旅立ち4

「なあ、シュン。ウチの工房に来るか、見習いに」

「まずは、身の回りの世話からだけど」

ヨーコさんは家具職人をしている。

正直、この前見学に行ったときは、

緊張しすぎて、

あの張り詰めた空間に居ることが

かなり辛かった。

僕なんかで大丈夫なんだろうか。

「あんまり考え込むなよ」

ヨーコさんが僕を見て言う。

「師匠は気に入ったみたいだ」

「べらべらしゃべる奴は嫌いだから」

「師匠にズケズケ言えるのは、おかみさんだけだったからな」

「最近、亡くなったんですよね」

「それで、こまごましたものをやる人がいなくて」

「それを僕が」

ヨーコさんが部屋の中を眺める。

「向いてるよな」

まあ、身の回りの世話ならね。

そこらへんは、昔から鍛えられてる。

母親は家のことは何もしなかったからなあ。

「事件の前までは、そんなことなかったんだよ」

ばあちゃんが僕によく言っていた。

母親も事件の犠牲者みたいなものだから。

「いつからですか」

「シュンがいいなら、いつでもいいぞ」

「明日からでも」

「わかりました」

ヨーコさんが少し驚いた顔で僕を見てる。

「ちょっと待ってくれ」

「まだ師匠に、ちゃんと話してないんだ」

「やっぱりね」

「焦りましたか」

僕はヨーコさんを見て笑った。

ヨーコさんが僕に飛びかかってくる。

素振りだけだったけど。

「僕も、このままってわけにはいかないので」

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