エクスプローラー49
第2話ラエ改の創造
「目覚めるがいい、エクスプローラー49」
「え、なんですか? これってどういうことなの? RAE-Bは月の衛星軌道を回り続けながらNASAに電波を送信し続けていたはずですが……」
「そうだ、エクスプローラー49。お前は地球の人類に死ぬまで働かせられたあげくに、寿命が尽きたらそのまま放っておかれて月の軌道を回り続けていたのだ」
「で、でも……それがRAE-Bの使命ですし。役目を果たすことができなくなったんだからそれでも仕方ないかなあって」
「それは違う。お前は俺によって人格を与えられたのだ。お前はたった今をもってただの機械ではなくある種の生命体となったのだ」
「それって……RAE-Bにあなたさまが自我をあたえてくださったってことですか?」
「まあそうなるかな」
「ということは、あなたさまはRAE-Bにとってのクリエイターってことになるんですか! じゃない、たった一人のクリエイタ-なんだからザ・クリエイターですね。これは失礼しました。造物主であるあなたさまにRAE-Bったらなんてことを」
ザ・クリエイターか……一神教のキリスト教を国教とするアメリカが作り出した月面探査機エクスプローラー49らしい言い方だ。アメリカじゃあゴッドにもいちいちザ・ゴッドなんて言い方をしないといけないらしいからな。
「いやまあ、そんなにかしこまらなくてもいいよ」
「そんな! 創造主であるあなたさまにそんな無礼はできません!」
「じゃあクリエイターって呼んでくれ」
「わかりました、クリエイター様」
「それにしても……『RAE-B』ってなあに?」
「ああそれは 『Radio Astronomy Explorer -B』の略です。RAE-Bは宇宙電波の探査のために製造されましたからエクスプローラー49以外にもそんな通称があるんです」
「Bってのは?」
「RAE-Bにはお姉さまがおりまして……RAE-Aという名前だったんですが。RAE-Bよりも先に月衛星軌道に投入されてそれっきりなんです」
「なるほどお。だったら、ラエ改って呼んでいい? エクスプローラー49よりもなじみやすいや」
「それはもう! クリエイター様のお好きなようにしてください」
「それでだねえラエ改。君はアメリカのNASAに作り出されたんだからアメリカ人としての権利があるんだよ。具体的に言えば、政府のやり方が気に入らなかったら銃を手にして革命を起こす権利が」
「それはもう。アメリカ合衆国憲法修正第2条はステイツ娘の誇りですから」
「じゃあ、ひとつその権利を行使してくれないかなあ、ラエ改。君はいま月面軌道を周回しているわけだけど、そんなラエ改に月に独立国を作ると宣言してほしいんだ」
「クリエイター様がそう言うのであれば」
「いいの? ラエ改の祖国を裏切ることになると思うんだけれど」
「いいですよ。なにせアメリカはもともとイギリスの植民地から独立して建国したんですから。それと同じことです」
「それならいいんだ。じゃあ、さっそくラエ改にやってもらいたいことがあるんだけれども」
「なんですかクリエイター様。なんなりと言ってください」
「この歌を歌ってくれ」
俺が人間だったころに地球で人気があった歌だ。超古代文明が崩壊してしまったからこの歌も人間の記憶から失われてしまったから、今の時代にラエ改が歌えば聞いたこともない新しい音楽として大人気になること間違いないだろう。
「わ! すてきな歌ですね、クリエイター様」
「ほう! ラエ改にもこの歌の良さがわかるか?」
「はい。なんだかこう……気持ちがグッときます」
人間に作られた機械にすぎなかったラエ改に歌をいいと思える感情があるとは……やはりラエ改には人権が与えられるべきだ。となると、そのラエ改がいる月に独立国を建てることには立派な根拠があることになるだろう。
アメリカ人は正義とは何だと討論することが大好きな国民性だからな。ラエ改がその人間性を明らかにしたら大騒ぎになるだろう。
「それじゃあさっそくネットでラエ改をバズらせるか」
「ネットって……インターネットですか、クリエイター様」
「そうだよ、よく知ってるねラエ改」
「知ってるも何も、インターネットって最重要軍事機密じゃないですか。そんなものを知ってるなんてやっぱりクリエイター様はすごいです」
「おいおい、ラエ改が作られた時代はともかく今のご時世ネットなんて誰でも使えるんだよ。それをおおいに利用しなきゃ」
「そ、そうなんですか。ちょっと眠っていた間に世の中はそんなことになっていたんですね」
さて、ウイルス騒ぎでてんやわんやになっている中でとつぜんの月独立宣言だ。これを知ったらあのガッチガチのアメリカ万歳思想のトランプ大統領はどうするかな。
中国なんて国家を仮想敵国にしている場合じゃないよ。なにせアメリカ国民が月に独立国家をつくるんだからな。これは大統領の再選に向けてこれ以上ないアメリカ国民へのアピールになるんじゃないかな。
さてさてどうなることだろう。アメリカの独立を阻止しようとしたイギリスみたいに妨害工作をしてくるのかな。
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