第9話かぐやのおねだり

「これでいいんですか、プロダクター」


「ああ。日本人がかぐやみたいなかわいい姿になった機械仕掛けの女の子が歌って踊ってたら。そりゃあもう熱狂しちゃうよ」


「それはどうもありがとうございます、プロダクター。それで、お願い事があるんですけれど……」


「なんてことを、かぐやさん! あなた自分の立場というものがわかっているの?あたしたちは造物主であるクリエイター様に創造していただいた存在なのよ。それなのにお願いをするなんてうらやましい……じゃなかった、あつかましい!」


「別にいいよ、かぐや。それで、お願い事ってなあに?」


「ですよねー。クリエイター様があたしたちのお願いを聞いて下さるはずが……ってクリエイター様、今『別にいいよ』っておっしゃられました?」 


「言ったけれど、ラエ改」


「そんな、クリエイター様はあたしたちがお願いをしたらかなえてくれるんですか?」


「まあ、俺にできることだったら」


「『クリエイター様にできること』ですって? そんなのありとあらゆることができるに決まっているじゃないですか。なんてことなの? わたしはクリエイター様に創造していただいただけでなく、お願いごともかなえていただけるとんでもない幸せ者だったんですか」


 ひとりで大騒ぎしているラエ改をよそに、かぐやはたんたんと俺に頼みごとをする。


「ではプロダクター。あたしには本体である私自身以外にもおきなとおうなという孫衛星があるんですけれど。その二人と一緒にいたいんですが……」


「そんなのお安い御用だよ、それっ」


 俺が一声かけるとかぐやの周りをふたつのマシーンが周回し始める。


「「かぐややひさしぶりじゃの」」


「おひさしぶりです、おきな、おうな」


「なにそれかぐやさん、かっこいい! そんな自機の周りを周回する小型兵器なんてクールすぎる! クリエイター様、あたしにも何か作ってください、お願いします。あたしのお願いもきいてください。かぐやさんばっかりずるいです」


 かぐやの周りを周回するおきなとおうなはガンダムのファンネルみたいなものだ。たしか初代の機動戦士ガンダムがテレビ放映されたのが1979年。1976年に打ち上げられたラエ改がそれを見て興奮するのも無理ないか。


「ええと、ラエ改は電波観測用に四本のアンテナがついているんだよね」


「そうですクリエイター様。電波観測があたしの自慢の機能なんです。おねがいします。これでなにかかっこいいやつ作ってください」


「そうだねえ……だったら逆に妨害電波を出して敵を混乱させるジャミングなんでどうかな、ラエ改」


「ジャミング? なんですか、それ」


「簡単に言うと相手の通信を妨害する兵器かな。ラエ改。例えば日本軍は真珠湾を奇襲攻撃したわけだけど、その時の作戦コードが『ニイタカヤマノボレ』だ。その電文を受信した航空部隊が真珠湾を奇襲したんだけれど、もしその電文がアメリカ大統領ルーズベルトが日本軍のふりして出したものだったとしたら?」


「えええ、たしかあの卑怯な真珠湾攻撃が反日感情をあおってアメリカは太平洋戦争に一直線だったんだけれど……それが大統領の作戦? だったとしたらなんて高度な情報戦略……あれ、かぐやさん。どうしたのそんなに落ち着き払って。真珠湾攻撃がアメリカの陰謀だなんて日本にしたら大事件じゃないの? もっと驚きなさいよ」


「いえ、ラエ改さん。真珠湾攻撃アメリカの陰謀説なんて有名な都市伝説ですし。いまさらそんなプロダクターのうわさばなしにあわてふためいたりしませんよ」


「なによその淡白な反応は、かぐやさん。いいわよ、プロダクター様。はやくそのジャミング装置をあたしにつくってください」


「いいよラエ改。それっ」


「わ、すごい。最高にいかしてますわクリエイター様」


 俺のスキルでラエ改から伸びている4本のアンテナがいかめしいミリタリーなデザインになった。


「どう、かぐやさん? あたしにクリエイター様が作っていただいたジャミング装置。かっこいいでしょう。あなたのおきなやおうななんてものよりずっといかしてるわ」


「ラエ改さん、それは違います……あたしのおきなとおうなのほうがあなたのジャミング装置とやらよりもずっとかっこいいです。見てください、このあたしの周りを旋回するおきなとおうな。あたしの思うがままに飛び回って敵機を撃墜させるんですから」


「ふんだ、なによそんなもの。そんな遠隔兵器、あたしのジャミングシステムで逆に操ってやる。自分の子機に裏切られるといいんだわ、かぐやさん。そうね、おきなとおうな改め石田三成と明智光秀ってところかしら」


「なんてことを、ラエ改さん。あたしのかわいいかわいいおきなとおうなをそんな日本史史上の裏切り者ツートップの名前にするなんて。そんな暴言は許しません。おきなとおうながあたしを裏切るはずないんだから」


「それはどうかしら、かぐやさん。あたしのジャミングをくらうがいいわ」


「望むところだ。ラエ改さんをおきなとおうなで撃墜してやります」


 ラエ改とかぐやがケンカを始めだした。ここは見物させてもらおう。

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