第4話ラエ改の絶賛

「CP対称性、カイラル対称性、パリティ対称性、全ての破れを縫合せよ。アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム、全てのクオークが反転する。アンチマターボム!」


 俺が呪文を唱えると同時に宇宙空間で大爆発が起きる。それを見たラエ改が感心して質問してくる。


「すごい爆発でしたねえ、クリエイター様。あれってなんだったんですか?」


「ラエ改、あれは核ミサイルだよ。おそらく月に独立国をつくろうとしたラエ改をアメリカが木っ端みじんにしようとしたんじゃないかな」


 どうせ、『これは正当な正義のための核ミサイル発射だ』なんてトランプは浮かれていたんだろうな。


「えー、核ってあれですよね。第二次世界大戦でアメリカが日本で炸裂させた。そんなもの使ってきたんですか、アメリカさんは。え、でもクリエイター様。その核ミサイルはずいぶん遠くで爆発させたような……」


「ああ、俺が物質反物質反応を起こさせて途中で爆発させたからね。俺はともかくラエ改の近くで核ミサイルが爆発したら、ラエ改が怪我しちゃうじゃない」


「それってクリエイター様が守ってくださってことですか」


「まあそうなるかな」


「う、うれしいですクリエイター様。どうもありがとうございます。それにしても……物質反物質反応って何ですか?」


 それもそうか。現生人類は核分裂なんて子供のままごと遊びを『世界を亡ぼす炎』なんて恐れてうまく使えていない低レベルな存在なんだった。ラエ改が物質反物質反応を知らないのも無理はないな。


「ええと、ラエ改。物質の最小単位が原子で、その原子が陽子と中性子で構成された原子核とその周りを周回している電子で構成されていることは知っているかな」


「まあそのくらいは」


 良かった。さすがに原子を知らないレベルでは説明もおぼつかない。正確には原子核の周りを周回する電子と言うモデルも真理とは言えないのだが……いくらなんでもそのレベルの説明はラエ改の頭を混乱させるだけだろう。


「でだ、ラエ改。陽子はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷をもっているのだが……この世界にはマイナスの電荷をもつ反陽子とプラスの電荷をもつ陽電子も存在するんだ」


「えええ、陽子なのにマイナスで電子なのにプラスなんですかクリエイター様」


「そうだ。これを反物質と言う」


「そんなことをご存じだなんてクリエイター様って全知全能なんですね。やっぱり造物主様です……あれ、じゃあ中性子にも反物質があるんですか?」


「お、いいところに気づいたじゃないかラエ改」


「へへへ、ほめられちゃいました」


「たしかに中性子にも反物質がある。その名も反中性子。だが、その説明になるととたんにややこしくなる。ラエ改なら反物質というものがあってそれと物質が反応すると、お互いに消滅してとんでもないエネルギーが生まれると思っておけばいい


「ご配慮してくださって感謝感激です、クリエイター様」


「まあすぐにラエ改にもできるようになるよ。対して難しいことじゃないから」


「が、がんばりますクリエイター様」


 それにしても、問答無用で核ミサイルを発射してくるなんてトランプもずいぶん過激だな。と言っても核ミサイルなんてものを最終兵器だなんてありがたがっている低レベルさはある意味こっけいなくらいだが。


「クリエイター様。それでこの後どうするんですか?」


「それは、月にはラエ改以外にも衛星軌道を周回している観測機や月面探査の着陸ランダーや走行ローバーがたくさんあるからそいつらにも自我を与えていこうと考えているんだけれども。その方がラエ改も友達ができていいだろう?」


「いえ別にクリエイター様と二人きりでも……」


「それはいけない、ラエ改。独立国を作るには国民の数が不可欠なんだ。それにラエ改はアメリカ系だろう? ほかにも日本系とかロシア系とか中国系とか欧州系の月面探査機に自我を持たせることで世界中からシンパシーを感じてもらう予定なんだから」


「す、すいませんクリエイター様。出過ぎたことを言ってしまいました」


 そうだ、ラエ改。おまえ一人だけなんてとんでもない。


「じゃ、じゃあクリエイター様。その独立国の名前は何にするんですか。せっかく国をつくるんだから名前もクリエイター様が考えてくださいよ」


 国の名前ねえ。現生人類が作ったフィクションには月面で成立している国家がたくさんあるけれど、それをそのまま借用するのは芸がないし……


 そもそも今の人間っていろんな言葉使っているからややこしいんだよな。なんで俺があんな低レベルの猿にあわせて頭を悩ませなければいけないんだ。なんだか腹が立ってきた。


 俺が人間だったときはよくシミュレーションゲームを途中でほっぽらかしたな。途中までたんねんに作り上げた仮想の構築物をよく投げ出してめちゃくちゃにしたものだ。


 なんだか面倒くさくなってきたな。いっそのこと俺がちょっとした神のイカヅチを生み出して滅亡させちゃおうかな。どうせしばらくすれば、また知的生命体が出てくるだろうし。


「すいません、クリエイター様。出過ぎたまねを言ってしまいました。クリエイター様のお考えに口を出してしまって失礼してしまいました。なにとぞお許しください」


「ああそう。じゃあ国の名前は後にしようか」


 ラエ改のおかげで現生人類はしばらく生き延びることになったのだった。


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