麻子2

「ねえ、シュン君。アパート捜してるでしょう」

家賃滞納で部屋を追い出されそうになっている

僕のことを見透かしているように麻子が僕に言う。

「いいところがあるの」

麻子に手を引かれて辿り着いたのは、

懐かしい麻子の町工場だった。

「この辺は変わってないね」

「不思議とね」

麻子はそう言いながら、工場の外階段を登っていく。

そうだ、2階は従業員のアパートになっていた。

開け放たれたアパートの部屋に

僕と麻子は入り込んで遊んでいた。

昼時には、お兄さんやお姉さんが戻ってきてにぎやかになる。

エアコンもなかったのに、部屋の中は涼しかった。

今では考えられない、おおらかで自由な時代。

麻子は2階の廊下の一番手前の部屋を開けた。

「ここなの」

さすがに、鍵は閉めてあるようだ。

「ここ空き部屋じゃないよね」

部屋の中はいろんなものが散乱している。

「空き部屋じゃないよ。あたしの部屋だから」

麻子が僕を見て笑っている。

「あたしの部屋じゃダメ」

「でも…」

僕が言葉を探している。

「ルームシェアだよ」

ルームシェだって。そうはいっても、

この部屋にはルームシェアできる要素が一つもない。

麻子は、部屋の中の物を拾いはじめた。

僕も何となく片付けをはじめる。

しばらくし麻子は服を脱ぎはじめた。

「おい、何してる」

「着替えるんだよ」

麻子が拾ってたのはこれから着る洋服だった。

「どう、いい女になったでしょ」

下着姿のまま、麻子が僕の方を向いてくるりとまわった。

「シュン君は、あたしのすべてを知ってるんだよ」

「だって、あの頃はまだ子どもじゃないか」

「そうだとしても」

着替え終わった麻子が、僕に近づいてくる。

「これから仕事なの」

「ここにいて。もうここはあなたの部屋だから」

麻子は、バッグを拾い上げると部屋から出て行った。

僕を一人残して。

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