第8話日本総理安部の悩み

 ああもう首相なんて辞めて隠居生活を満喫したい。首相なんて一回やれば充分じゃないか。なんで再選されなきゃならないんだ。そのうえウイルス騒ぎなんてものが起こりやがる。


 なんで僕が首相の時にこんな大問題が起こるんだ。おじいちゃんの岸信介ならともかく、僕じゃあとても対処できないよ。おじいちゃんは昭和の妖怪なんて呼ばれるくらいの大政治家だったもんなあ。


 おじいちゃんこそノーベル平和賞にふさわしいよ。なんでトランプみたいなジャイアンみたいなのをノーベル平和賞にふさわしいだなんて推薦しなきゃいけないんだ。


 官僚の連中に『どうせお飾りですから』なんて二回目の首相に祭り上げられた時はまさかこんなことになるなんて思ってもいなかったもんなあ。あいつらもし僕がウイルスにかかったらどうしてくれるんだ……


 ひょっとしたらそれを期待してるんじゃないだろうな。『在任中に非業の病死を遂げた安倍首相の遺志を継ぐ』なんてスローガンを持ち上げられたらたまらない。平成おじさんの小渕首相が急死したときも自民党の支持率は上がったんだ。


 僕を悲劇のヒーロー扱いにしてこの非常事態を乗り切るつもりなんだ。あいつら、首相をなんだと思っているんだ。


 そのうえに月で独立国家誕生だって? ああ、どうせトランプのやつが日米同盟を立てに自衛隊をどうこうしろとやいのやいの言ってくるんだろうなあ。


 冗談じゃない。自衛隊の国外派遣だってさんざんデモ行進をされるんだ。自衛隊の宇宙派遣となったらどれだけ面倒になるかわかったものじゃない……


 そういえば、自衛隊に『宇宙作戦隊』なんて漫画みたいな部隊が作られたな。たしか今年の五月だっけ。あのときはウイルス騒ぎの中なにSFみたいなことやってるんだと思ったけれど、こうなるとナイスタイミングだな。


 ええと、スペースデブリとかいう宇宙ゴミの除去を目的として発足されたんだっけ。そんなのどうでもいいや。官僚のやつらがどうにでもごまかせる答弁を作ってくれる。


 宇宙作戦隊に対月任務を担ってもらおう。トランプのやつもアメリカ宇宙軍を作ったなんて自慢していたからちょうどいいや。くそ、マスコミのやつらは僕とトランプをスネ夫とジャイアンみたいだなんてからかっていたけれどそんなことあるもんか。


 トランプのやつことあるごとにやれ『宇宙軍を作ったぞ』とか、『国境に壁を作ったぞ』とか自慢してくるんだ。ジャイアンにスネ夫が混じったような奴だからやりにくいったらありゃしないんだ。


 さしづめ僕はのび太だな。それもドラえもんがいない。なんて思ってたら、ラエ改とか言うかわいい女の子に機械部品がごてごてついたバーチャルだかリアルだかよくわからないのがでてきた。


 と思ったら今度はかぐやだって? 日本の月探査機のかぐやが意識をもって女の子の姿になって歌え踊れの騒ぎをしているのがネットで大騒ぎになってる。


 アメリカ人はともかく日本人はこう言うの好きそうだよなあ。ああ、きっと騒ぎになるぞ。『かぐやに日本国籍を!』だとか『かぐやちゃんに住民票を』なんて騒ぎになるんだ。


 アザラシのたまちゃんの時だって『動物に住民票をあげるくらいなら在日外国人にだってそうしろ』なんて騒動が起きた。ただでさえいまは人種問題が厄介になってるのにどうしたらいいんだ。


 ああ、それにしても月の国家か。また外交が面倒になる。いっそのこと地球がスペースデブリでおおわれてくれないかな。トランプが国境に壁を作りたがるんだから、地球が月との外交できなくなるようにしたっていいじゃないか。


 だけど、このかぐやちゃんの歌はいやされるなあ。マスコミには叩かれ、部下からは不祥事を起こされて、トランプからはせっつかれる。そんな激務にむしばまれた中でこの歌はなんだか心に響く。


 もう、なにもかもかぐやちゃんの言う通りにしちゃおうかな。アメリカ人と違って日本人はかぐやちゃんみたいなの好きになるだろうし、なんだかすごいテクノロジーも持ってるみたいだし。


 とりあえず秘密裏にコンタクトを取るのも悪くないかも。そうだよ、機械に人権を認めたっていいじゃないか。人種問題で大騒ぎになっている中、機械の人権という問題が注目されればなんとかなるかも。


 ひょっとしたら、なんだかすごいテクノロジーでいろんな問題が解決されるかもしれない。特定給付金や事業者支援金なんてものをばらまいても、じゃあそれをどう回収するかって話だったけれど……


 そんな悩ましい問題が解決しちゃうかも。あれれ、これってひょっとしたら神風かな。人類の抱えていた問題をぱぱっとかぐやちゃんが解決なんて……


 そうなったらこんどこそ引退しよう。責任はやたら重いくせに、非難ばっかりされてちっともほめられない首相なんてもうこりごりだ。やっぱり僕にはこんなことそもそも無理だったんだから。


 

 

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