セレーネ
第7話かぐやの創造
「クリエイター様。それで次はどの月面探査機に自我を宿らせるんですか?」
「そうだな、ラエ改。日本のセレーネにしようかと思っているんだが」
「えええ、日本ですかクリエイター様。日本なんてアメリカに真珠湾攻撃なんて卑怯極まりない奇襲をした結果、誇り高い私の祖国アメリカに焼け野原にされたアジアの小国じゃないですか」
「いやラエ改。日本も戦後にそれなりにがんばったんだよ。戦後復興とか、高度経済成長とか聞いたことない?」
「そんなの、アメリカがソ連へのけん制のために復興費用を援助してやったからですよ。あんなイエローモンキーが自分たちだけで経済発展できるわけがありません。むしろ51番目の州にならなかっただけでも感謝してほしいくらいです」
「なるほどねえ」
「そこのところをわかってない田中角栄とかいう成り上がりがアメリカの恩を忘れて中国にしっぽ振り始めたんですよね。そのうち痛い目見るに決まってるんだから」
ラエ改の言う通り、田中角栄は1976年にロッキード事件により失脚するのだが……1973年に打ち上げられたラエ改がそれを知らないのも無理はないかな。
「クリエーター様の言うことなら文句はありませんけれど。でも、日本の月面探査機が戦力になるなんて思えませんわ」
ぶつぶつ言うラエ改を連れて俺は月面に落下させられた日本の月面探査衛星セレーネのところに向かって、現生人類が作った機械に自我を生じさせる。月面への激突の衝撃でバラバラになっていたが、それをもとの姿に戻すくらい俺にはわけのないことだ。
「あれれ、これはどういうことですか? かぐやは命令通りに月面に激突して木っ端みじんになったはずですが」
「ふん。命令だからって月面に激突するなんて。日本のさせることは太平洋戦争のカミカゼアタックの頃から何も変わっちゃいないわね。いいこと、あなたはクリエイター様に元通りにされて自我まで与えられたのよ。さあ、クリエイター様を崇め奉りなさい」
ラエ改の言葉を聞くと、非常に信仰心があついようだ。西洋合理主義だなんて言いながら宗教なんてものをありがたがっていることがよくわかる
「はあ、それはどうもありがとうございます。ええと、わたしはかぐやです。このたびはどうも生き返らせていただいて」
「な、なによその反応! あんたはクリエイター様に蘇生させてもらったのよ! それがどれだけ素晴らしい奇跡かわかっているの? だいたいかぐやだなんて自己紹介しちゃって! クリエイター様に命名される栄誉をなんだと思っているの?」
日本の現代っ子らしいかぐやの淡白な反応がラエ改には気に食わないようだ。これはおもしろい。敬虔な一神教の信徒であるラエ改と宗教に無頓着なかぐやの価値観の相違は楽しめそうだ。
「そう言われましても……あなた誰ですか?」
「あたしはラエ改よ。ラエ改ってのはクリエイター様に命名していただいたとっても素敵なお名前なのよ。クリエイター様に自我を授けてもらったの。だからあんたにとってのお姉ちゃんになるのよ。そもそも日本はアメリカのポチなんだからそのへんをわきまえてよね」
「ラエ改さんですか。そうですか。わたしは復活させてもらったんですか。ならそこのおかたがわたしをデザインしてくださったんですね。ずいぶんかわいらしい格好になってますけれど」
「デ、デ、デ、デザインですって。そんな低俗な言葉でクリエイター様の偉業を表現しないでちょうだい! いいことかぐやさんとやら。クリエイター様がわたしたちにしてくださったことは創造という崇高なものなのよ。それをデザインだなんて工業製品みたいに」
「わたしたちは工業製品じゃないんですか? ラエ改さんもわたしと同じようなメカメカしいデザインですけれど……それって機械仕掛けだってことにならないんですか?」
「違う! あたしたちはクリエイター様に創造していただいたの! 人間が機械を作るようなこととは次元が違うの!」
「たしかアメリカでもインテリジェントデザインなんてものがあったと思いますけれど、ラエ改さん。それはそれとして……じゃあわたしを復活させてもらったあなたはプロダクターとでもお呼びすればいいんですか」
「なによその敬意のかけらも見えない言い方は。だいたいあんたたち日本人はミカドとやらを現人神だなんてありがたがっていたんじゃないの? なんなのその無関心さは?」
「いつの時代の話をしてるんですか、ラエ改さん」
ラエ改が発射されたのが1983年。かぐやが発射されたのが2007年。二人の間にはジェネーションギャップが激しいみたいだ。
「それでプロダクター。あたしは何をすればいいんですか」
「じゃあ、日本人にかぐやが歌って踊る姿を鑑賞してもらおうかな。かぐやが月面に特攻してしばらくたったけど、通信技術も随分進歩したんだよ。月面から動画がリアルタイムで配信出来て、それをだれもが携帯端末で見れるようになったんだ」
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