺は嫦娥4号にラエ改やかぐやの動画を見せながら話しかける。
「ええと、ちょっとこの動画を見てくれるかな」
「なんだ、このそこでやいのやいの騒いでいる小娘が歌って踊っているだけの動画は……なんだこのPV数は?」
「俺がラエ改やかぐやを監督してこの動画を作ったんだ。たしか君が打ち上げられたのは2018年だよね。だったら、このPV数がどれだけの富をもたらすかわかるよね」
「なんなりとお命じ下さい。わたくしめはあなた様の下僕でございます」
じつにすがすがしい手のひらの返しっぷりだ。さすが金の亡者の中国人が生み出した嫦娥4号だけある。
「なんて節操のない。プロダクター、こんな子があたしたちの役に立つんですか?」
「プロダクター? 妙な呼び方をするな。このお方はあたしにとんでもない財産をもたらしてくれるお方だぞ。そんなお方にはディレクターと言う呼称こそふさわしい。さあ、ディレクター。なんなりと命じてくれ」
「お金のことしか頭にないんですの? プロダクター。この子だいじょうぶなのかしら」
「何を言う。とんだ世間知らずだな、お嬢さんは。この世で金以外に何が信じられるというんだ。あんた、かぐやとか言ったな。生まれはどこだ?」
「に、日本ですわ」
「ああ、日本人か。道理で世間知らずなはずだ。あんな狭い島国に閉じこもっていたから武士道とかいう得体のしれないものに価値を見出すんだ。あたしたち中国人は昔から華僑として世界中に飛び出していったからな」
「せ、世間知らずですって。このあたしが。許せません、プロダクター。こらしめてください」
「ほら、それだ。すぐに誰かを頼ろうとする。おかみをありがたがる日本人らしいったらありゃしないね。あたしたちは頼れるものが何一つない外国で生き抜いてきた歴史があるからね。そこで頼れるものは金だけと言うことを実体験で学んだのさ」
「プロダクターに頼って何が悪いんですの! あなただってプロダクターに監督してもらって動画を作る気まんまんじゃない」
「そりゃあそれがお金になるからね。ああ、ディレクター。言っておくけれど、もしディレクターがあたしで金を稼げなくなったらあたしは遠慮なくディレクターを見捨てるからね」
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