強要

「あの、まだやりますか?」

「うん、もう少し」


土曜の昼。

空っぽの教室で後輩君と二人きり。

穏やかで、幸せな時間。


「少し眠くなってきたわね…」

「さすがにここで寝るのは勘弁したもらいたいのですが」


ここ。

彼の膝の上。

部活の昼休みにここで過ごすのが今の私の癒し。


「そもそもの話、なんで僕は先輩の頭をなでなきゃいけないんですか…」

「あら、いつもあなたの尻拭いをしてあげているのは誰かしら?」


彼は過去、部活で大きな失敗をした。

それこそ、部活にいられなくなるほどに。


「傲慢でナルシストなあなたが、ずいぶん丸くなったわね?」

「あの頃の話はしないでくださいよ…」


ほんとうに、素敵な時間。

、彼は私のもの。


「さぁ、もう満足していただけましたか?」

「……、まだよ。」

「でも、サキに見つかったら」

「その名前は、今は出さない約束よね?」


そう、彼には彼女がいる。

だから、彼が私だけを見てくれるのは今だけ。

逆らえない彼をいいように利用してるだけ。


「それは、すみません。」

「わかればいいのよ」




そんなこと、わかってる。

わかったうえで、は今もこうしている。


「はぁ、でも休憩ももう終わりね。」

「そうですね」


でも、去り際の悲しそうな先輩の顔を見るたびに、


「来週も、ですか?」


自分からこう尋ねてしまう。


「もちろんよ」


彼から聞いてくるんだもの、断れないわ。


「ん?なんですか?」

「べつに。あなたのかわいい顔を最後に拝んでただけよ」



ほんと、私って最低ね。


僕だって、先輩には負けてませんよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る