湯治場にて2

麻子は駅前の喫茶店の窓から、

山間の小さな町を眺めている。

風が吹くと埃が舞う。

父親とテレビで見た西部劇を思い出した。

ワイアット・アープ、ドグ・ホリデイ。

クラスの男の子たちが、片手でピストルの真似をして遊んでいる。

そして、そこに混じっていかない俊一がいた。

駅前に商店街が続き、食事のできる店もある。

この辺りでは、比較的大きな町。

麻子には見慣れた風景。

ずっとこんな町ばかり訪れている。

時代から置いていかれた、日本の原風景なのか。

テーブルに置かれた、濃い目のコーヒーとナポリタン。

どこに行ってもナポリタンの味が変わらないことが、

麻子には不思議に思えた。

と同時に、そのことに安心している自分に気づく。

麻子はナポリタンに粉チーズをかける。

粉チーズをかけるから同じ味になるのか、

同じ味だから粉チーズをかけるのか。

「どこに行っても、粉チーズは同じ銘柄なの」

「取り決めでもあるのかな」

電話口の向こうの洋子が困惑している。

「憧れじゃない。都会はみんなこの銘柄を使ってるって」

「映画かなんかで見たんだよ」

「そうか、ありがとう。またかけるから」

麻子は受話器を置いた。

こんな町でも、公衆電話を探すのにひと苦労する。

麻子は店主が趣味でピンク電話を置いているという雑貨屋を後にした。

特に収穫はなかったが、それはいつものことで気にするほどのことでもない。

そろそろ湯治場に向かうバスの時間。

「そんな若いのに湯治かい」

バス停にいたおばあさんが麻子に尋ねた。

「ちょっと、腰の具合が」

麻子は作り笑いで答える。

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