麻子3

監禁されたような気分だ。

僕は何気なく部屋の片づけをはじめた。

いわゆる洋服の類は、下着も含めて

浴室にあったカゴに放り込んだ。

そして、しばしの熟慮のあと洗濯機を回した。

明らかなゴミはビニール袋に入れ、

判別不明なものは部屋のスミに置いた。

それ以外の物は、何となく収まりそうな場所に置いてみた。

辺りはもう暗くなっている。

お腹がすいてきた。

どういうわけか、

麻子の部屋には食べ物と呼べるものが一つもなかった。

あったのは、スナック菓子の残骸ぐらい。

誰かが部屋を覗いている。

「おい、今日は休みか」

若い女性の声。

次の瞬間ドアが開いた。

ボサボサ髪に眼鏡をかけ、作業服を着た女性が僕を見ている。

「親戚の人」

「そんなもんです」

「そうか」

作業服の女性はずかずかと上がり込んできた。

「麻子は仕事」

「そうだよな」

女性はそう言いながら、部屋の様子を見ている。

「あたしは、隣の部屋に住んでいるヨーコ」

「麻子とは幼馴染だ」

女性はいつの間にか、僕の前に座り込んでいる。

「あの、ここに少しいてもらっていいですか」

「いいけど、どうしてだ」

「コンビニに行きたいので」

「腹減っちゃって」

女性は持っていたリュックの中をごそごそしている。

「腹減ってるなら、これを食え」

女性が僕に向かって何かを投げた。

「コッペパン」

「美味いぞ」

僕はビニールを破って、コッペパンにかぶりつく。

「うまいだろう」

「はい」

ヨーコさんは僕を見て笑っている。

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