湯治場にて1

深く積もった落ち葉。

裸になってしまった木々の向こうの、

どんよりとした空を見る。

「ヒコさん、今年も国には帰らないのかい」

隣に立っていた男が、ジャンパーの襟を立てた。

冷たい風が吹き抜けていく。

「ここでずいぶん作業してるけど、全然形が見えてこねえな」

「それは、俺たちが考えることじゃない」

「言われた通りに作業をして、金がもらえりゃそれでいい」

「そんなもんかね」

「そんなもんさ」

雪がちらついてくる。

もうじきこの現場も閉鎖されて、

作業員たちは家族のもとに帰っていく。

「ここに残るわけにはいかねえからな」

「雨露はしのげても、取り残されて身動きもできねえ」

「春になって、死体とご対面は嫌だよ」

現場の責任者が雅比古に言う。

「わかってるよ」

雅比古は少しずつ男たちから離れていく。

「今日は戻らないから」

雅比古は宿舎になっている小屋の前で、

すれ違った男にそう言った。

「明日は休みだからな、ゆっくりしてきなよ」

男は笑顔で雅比古を送り出した。

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