旅立ち3
一階の奥にあるドア。
その脇の壁に体を預けて立っている。
ヨーコさんは木陰にある井戸から水を汲んで、
顔を洗っている。
ちょうど、こんな暑い日だったかな、
アサちゃんに強引に手を引かれて、
ここまでやってきた。
終業式だったろうか、
授業は午前中で終わりだった。
アサちゃんの両親と一緒に素麺を食べ、スイカを食べて、麦茶を飲んだ。
スイカはあの井戸で冷やしていたもの。
「その井戸はまだ現役なんですか」
「大丈夫だったはずだよ」
「ただ、飲むんだったら沸かしたほうがいいぞ」
「この水で淹れたコーヒーはうまいんだ」
ヨーコさんがタオルで顔をぬぐいながらこっちに歩いてくる。
アサちゃんの両親は優しかったなあ。
「ヨーコさん、アサちゃんの両親はどうしているんですか」
「あんたと変わらないよ」
「みんなバラバラですか」
「親父さんはこの近くにいるらしいけど、よく知らないんだ」
ヨーコさんがドアの前に立った。
「中に入ってみるか。鍵は預かってある」
「いいですよ。今日は」
「そうか。見たくなったらいつでも言ってくれ」
「今日は素麺にしますか。一緒に食べましょう」
「いいねえ」
「それじゃ、つまみを仕入れてくるよ」
「軽く飲んで、シメは素麺」
ヨーコさんの後姿が離れていく。
まあ、いつもどおりか。
「そうだ、シュン」
ヨーコさんが不意に振り返る。
「うちの職場、見に来るか。明日ならいいぞ」
「いいんですか」
「約束してたからな」
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