旅立ち2
「ヨーコさん、どうしてアサちゃんは僕をあそこに連れてきたんでしょう」
「見つけちゃったからじゃない」
「前から捜してたのよ、同居人」
「それなら普通、女の子とかじゃないですか」
「まあ、そうかな」
部屋に荷物を入れて鍵を閉めた時、
ヨーコさんが後ろから、僕の肩を叩いた。
「うなぎ食べに行こう、奢るから」
「うなぎですか」
「うなぎ嫌い」
「好きですけど」
普通に中華屋とかでいいのに。
「遠慮しないで」
ヨーコさんが笑顔で僕の顔をのぞきこむ。
僕の荷物は、部屋に戻る途中で、
ヨーコさんの知っているリサイクルショップに置いてきたので、
身の回りの物だけだった。
「処分代も含むから、過度の期待はしないように」
軽トラに乗り込みながら、ヨーコさんが言った。
部屋の中には、まだアサちゃんの名残が残っていた。
でも、いつかそんな名残さえもなくなってしまうのだろうか。
「シュンは、ずっとこの辺りを行ったり来たりしてたのか」
ヨーコさんは白焼きをつまみにビールを飲んでいる。
「小学生の高学年の時、母親が男とどっかに言っちゃって」
「その後は田舎で祖父と祖母に育てられました」
「なかなかの人生だな」
「そうですね。だから今こうしていても、別に何とも思わないっていうか」
「麻子がシュンを連れてきた理由がわかる気がするよ」
「もともと僕は殺人犯の子どもですから」
ヨーコさんは、口に含んだビールを吹き出しそうになる。
「おいおい、やけに重い話だな」
ヨーコさんは口のまわりを、おしぼりで拭った。
「まあ、実際は傷害致死なんですけどね」
「でも、説明するのも面倒くさいっていうか」
「結局、人を殺したら殺人犯なんですよ」
「いや、傷害致死と殺人はかなり違うぞ」
「そう思ってくれるのはヨーコさんぐらいで」
「麻子は知ってたのか」
「多分、知らないと思います。なんかあるとは思ってたでしょうけど」
辺りに香ばしいいい匂いが漂って、
うな重が運ばれてきた。
ヨーコさんが白焼きの乗った皿を、
前に押し出して僕のほうに。
「残り食べちゃえよ」
僕は、わさび醤油をつけて白焼きを頬張った。
「なんかいいんですかね」
「こんなに美味いうなぎを食べて」
「いいに決まってる。当たり前だ」
ヨーコさんの笑顔。
ヨーコさんは知ってたんだ。
アサちゃんが、部屋に戻ってこないことを。
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