2話 約束
今日も、今日とて、喫茶には朝から冒険者や獣人などの亜人が来店する。
お客の人数はまばらでその彼らの目当ては異質なコーヒーではなくここで普段このダンジョン都市レスポランでは食べられない異国の料理だった。
テーブル席の奥には、ダンジョンでの採掘を終えた屈強のドワーフが特製ポークカレーを頬張り、その横では、新米冒険者がナポリタンを啜り、口の周りをケチャップだらけにして
無償で食べる。
そして、目の前のカウンターには、ふわとろの玉子のオムライスにスプーンで掬い、
口に運びながら歓喜の声を漏らす魔導師の少女が一人居た。
彼女が喫茶ジェントルに入り浸ってからしばらく経つ、未だ学院を休み続けて、一日中喫茶で居候するいる彼女に、いい加減そのワケを聞いてみたいものだ。
だけど、自身のことを話したがらない彼女は、こうして喫茶で過ごすだけなのだった。
「ほわー。あに、ふぉろとろとろのあー」
マレイは、と言葉にならない食レポをしてくる。
「口の中に食べものが入ってるときに喋るんじゃない!」
「まったく、周りに教えてくれる友達がいなかったのか?!」
「むー。」
マレイは頬を膨らませて子どもみたいな膨れっ面で俯く。
「あれ?これは聞いてはまずいことだったかな。」
「まー、気に入っってくれて良かった。」
「これは、オムライスっていってな、トロトロのの玉子でチキンライスを包んだものなんだ。」
「わかる?チキンライス。ケチャップご飯。」
「うーん。なんだか初めて聞く名前のご飯。」
改めて、チキンライスを味わうように噛みしめる。
「お米ってこんなに美味しいんだ。普段食べているのは、はこんなにもちもちで甘みが無いし。」
そう言い、また一口、オムライスをパクつく。
「そうか、それほどか。」
そう言われると料理人冥利につき嬉しく思う。
「この人参ポタージュもオムライスに良く合うから飲んでみ。」
そう言い、人参ポタージュを促す。
「うん、さっきから甘い、良い匂いがしてたから気になってたんだ。」
「いただきまーす。」
そう、スプーンでポタージュを掬い、口に含むと、んん~っと頬を綻ばせる。
「人参のそのものの甘みが凝縮して、濃厚な味わいで美味しい!」
ポタージュ掬い飲み、掬い飲み繰り返して
至福の吐息をつく。この程よい塩気がよりいっそう食欲をそそられる。
「食事中のところ悪いんだけどさ、なんで学院を休み続けるんだ?」
「よかったら、教えて貰っていいかな?」
「それは......」とバツの悪そうな顔をする。
それでも、少し悩んだ末に、語り出す。
「それは、自分のお姉ちゃんのことから始めないといけないよ。」
「わたしには、二つ歳がはなれた姉がいるんだけど、今は国の選抜パーティーメンバーに選ばれて任務中で世界を飛び回っているんだ。」
マレイはポタージュを一口飲み、また続ける。
「そんあお姉ちゃんが自慢でね。でも、それ以上に自分と比べてしまって自分なんかと思っていたりするんだ。」
「そうだったのか、亮太はコーヒーカップを磨きながら耳だけは彼女の言葉に耳を傾けて
言う。
「でもね、わたしは、爆裂魔法の使い手で学院で問題ばかり起こして学院では、
問題ばかり起こして、異端児扱いでさ。」
「うんうん。」
それは、自業自得なのでは、と思うが敢えて口には出さないで頷く。
「わたしのことはいいんだよ!」
「でもね、お姉ちゃんのことまで、変わり者みたいに在りもしない噂を言われるのが我慢できなくてさ」
「わたしが、学院に居たら素行が悪いせいでお姉ちゃんまで更に悪く言われて、それが嫌で
学院から逃げちゃた。」
とマレイは、不登校になったワケを打ち明けてくれた。
「そうだったのか。」
お姉さんのことを悪く言われないためにか。」
「学院に居るのが辛いのは分かった。」
「だから、無理に学院に行けとは言わない。」
「でも、辛いことから逃げ続けてラクナ方へラクナ方へと甘え続けたら段々と日常生活に
戻り辛くなってしまうぞ。」
「それは、わかっているけど......」
「いいかマレイ。」
磨き終えたカップをコトリと置くと亮太は改まってマレイに向き直る。
「人って言うのはな、辛い日常の中でささやかな幸せがあるから人は、その試練を乗り越えられるものなんだ。」
「だから、ここで一歩を踏み出してみないか?」
「皆を変えるんじゃない。お前が変わるんだ!」
「誰も文句を言えないくらい、凄い自分になればさー」
「学院の皆もお前の陰口やお姉さんを悪く言う人も居なくなるだろう。」
「それてでも、どうしても辛いことがあればー」
「オレが受け止めるからさ。」とそう言いマレイとこれからの自分を変えようと約束をかわすのだった。
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