旅立ち1

「冷蔵庫にビールあるから飲んでいいよ」

アサちゃんはシャワーを浴びに浴室に。

ビールが飲みたいわけでもなかったので、

その辺にあった雑誌のページをめくっていた。

アサちゃんは夜遅くまで仕事をしているので、

朝はいつも遅くまで寝ていた。

アサちゃんが起きたら、

僕とアサちゃんは遅い朝食を食べる。

「先に食べてもいいのに」

朝食の用意はいつも僕がしている。

「二人で食べたほうがおいしい」

「そりゃ、そうだけど」

「お腹すかない」

「大丈夫、ちょこちょこつまんでいるから」

「そうか」

いつも同じ、アサちゃんの笑顔。

「同級生なんだって」

ヨーコさんが僕に言う。

「ほんのちょっとだけでしたけど」

「でも、不思議とこの辺はよく覚えているんですよ」

「アサちゃんの家にもよく行ったし」

「あたしとも会ってるかもな」

「そうですね」

「覚えてないのは、母親といたアパートだけです」

「まあ、それはここに限ったわけじゃないですけど」

ヨーコさんは、ほとんど毎日この部屋に来ていた。

「ねえ、シュン君。パンツ忘れちゃった」

「一番上の引き出しの、右側」

わかりましたよ。掃除のときにチェック済みです。

というか、結局洗濯も僕がやってるわけだし。

「シュン君の好みで選んでいいよ」

選ぶまでもない。

ほぼ同じものしか持ってないじゃない。

僕がカーテンで仕切られた、脱衣所の前にパンツを置くと、

カーテンの下から手がのびてくる。

「地味だね」

「何言ってるの。ほぼ無地の白しかないじゃない」

「リボンがついたのとかなかった」

「わかんないよ。それより、ブラはいいの」

「あたしそんなにないから、どっちでもいいの」

「シュン君、貧乳好きでしょう」

「どっちかって言えば、大きいよりいいかな」

「やっぱり」

いきなりカーテンが開いて、

アサちゃんは僕の前で胸をグッと張って見せた。

「どうよ」

自慢できるほどのもんじゃないだろう。

「タオルぐらい巻きなよ」

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